やつれたドクロは今日も気苦労

#5 茶狸とエリート

　「俺、実は⸺」
「おいツルツル！」

なにやら暗い過去を語り始めたであろうクロマルの声を無視し、誰かが休憩室の外から別の誰かを呼んでいる。

「…すみません先輩、あとで聞かせてください」

カラスマはそう言って席を立つ。

「なんだ、チャシチ」

カラスマの声に、同僚のチャシチはピクッと耳を動かした。

「チャシチさん、だろ？立場を弁わきまえろツルツル」
「さっきからツルツルって…」
「間違ったことは言ってないだろ？ツルツル頭なんだしよ」

カラスマが珍しく口答えしたからか、チャシチの語気は強くなっていく。プライドが高く鼻につくやつだが、社内人気1番のイケメンかつ営業成績2位のエリートである彼を怒らせることにメリットはない。カラスマは適当に謝って場を収める。

「クロダヌキとツルツルで、お似合いのコンビだな！」

へらへらとした態度も彼の気に食わなかったようで、更に気を悪くしたチャシチはそう悪態をついて去っていった。

「クロダヌキ…？お似合い…？」

カラスマは心底不思議であるという顔をする。クロマルは営業成績トップの超絶エリートのはず。それにチャシチは人を見下す癖はあれど格上に喧嘩を売るような奴ではない。それなのに、“クロダヌキ”と来たもんだ。

「あー…まあ、それには事情がね」

カラスマの考えていることを察したのかクロマルはそう言った。そして休憩室のイスに座ったまま、手招きする。呼ばれるままにイスに腰掛けたカラスマに、クロマルは今度こそ過去を語る。