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クールダウン?もうひとっ走り?
愛する人の為に?
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メイヤーが警察も救急も必要ないと言い張った通り、メイヤーは実家が抱えるセキュリティを呼び寄せると、俺達を襲ったラフォン家出身というだけの不幸な青年を引き取らせた。
そして、残った二名の私兵は、俺とメイヤーに簡単な応急手当てをすると、俺達をメイヤーの車に乗せ込んだのである。
どうやら、絶対に事件を公にしたくないと意固地になっているお坊ちゃまの為に、彼等の運転によって俺達は救急外来に運んでもらえるらしい。
「君の怪我は今すぐに救急車で運ばれるべきだと思うのだけどね。」
「救急車ではあなたの膝枕を望めませんから。」
「君は、全く。」
運転席と助手席に納まったメイヤーの私兵は、俺の居心地が悪くなるほどに俺をルームミラー越しに何度も見つめている。
俺はその鬱陶しさにメイヤーに当たることにした。
「すごいな。君の実家は私兵と呼べる軍団も持っているんだね。」
「ええ、親父が。俺はただの男です。後始末も出来ない情けない男なんですよ。」
ほんの数分前まで張りぼてでも自信一杯の男を演じてメイヤーだというのに、今は小学生のように不貞腐れて落ち込んでいるとはどういうことだ。
もしかして、彼は欲しいのだろうか?
君がどんなに情けなくとも愛している、という言葉が。
俺は自分の膝に頭を乗せて転がっている青年がとても愛おしくなり、彼の形の良い額をそっと撫でようとした。
「ジュリアン!あなたも怪我をしているじゃないか!」
「はい?」
俺はジュリアンを撫でようとした右手を見返し、今や簡単な包帯が巻かれているが、その下には殆ど血は止まっているがぱっくりと開いている切り傷があったと思い出した。
「ああ、忘れていた。君の方が大怪我だったからね。」
「何を言っているのです!ああ!俺はあなたを守れなかった!」
メイヤーは大怪我の癖にがばっと身を起こし、その勢いのまま助手席の男へと右手を伸ばした。
「通信機を!早く!俺はダンに謝らなきゃいけない!それで、お前らは警察に捕まってもいいからスピードアップしてくれ!ジュリアンの傷口が悪化したらどうするんだ!」
助手席の男はメイヤーに通信機を渡しながら、俺に目線を寄こしながら左の片眉をあげて見せた。
メイヤーの親世代ほどの年齢の男であり、メイヤーが呼び出した私兵の隊長のような人物だと俺は考えている。
灰色の癖毛はそれなりのサロンで整えられたものであり、また、無精ひげともいえる髭だって計算されて生やされているような生え方だ。
そいつが水色の瞳で俺を何度もあからさまなぐらいにじろじろと見つめ、自分の王子が懸想するのに俺が値するのか煩く測っているのだ。
俺は今後のメイヤーの為に、王様然とした仕草で、俺がこの世で一番なのは当たり前だろう、という風な笑顔を見せてやった。
おやおやおや。
強面の親父様が真っ赤になったぞ。
そして、残った二名の私兵は、俺とメイヤーに簡単な応急手当てをすると、俺達をメイヤーの車に乗せ込んだのである。
どうやら、絶対に事件を公にしたくないと意固地になっているお坊ちゃまの為に、彼等の運転によって俺達は救急外来に運んでもらえるらしい。
「君の怪我は今すぐに救急車で運ばれるべきだと思うのだけどね。」
「救急車ではあなたの膝枕を望めませんから。」
「君は、全く。」
運転席と助手席に納まったメイヤーの私兵は、俺の居心地が悪くなるほどに俺をルームミラー越しに何度も見つめている。
俺はその鬱陶しさにメイヤーに当たることにした。
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もしかして、彼は欲しいのだろうか?
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「はい?」
俺はジュリアンを撫でようとした右手を見返し、今や簡単な包帯が巻かれているが、その下には殆ど血は止まっているがぱっくりと開いている切り傷があったと思い出した。
「ああ、忘れていた。君の方が大怪我だったからね。」
「何を言っているのです!ああ!俺はあなたを守れなかった!」
メイヤーは大怪我の癖にがばっと身を起こし、その勢いのまま助手席の男へと右手を伸ばした。
「通信機を!早く!俺はダンに謝らなきゃいけない!それで、お前らは警察に捕まってもいいからスピードアップしてくれ!ジュリアンの傷口が悪化したらどうするんだ!」
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そいつが水色の瞳で俺を何度もあからさまなぐらいにじろじろと見つめ、自分の王子が懸想するのに俺が値するのか煩く測っているのだ。
俺は今後のメイヤーの為に、王様然とした仕草で、俺がこの世で一番なのは当たり前だろう、という風な笑顔を見せてやった。
おやおやおや。
強面の親父様が真っ赤になったぞ。
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