愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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一人じゃ進めないからと手を伸ばした

俺はあなたの奴隷です

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 俺はダンを送り出すや彼の執務室に入った。

「メイヤー、どうした?」

「頼まれものだよ。」

 ダンに叱られて部屋を片付けている最中の同僚たちを尻目に、彼の席へと向かうと彼のパソコンを立ち上げた。

「メイヤー、何をしているの?」

「ああ、怒れるダン様に休暇を差し上げようと思ってね。」

「そんな事。」

「よし。これなら俺が処理できる。」

「君がって、君は単なる准尉でしょう?」

「ああ。准尉だけど情報統括の資格と権限はあるからね、日常業務ぐらいなら肩代わりできるよ。だから副官なんてしているわけで。」

 伊達に首席で卒業していないのだ。
 ジュリアンの傍にいるためには、と、彼と肩を並べるには、と、俺は出来うる限り日々研鑽しているのである。

「悪かったね。俺は副官だけど、そんな権限持ってなくて。」

「ですが俺はあなたの足元にも及びません。」

 俺はダンの副官のジョーンズ少尉に片眼を瞑って見せた。
 彼は宇宙そらでの戦争で片足を失っている老兵だ。
 そんなたたき上げの真っ当な兵士に喧嘩を売る必要はない。

「ハハハ。戦争が無い方が良いだろうが!まあ、いい。結婚したばかりの少佐に花嫁を抱ける時間を贈るのはいい考えだ。」

 ダンの部屋にいた彼の部下達はジョーンズの言葉によって部屋の片づけにこそ集中しだし、俺は友好的になった空気の中、ダンの残した日常業務の処理仕事に没頭する事が出来た。
 そして仕事は今の俺には慰めにもなった。
 自分の心に余裕が戻るぐらいに。

 たかがコーヒーでさえも、俺はジュリアンのことを知らなかったとダンに突き付けられ、さらにジュリアンがデモンズナイトを選んだ理由も知って打ちのめされていたのである。

 ダンとジュリアンの楽しい歴史が詰まった店で、ダンの結婚をぶちまけて大騒ぎしたのは、彼が本気でダンとの世界を壊そうとしていたということなのだ。
 ダンとの世界が壊れれば、ジュリアンこそ一人取り残されるだけだというのに。

 ジュリアンはダンに恋をしていながら、ダンとの未来を一つも考えていなかったという事実に俺は喜ぶどころか、胸が押しつぶされそうになっていた。

 俺は失敗したのだろう、と。

 世界が壊れて独りになった彼に寄り添い、それから俺を見てもらうという道があったはずなのに、急ぎ過ぎた俺は、その道を完全に潰してしまったとは。

 いや、本当にそうか?
 俺がここにいるのは、ジュリアンが俺に助けを求めたからだろう?
 
 そうだ、俺は仕事ができる。
 あっちもそれなりに得意だ。

 ジュリアンは今夜俺に慰めてもらいたいと言っていたし、俺との性行為を嫌だと言いながらも本気で逃げるそぶりも見せないじゃないか。

「一生のセフレもいいかもな。」

 考え事に対して思わず声まで出してしまったと、失敗したと思いながらモニターから顔を上げた。
 俺の真面目キャラが壊れたら仕事の上では面倒だ。
 ところがダンの部下は執務室には一人もおらず、俺は既に四時間は仕事に没頭していたようだと気が付いた。

「大した業務もないし、もういいかな。休み明けにアークロイドがてんてこ舞いする姿を拝むのも楽しそうだ。良し、帰ろう。」

 立ち上がりかけて、机の横に置きっぱなしの紙袋に気が付いた。

「わお!コンドームに一人エッチ用の玩具やらいろいろだ。」

 俺は紙袋を持ち上げた。
 慌てる乞食の俺には貰いが少ないのだ。
 これぐらの駄賃を貰うぐらいはいいだろう。
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