愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

蔵前

文字の大きさ
上 下
77 / 87
クールダウン?もうひとっ走り?

愛する人の為に?

しおりを挟む
 メイヤーが警察も救急も必要ないと言い張った通り、メイヤーは実家が抱えるセキュリティを呼び寄せると、俺達を襲ったラフォン家出身というだけの不幸な青年を引き取らせた。
 そして、残った二名の私兵は、俺とメイヤーに簡単な応急手当てをすると、俺達をメイヤーの車に乗せ込んだのである。
 どうやら、絶対に事件を公にしたくないと意固地になっているお坊ちゃまの為に、彼等の運転によって俺達は救急外来に運んでもらえるらしい。

「君の怪我は今すぐに救急車で運ばれるべきだと思うのだけどね。」

「救急車ではあなたの膝枕を望めませんから。」

「君は、全く。」

 運転席と助手席に納まったメイヤーの私兵は、俺の居心地が悪くなるほどに俺をルームミラー越しに何度も見つめている。
 俺はその鬱陶しさにメイヤーに当たることにした。

「すごいな。君の実家は私兵と呼べる軍団も持っているんだね。」

「ええ、親父が。俺はただの男です。後始末も出来ない情けない男なんですよ。」

 ほんの数分前まで張りぼてでも自信一杯の男を演じてメイヤーだというのに、今は小学生のように不貞腐れて落ち込んでいるとはどういうことだ。
 もしかして、彼は欲しいのだろうか?
 君がどんなに情けなくとも愛している、という言葉が。
 俺は自分の膝に頭を乗せて転がっている青年がとても愛おしくなり、彼の形の良い額をそっと撫でようとした。

「ジュリアン!あなたも怪我をしているじゃないか!」

「はい?」

 俺はジュリアンを撫でようとした右手を見返し、今や簡単な包帯が巻かれているが、その下には殆ど血は止まっているがぱっくりと開いている切り傷があったと思い出した。

「ああ、忘れていた。君の方が大怪我だったからね。」

「何を言っているのです!ああ!俺はあなたを守れなかった!」

 メイヤーは大怪我の癖にがばっと身を起こし、その勢いのまま助手席の男へと右手を伸ばした。

「通信機を!早く!俺はダンに謝らなきゃいけない!それで、お前らは警察に捕まってもいいからスピードアップしてくれ!ジュリアンの傷口が悪化したらどうするんだ!」

 助手席の男はメイヤーに通信機を渡しながら、俺に目線を寄こしながら左の片眉をあげて見せた。
 メイヤーの親世代ほどの年齢の男であり、メイヤーが呼び出した私兵の隊長のような人物だと俺は考えている。
 灰色の癖毛はそれなりのサロンで整えられたものであり、また、無精ひげともいえる髭だって計算されて生やされているような生え方だ。
 そいつが水色の瞳で俺を何度もあからさまなぐらいにじろじろと見つめ、自分の王子が懸想するのに俺が値するのか煩く測っているのだ。

 俺は今後のメイヤーの為に、王様然とした仕草で、俺がこの世で一番なのは当たり前だろう、という風な笑顔を見せてやった。

 おやおやおや。
 強面の親父様が真っ赤になったぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...