愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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一人じゃ進めないからと手を伸ばした

一緒に?順番に?

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「はは。ごめん。君が可愛らしすぎて見つめてしまった。でもさ、君の気持ちが分かったよ。」

 分かったって、私があなたを愛しているって事を?
 こんなにも求めているってことを解ってくれたの?

「そ、それなら、良くってよ。」

 ダンはその素敵な顔をくしゃっと笑い顔にして私の心臓を止めると、彼に時間を止められてしまった私のところまでたった三歩ぐらいでやって来た。
 ダンは私を見下ろし、私を抱き上げようと手を伸ばした。
 が、私が手を伸ばした途端にその手をひっこめたのである。

「どうして?」

「はは。君の姿がしどけなさすぎて、俺は君に触れたら君を傷つけちゃいそうだ。」

――君を抱きたくても我慢するから。

 あなたは私に今までも欲情してくれていた?
 でも、ダンは私に絶対に手を出そうとしない。
 もしかしたら、ダンこそ私の心を測りかねていたのでは無いの?
 お兄様を愛していても、私の事だって同じぐらい愛しているかもしれないでしょう。
 ほら、世の中には男の人も女の人も両方を愛せる人がいるのだもの。

「あら。」

「どうしたの?」

「い、いいえ。」

 私はポカンとしてしまっていた。
 自分の思考が辿り着いた結論が、嫌と思うどころかすんなりと頭の中に嵌ってしまったのである。
 ダンが兄へのものと同じぐらい私を愛して欲情だってしてくれているって考えは、今までの三人の生活が変わらないで続いて行くような幻想だって生み出したのだ。

 兄の馬鹿みたいに大きなベッドに三人で微睡む……。

 幻想から発展した脳内映像が意外とリアルだったおかげなのか、私のピンク色の靄のかかった頭は少しすっきりした。

 すっきりどころか数秒前の自分が受け入れた答えを完全否定するぐらいの拒否反応まで出てしまっていた。
 ぷっつんときた私は、両手で自分の頭をわしゃわしゃとかきむしりながら大きく叫んでいたのだ。

「駄目だああああ!」

「ちょ、ちょっと。ティナ!やっぱりおかしいよ。君は一体どうしたの?」

 私は怖々とダンを見上げた。
 私の瞳に何かを見たのかダンは一瞬怯んだが、それでも私に微笑んでくれた彼の存在が素晴らしすぎて、そう、手放したくないという気持ちなだけだった。

「何でも言っていいんだよ、ティナ。」

「あの、私はあなたを愛しているの!ジュリアンをあなたが愛していても同じぐらい私を愛してくれているなら構わないの!でも、でも!ジュリアンのベッドに三人で寝たりは出来ないし、今日は私のベッドで明日は兄のベッドでなんてあなたを順番に取り合うのも嫌なの!どうしたらいいと思う!」

 私はとっても必死だったのに、ダンは答えてくれるどころか顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
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