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さあ、一緒に走り抜けよう
闖入者
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メイヤーは本当に働き者だ。
俺が零れた掃除機を探し始めるや、俺を抱き締めてソファに転がした。
そこで俺の腰が抜ける様な深いキスを与えた後、彼は俺の耳に囁いたのだ。
「ダンにできることは俺にもできます。あなたはここでナマケモノをしていてください。俺の為に。」
「――俺はそんなに無能?俺も君に何かしたいのに。大体さ、片付けならダンとティナに任せたらどうだい?君は今日彼らの為に一肌脱いだのだし。」
メイヤーはハハハと青年らしい明るい笑い声を立てると、俺の頬にぶちゅっという彼らしくないキスをした。
「ハハハ。悪魔だ!あなたは!そうですね、では、俺達はあなたが提案したフォンデュ大会でもしますか?」
「いいね。チョコレート塗れの君は美味しそうだ。」
「うわ、最高だ!早速用意します!」
彼はぴょんという風に俺の上から降りると、俺が台無しにしたキッチンへと歩いて行った。
ピンポーン。
「おや?宅配かな?」
「宅配ですか?何か頼みました?」
「俺は何も。でもね、ティナたちはよく配送サービスを頼んでいるんだ。」
手元のリモコンで操作をすれば、テレビモニターにアパルトメントのエントランスの映像が呼び出され、その彼は最近できた高級食材店の制服を着ていた。
真っ白いシャツと黒のストレートパンツに、薄茶色にグリーンのラインが入った胸当てのあるエプロンを締め、頭にはエプロンとお揃いのデザインのギャリソンキャップを被っているというものである。
顔を上げた店員はまだメイヤーぐらいの若さで、ミルクティー色の髪に緑色の瞳の組み合わせという俺の忘れたかった誰かを思い出させた。
「ココスランドから来ました。」
「ああ、そう。鍵を開けたから上がっておいで。」
俺は玄関ドアを開けなければと、ソファを立ち上がった。
「ジュリアン。俺が。」
「ココスランドからの配送だよ。受け取るぐらい出来るますよ。」
俺は玄関ドアに向かい、その扉を開けたそこで銀色に光る何かを見た。
俺はその銀色のものから咄嗟に右手で自分を庇った。
右の手の平に熱い痛みを感じたそこで、二振り目も来ると、それを交わす事が出来ないと思ったが、気が付けば俺は大きく横に転がされていた。
俺を転がせたのはメイヤーで、そのメイヤーは、俺が受けるべき刃を受けて胸を横に大きく切り裂かれて血を滴らせていた。
「メイヤー!」
メイヤーは切り裂かれた場所を左手で押さえていたが、倒れているどころか敵が一歩でも動けばこのまま息の根を止めるという殺気を燃え立たせている。
俺を庇うために俺の前に仁王立ちしているのだ。
そして、玄関口を塞ぐようにして立つ若い男は、スーパーの配送品どころか、大きなサバイバルナイフを握りしめて肩で息をしていた。
はあ、はあ、と。
「お、おおお、おまえたちのせいでえええ!」
メイヤーの舌打ちが聞こえた。
俺もそんな気持ちだ。
犯罪行為をする勢いづけか、麻薬か深酒をしている相手のようなのだ。
狂犬のようにナイフを振り回す相手に気軽に近づけるものではなく、また、この男が玄関口にいるためにインターフォンと設置されているセキュリティボタンも押す事も出来ない。
あれを押せれば警備会社に直に連絡が飛ぶというのに。
俺は立ち上がるとキッチンへと走った。
メイヤーが敵を威圧している今しか動けないし、薬か何かで理性が飛んでいる相手では説得など聞かないだろうからだ。
俺はオレンジをいくつか取り出し、それから適当に台所にあったナイフを一本引き出した。
「敵を撃退するのにオレンジの投擲と包丁か。訓練された兵士が、まったく。」
俺が零れた掃除機を探し始めるや、俺を抱き締めてソファに転がした。
そこで俺の腰が抜ける様な深いキスを与えた後、彼は俺の耳に囁いたのだ。
「ダンにできることは俺にもできます。あなたはここでナマケモノをしていてください。俺の為に。」
「――俺はそんなに無能?俺も君に何かしたいのに。大体さ、片付けならダンとティナに任せたらどうだい?君は今日彼らの為に一肌脱いだのだし。」
メイヤーはハハハと青年らしい明るい笑い声を立てると、俺の頬にぶちゅっという彼らしくないキスをした。
「ハハハ。悪魔だ!あなたは!そうですね、では、俺達はあなたが提案したフォンデュ大会でもしますか?」
「いいね。チョコレート塗れの君は美味しそうだ。」
「うわ、最高だ!早速用意します!」
彼はぴょんという風に俺の上から降りると、俺が台無しにしたキッチンへと歩いて行った。
ピンポーン。
「おや?宅配かな?」
「宅配ですか?何か頼みました?」
「俺は何も。でもね、ティナたちはよく配送サービスを頼んでいるんだ。」
手元のリモコンで操作をすれば、テレビモニターにアパルトメントのエントランスの映像が呼び出され、その彼は最近できた高級食材店の制服を着ていた。
真っ白いシャツと黒のストレートパンツに、薄茶色にグリーンのラインが入った胸当てのあるエプロンを締め、頭にはエプロンとお揃いのデザインのギャリソンキャップを被っているというものである。
顔を上げた店員はまだメイヤーぐらいの若さで、ミルクティー色の髪に緑色の瞳の組み合わせという俺の忘れたかった誰かを思い出させた。
「ココスランドから来ました。」
「ああ、そう。鍵を開けたから上がっておいで。」
俺は玄関ドアを開けなければと、ソファを立ち上がった。
「ジュリアン。俺が。」
「ココスランドからの配送だよ。受け取るぐらい出来るますよ。」
俺は玄関ドアに向かい、その扉を開けたそこで銀色に光る何かを見た。
俺はその銀色のものから咄嗟に右手で自分を庇った。
右の手の平に熱い痛みを感じたそこで、二振り目も来ると、それを交わす事が出来ないと思ったが、気が付けば俺は大きく横に転がされていた。
俺を転がせたのはメイヤーで、そのメイヤーは、俺が受けるべき刃を受けて胸を横に大きく切り裂かれて血を滴らせていた。
「メイヤー!」
メイヤーは切り裂かれた場所を左手で押さえていたが、倒れているどころか敵が一歩でも動けばこのまま息の根を止めるという殺気を燃え立たせている。
俺を庇うために俺の前に仁王立ちしているのだ。
そして、玄関口を塞ぐようにして立つ若い男は、スーパーの配送品どころか、大きなサバイバルナイフを握りしめて肩で息をしていた。
はあ、はあ、と。
「お、おおお、おまえたちのせいでえええ!」
メイヤーの舌打ちが聞こえた。
俺もそんな気持ちだ。
犯罪行為をする勢いづけか、麻薬か深酒をしている相手のようなのだ。
狂犬のようにナイフを振り回す相手に気軽に近づけるものではなく、また、この男が玄関口にいるためにインターフォンと設置されているセキュリティボタンも押す事も出来ない。
あれを押せれば警備会社に直に連絡が飛ぶというのに。
俺は立ち上がるとキッチンへと走った。
メイヤーが敵を威圧している今しか動けないし、薬か何かで理性が飛んでいる相手では説得など聞かないだろうからだ。
俺はオレンジをいくつか取り出し、それから適当に台所にあったナイフを一本引き出した。
「敵を撃退するのにオレンジの投擲と包丁か。訓練された兵士が、まったく。」
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