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目標が定まったのならば進撃のみ
出来なくともあなたの愛があればいい
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ジュリアンは自分が着ているスーツの来歴を語ろうとして、そこでぶふっと大笑いをし始めた。
俺は彼が無邪気に笑う様にただただ魅了されて見つめるしか出来ず、散々にジュリアンを扱き下ろそうとしていたベイルこそジュリアンの笑う姿に魂を奪われたようにして呆けている。
彼はどうしてこんなにも幸せそうなんだろう?
「あの、一体何があったのですか?」
「ふふ。おやおやおや、だったよ。あのね、君の混乱メールのお陰で、俺の間抜けな家族、義理の弟と大事な妹が飛んできたんだよ。」
俺は腹の底がすっと冷えた。
確かに俺はダンにジュリアンが大怪我をしたと伝えていた。
俺は大事なジュリアンに怪我をさせたことを、誰かに罵倒されたかったのかもしれない。
けれど、結果は家族がジュリアンを迎えに来ただけであり、その他大勢の俺は詰られる事もなしに、ジュリアンは彼らと一緒に家に帰るという事なのだ。
「ごめんね、メイヤー。」
「いえ、いいです。」
「でもさ、過労なんて言っちゃったからさ、ダンったら、自分の着ていたスーツを俺に投げてね、メイヤーとホテルに行けってさ。君が解剖された蛙みたいな状態って言った方が良かったかな?ねえ?アロイスはホテルでそんなことが出来る状態じゃ無いものねぇ。腰なんか振ったら内臓が飛び出ちゃうよね。」
ベイルは解剖された蛙の部分で吹き出して笑い転げ始めたが、俺は頭の中でハレルヤが流れ出していた。
ダンがジュリアンと俺を認めたところが嬉しいのではない。
笑顔のジュリアンが俺の名前を当たり前のようにして口にしたからだ。
俺の右頬にジュリアンの左手が添えられた。
「俺が意地悪だったかな?君が泣いている。」
「あ、あなたが、俺の名前を呼んでくれたからです。」
「君は!俺を抱いた時よりも俺に名前を呼ばれる方が嬉しいのか!」
俺は彼の手をぎゅうと掴み、彼の手の中にもっと自分を入れ込みたいと顔を押し付けた。
「俺はあなたには愛しかない。」
ジュリアンの顔が俺の顔の方へと降りてきて、彼の唇は俺の涙を流しばかりの頬を吸い、そして俺の唇に軽く口づけられた。
「だから俺は君を愛してしまったんだろうね。君は俺に与えるばかりだから。」
「ジュリアン。ホテルに行きましょう。俺は内臓が飛び出してもあなたを抱きたい。」
ジュリアンは俺にフフッと笑った。
「俺は内臓塗れでやる趣味は無いから。ちゃんと治そうな?」
「あの、……すいません。」
「いいよ。アロイス。俺は君を愛してしまったのだから、君は俺の為に簡単に死んじゃいけなくなったんだよ。よぼよぼのじいさんになっても俺に奉仕し続けなきゃいけないんだ。」
「ジュリアン。ええ、何でも奉仕します。」
「そう、取りあえず俺も君に仕返ししたい。ここには道具もあるし、君の尿道にカテーテル 挿入していい?」
「いや、あの、待ってください!」
ベイルの笑い声はさらに大きくなったが、俺はベイルを詰る口など持っていなかった。
なぜならば、俺の唇は柔らかくて優しい唇に塞がれていたからだ。
俺の名を呼んでくれた最愛の人の唇が。
本気でカテーテルを 挿入す事などない(たぶん)、天使のように優しい(はずの)彼の唇が。
俺は彼が無邪気に笑う様にただただ魅了されて見つめるしか出来ず、散々にジュリアンを扱き下ろそうとしていたベイルこそジュリアンの笑う姿に魂を奪われたようにして呆けている。
彼はどうしてこんなにも幸せそうなんだろう?
「あの、一体何があったのですか?」
「ふふ。おやおやおや、だったよ。あのね、君の混乱メールのお陰で、俺の間抜けな家族、義理の弟と大事な妹が飛んできたんだよ。」
俺は腹の底がすっと冷えた。
確かに俺はダンにジュリアンが大怪我をしたと伝えていた。
俺は大事なジュリアンに怪我をさせたことを、誰かに罵倒されたかったのかもしれない。
けれど、結果は家族がジュリアンを迎えに来ただけであり、その他大勢の俺は詰られる事もなしに、ジュリアンは彼らと一緒に家に帰るという事なのだ。
「ごめんね、メイヤー。」
「いえ、いいです。」
「でもさ、過労なんて言っちゃったからさ、ダンったら、自分の着ていたスーツを俺に投げてね、メイヤーとホテルに行けってさ。君が解剖された蛙みたいな状態って言った方が良かったかな?ねえ?アロイスはホテルでそんなことが出来る状態じゃ無いものねぇ。腰なんか振ったら内臓が飛び出ちゃうよね。」
ベイルは解剖された蛙の部分で吹き出して笑い転げ始めたが、俺は頭の中でハレルヤが流れ出していた。
ダンがジュリアンと俺を認めたところが嬉しいのではない。
笑顔のジュリアンが俺の名前を当たり前のようにして口にしたからだ。
俺の右頬にジュリアンの左手が添えられた。
「俺が意地悪だったかな?君が泣いている。」
「あ、あなたが、俺の名前を呼んでくれたからです。」
「君は!俺を抱いた時よりも俺に名前を呼ばれる方が嬉しいのか!」
俺は彼の手をぎゅうと掴み、彼の手の中にもっと自分を入れ込みたいと顔を押し付けた。
「俺はあなたには愛しかない。」
ジュリアンの顔が俺の顔の方へと降りてきて、彼の唇は俺の涙を流しばかりの頬を吸い、そして俺の唇に軽く口づけられた。
「だから俺は君を愛してしまったんだろうね。君は俺に与えるばかりだから。」
「ジュリアン。ホテルに行きましょう。俺は内臓が飛び出してもあなたを抱きたい。」
ジュリアンは俺にフフッと笑った。
「俺は内臓塗れでやる趣味は無いから。ちゃんと治そうな?」
「あの、……すいません。」
「いいよ。アロイス。俺は君を愛してしまったのだから、君は俺の為に簡単に死んじゃいけなくなったんだよ。よぼよぼのじいさんになっても俺に奉仕し続けなきゃいけないんだ。」
「ジュリアン。ええ、何でも奉仕します。」
「そう、取りあえず俺も君に仕返ししたい。ここには道具もあるし、君の尿道にカテーテル 挿入していい?」
「いや、あの、待ってください!」
ベイルの笑い声はさらに大きくなったが、俺はベイルを詰る口など持っていなかった。
なぜならば、俺の唇は柔らかくて優しい唇に塞がれていたからだ。
俺の名を呼んでくれた最愛の人の唇が。
本気でカテーテルを 挿入す事などない(たぶん)、天使のように優しい(はずの)彼の唇が。
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