愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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目標が定まったのならば進撃のみ

英断なる撤退と再戦準備

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 俺はキスを深めながらいやらしくも服を剥ぎ取って行き、指が入り込める場所には指が触手か蛇に変化した様にして潜り込んでいった。
 俺は思う存分にティナの身体を探索し、探索した事で彼女のその青い肉体に自分こそが追い立てられるという有様だった。
 ゆっくりとスピードを落とすべきだと思ったが、自分の頭は時間がたつごとに赤い靄で覆われて、考えるという意識さえ保てなくなってもいるようだ。

 だが、俺のキスを受けて悩ましく体をくねらせてもいる彼女は、まだ十八歳であり、大学にこれから通わねばいけない若者なのだ。

 望まない妊娠で彼女の人生を破壊したらどうなるのか。

 俺は気力を振り絞り、ティナの身体をまさぐっていた手を何とか彼女から剥がし、そしてその手をベッドサイドテーブルの引き出しに伸ばしたのである。
 引き出しを引いて中の避妊具を取り出そうとして指先を潜り込ませていたが、俺はこの引き出しに避妊具を何年前に入れていたのかと記憶を手繰られる方が早かった。

「使わないのに入れるわけ無いだろ。何を当たり前のようにまさぐってんのかな、俺の手は。畜生。今日の机の上の色々を持ち帰って来ればよかったよ。」

「だ、ダン?」

 急にキスを止めたどころかぼやき始めた俺にティナは目をぱちくりさせていたが、初夜の準備どころか計画性皆無の間抜けな花婿は目がしらに手を当てて嘆くしかない。

「ダン。何があったの?」

「何も無いんだよ。」

「え?」

 俺はベッドから身を起こすとティナから離れ、クローゼットへと向かった。

「ダン。あ、あの、どうしたの?」

「どうもこうもね。買い物に行ってくる。」

 少々ぶっきらぼうな声が出てしまったが、俺は物凄く追い立てられた欲求を抱えている状態なのだ。

「あ、私も一緒に。」

 ティナは俺を追いかけるようにして起き上がり、俺はそんなティナを押さえつけると毛布を彼女に巻きつけて彼女をミノムシに状態に仕上げた。

「ダン?」

「避妊具を買ってくるだけだから、君は布団の中で待っていてくれるかな。で、俺が戻ってきたら俺不在の十数分間を無かったことにして続けてくれる?」

 俺の可愛いミノムシは耳まで真っ赤に染まってしまったが、俺の言う通りにしてくれると頷いた。

「じゃあ、行ってくる。」

「ええ、でも、あの、兄さんは持っていないの?」

「あいつの部屋をひっくり返すよりも買って来た方が早いでしょ。」

「あ、ああ、そうね。」

 俺を愛していると告白した男のものを使い、その男以外の人間と愛を交わす、そんなのはいくら鈍感でデリカシーの無い俺でもできやしない。
 俺はティナの頬に軽いキスをすると、アパルトメントから一番近いコンビニへの地図を頭に描いた。

「あの、今日は無くっても。ええと、中に出さないんだったら、あの。」

 ティナによる突然の奇襲に、俺の頭の中の地図はホワイトアウトした。

 頭が働かなくなったその代わりとして、俺の心の中の悪魔はティナの言葉に甘えて突き進めと叫び、俺の心の中の天使は彼女の希望を叶えてやれと俺を説得してきた。
 双方俺自身でしかないので、このまま続行すればいいじゃないか、という俺の本音しか喋りやしないだけの話だ。
 しかし、良心でも悪心でもない、ティナを愛している俺の純粋な部分が、この子は最後までを本当に望んでいるのか、と、俺に囁いても来たのである。
 俺の中で弾けている花火が、その自問によって一斉に消火されたように感じた。

「ははは。ごめん。そうだね、今日は抱き合うだけにして、最後までしなくても、いいか。」

「いえ、あの。ああ、行ってらっしゃい!」

 最後は叫ぶように言うと、ティナはミノムシではなく繭になって完全に俺の視界から消えた。
 俺は繭となった可愛い妻を抱き締めて、耳元と言えるところに囁いた。

「すぐに帰ってくるよ。最高の、君。」

 俺は駆り立てられたそのまま弾丸のように部屋を飛び出して、そして乱雑になった居間で俺の足は何かに引っ掛かり、そこで俺は大きく転んだ。
 大柄な俺が転んだのだから、かなり大きな音がしたはずだろう。

「ダン!何があったの!」

 毛布にくるまれた格好で俺の部屋からティナは飛び出してきた。
 彼女は転んでいた俺に覆いかぶさった。
 うわあ!
 俺の心が叫んだのは、ティナが屈んだ事で綺麗な白いふくらみの全貌が見渡せてしまったからだ。

「ダン!大丈夫?立てないの?」

 ハハハ、 勃起ちまくって立てないよ。
 自分は本気で情けないなと、自分を転ばせた何かを憎しみを込めて睨んだ。

「ああ!畜生!」

「ダン!」

 俺は大笑いしながら体を起こすと、ティナをその腕に引き寄せて抱き締めていた。
 俺のせいで冷めてしまった体を、もう一度燃え盛らせられるようにと、俺はキスを深めた。

 俺の足首に絡まっているのは紙袋の持ち手だ。
 その紙袋の中には、見覚えのありすぎる品が、部下達からの祝いの品が、満杯に詰まっているじゃあないか。

「俺達の進撃を妨げるものはもはや何もないよ。」
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