愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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目標が定まったのならば進撃のみ

獣のように自宅を目指す

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 似合わない!

 病院からダンと私は手を繋いで自宅に帰ることになったが、ダンとジュリアンが病院内で服の取り換えを行ってしまったので、ダンは似合わない真っ赤な地に真っ黒な蝶々や悪趣味な薔薇の絵が描かれているキモノローブなるものを纏っている。

 私はその時の二人に声をかけるべきだったかもしれない。

 ホテルに泊まるつもりのダンの着替え鞄がホテルにあるのでは無くて?と。

 でも、黙っていた。
 見慣れた兄の全裸に周囲の人達が眼福だと目を輝かせていたからではない。
 私は、私の夫となったダンの裸に見惚れていたのだ。

 ダンは家にいれば普段着がラフパンツにTシャツ姿ばかりでもあるが、私の前で風呂上がりでも裸に近い格好でふらふらなんてした事は無いという、兄と比べれば聖人ともいえる嗜みのある人なのだ。
 そんな彼が次々に服を脱いでいくのである。

 あら、まあ、あららら、である。

 私の頭にあった全裸で抱き合うモデルの写真の男性部分がかなり修整され、その画像は目にしたダンの引き締まった体に完全に置き換えられている。

「笑い過ぎだよ、君。」

「あら、だって。あなたは兄以上に素敵な人なのに、その兄のローブがとってもちぐはぐに見えて。不思議ね。あなたの顔だって秀でた額にって、とっても貴公子的なのにね。」

 まあ!ダンは真っ赤になってしまった。
 耳まで真っ赤に染めて、恥ずかしそうに照れるなんて!
 私が引き起こした彼の変化が楽しくて、私は彼の腕に自分の腕を絡めた。

「ああ!」

「あら、ごめんなさい。い、いや、だった?」

 手を引こうとして、しかし、ダンに絡めていた腕はダンが腕を締め付けた事で逃げられなくなった。

「ダン?」

「悪い。俺は君に触れられると電気が走ったみたいになるんだ。嬉しい、どっきり、きゅん?とにかくびくりとしてしまう。」

「わ、私こそもよ!でも、あなたが触れたところはぜんぶ、ぜんぶ、なんだか温かくて、ええ、いつだってとっても幸せな気持ちになるのよ。って、きゃあ!」

 私は旗の気持ちがわかりそうだった。
 つまり、ダンが私を私が旗のようにはためいてしまうんじゃないかというぐらいの勢いで引っ張り、ほとんど誘拐に見えるぐらいの乱暴さでタクシーに押し込んでしまったのである。

「急ぐぞ。俺は君を今すぐ抱きしめたい。」

 そう言うや彼は私の頭を乱暴に両手で押さえつけ、……私は何もかも消えた様な感じとなった。
 私は彼の口づけによって雷に打たれ、彼に塞がれた唇と口中と、そして、優しく撫でつけられる頭皮や髪の毛にしか感覚を持ちえなくなったのだ。

 いえ、私の両腕はちゃんとわかっている。

 ダンの背中を、髪の毛をまさぐり撫でつけ、もっと彼を自分へと引き込もうと勝手に動いている。
 ああ、彼の背中は固いけれどなんて温かいの。
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