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泥まみれでも明日へと進むべき
不甲斐無い男
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メイヤーが帰るや否や、ダンが俺の部屋を覗いて来た。
その顔は妻にいい事が出来たという顔ではなく、家族旅行に連れて行ってもらえなくてお留守番な犬の顔である。
「どうしたの?」
「いや、別に。」
ダンはぶっきらぼうに答えると俺の部屋を出て行った。
俺は溜息を吐くとメイヤーから貰った服を脱ぎ捨て、もちろん下着もだが、自分の元々の下着に着替えた後はシルクのキモノローブを羽織った。
「さあ、恋愛相談のお兄さん、ジュリアン先生の出番ですよ。」
口にして溜息しか出なかった。
俺こそ恋愛相談どころか、ストーカー被害相談を誰かにしたいくらいだ。
たったの二日で、俺は百人の男に回されたぐらいに、体も心も疲れ切っているという有様なのだ。
ダンの部屋をノックすると、出迎えたダンの顔は情けなそうに落ち込んだままである。しかし、彼の部屋に現れた俺に対し、彼は俺の膝から下から力が抜ける様なほどの嬉しそうな顔をして見せた。
けれど、相談内容を聞いて俺は自室に戻ろうと踵を返した。
ティナの可愛らしさでディープキスがしたくなり、そんな自分を戒めるために額にキスだけして家に逃げ帰って来たのだという。
俺は彼らが相思相愛だと思ったから、一歩前に進ませるつもりで婚約話をぶち上げたのだが、その見立て自体が間違っていたというのだろうか?
家を出なきゃいけないと考えたから、もしかしての契約結婚?事情が変わったからと告白し合っての恋愛成就では無かったのか?
俺はごくりと唾を飲み込み、彼等が不幸にならないでこの絡み合った状況を修正できる案を急いで考えた。
みんなで住もうよ、これでいく。
「えー、結婚話が本当でもね、俺は結婚してもみんなしてここに住んでいいよって気持ちだよ。っていうか住んで欲しい希望です。未成年のティナは当たり前だし、君だって軍人生活で留守が多いんだ。ここに間借りしたままで良かったじゃ無いの。」
ダンは俺に相談していた癖に、俺に対して酷い呆れ顔をして見せた。
そして、俺を吹き出させる間抜けなセリフを吐いたのである。
「いや、ジュリアン。君はさ、好きな女とそこらじゅうでやりたいって思わないの?」
俺は吹き出したそのまま床に転がった。
ごろごろと、メイヤーにそこらじゅうでやられた俺は、ダンも同じカテゴリーの人間だったのかと殆ど泣き笑いで転がっていた。
「野獣だ!野獣がここにもいる!」
「ジュリアン!」
「君はさ、ハハ、そんな衝動的な君がそんな激しい行為をしているって噂一つ聞いた事はないけどさ、もしかして、経験が一つもない、のかな。」
俺はダンに軽く横腹を突く程度の軽さで蹴られた。
俺はわざと痛がって見せて仰向けになったのだが、なんと、ダンは跪いており、真面目な顔を俺に向けたまま俺の頭を両手で掴んだのだ。
頭突きでもするつもりか?
違った。
ダンは恋人にするような深いキスを俺にしてきたのだ。
君は俺を愛していたのか?
俺はダンにしがみ付き、彼のキスを受けながら彼をさらに自分に向き合わせたいと、このまま死んでも構わない程に彼にキスを深めた。
――突っ込んだこのまま死んでしまいたい!
ああ、メイヤー。
その通りだよ、その通りだね。
いつの間にか俺がダンの上にいて、ダンはいつの間にか仰向けで俺の下になっていた。
そして、ダンからは最初の情熱が消えてしまっている。
「どうした?動きが止まったぞ。」
「俺のプライドを粉々にしてくれてありがとう。俺は君に比べるとチェリーボーイでしかないって思い知りましたよ。教官。」
ぶはっ。
単なるキスの復讐ってだけだったのかと、俺は愛されていたと有頂天になった自分こそ恥ずかしいだけだと笑い飛ばすしかなくなった。
このまま泣き顔など見せることなどできやしない。
俺はダンの肩に顔を埋めた。
ダンはそんな馬鹿な俺を抱き締めただけでなく、俺の頭を優しく撫でた。
俺に振られたメイヤーは、俺に憎んで欲しいと何度も言った。
愛してもらえないなら、俺を憎んで欲しいと。
「ねえ、ダン。誰と付き合おうが、どんな快楽を得ようが、俺が抱いているのはそいつじゃないんだよ。君がティナに恋をしているならね、抱き締めな。抱きしめて、……その野獣ぶりで振られてこい。」
「ひどいな。だけどさ、振られたら君とこうやって慰め合うのもいいね。ただね、今は駄目だよ。俺にティナが脅えたら駄目でしょう。俺を受け入れられなかったらあの子の居場所が無くなる。あの子が俺を愛してくれるまで、俺はゆっくり待つよ。」
ティナはそれなりの財産があるし、大学寮に入るって手もあるから大丈夫だよ、と言いかけ、ダンこそティナを手放したくないだけなんだと気が付いた。
俺がダンを手放さないで済むように、三人の世界を作ったように、ダンは手に入らないのならば今の状態を壊したく無いのだ。
やっぱり、俺が動くしかないのか。
俺だって妹の幸せを望んでもいるのである。
その顔は妻にいい事が出来たという顔ではなく、家族旅行に連れて行ってもらえなくてお留守番な犬の顔である。
「どうしたの?」
「いや、別に。」
ダンはぶっきらぼうに答えると俺の部屋を出て行った。
俺は溜息を吐くとメイヤーから貰った服を脱ぎ捨て、もちろん下着もだが、自分の元々の下着に着替えた後はシルクのキモノローブを羽織った。
「さあ、恋愛相談のお兄さん、ジュリアン先生の出番ですよ。」
口にして溜息しか出なかった。
俺こそ恋愛相談どころか、ストーカー被害相談を誰かにしたいくらいだ。
たったの二日で、俺は百人の男に回されたぐらいに、体も心も疲れ切っているという有様なのだ。
ダンの部屋をノックすると、出迎えたダンの顔は情けなそうに落ち込んだままである。しかし、彼の部屋に現れた俺に対し、彼は俺の膝から下から力が抜ける様なほどの嬉しそうな顔をして見せた。
けれど、相談内容を聞いて俺は自室に戻ろうと踵を返した。
ティナの可愛らしさでディープキスがしたくなり、そんな自分を戒めるために額にキスだけして家に逃げ帰って来たのだという。
俺は彼らが相思相愛だと思ったから、一歩前に進ませるつもりで婚約話をぶち上げたのだが、その見立て自体が間違っていたというのだろうか?
家を出なきゃいけないと考えたから、もしかしての契約結婚?事情が変わったからと告白し合っての恋愛成就では無かったのか?
俺はごくりと唾を飲み込み、彼等が不幸にならないでこの絡み合った状況を修正できる案を急いで考えた。
みんなで住もうよ、これでいく。
「えー、結婚話が本当でもね、俺は結婚してもみんなしてここに住んでいいよって気持ちだよ。っていうか住んで欲しい希望です。未成年のティナは当たり前だし、君だって軍人生活で留守が多いんだ。ここに間借りしたままで良かったじゃ無いの。」
ダンは俺に相談していた癖に、俺に対して酷い呆れ顔をして見せた。
そして、俺を吹き出させる間抜けなセリフを吐いたのである。
「いや、ジュリアン。君はさ、好きな女とそこらじゅうでやりたいって思わないの?」
俺は吹き出したそのまま床に転がった。
ごろごろと、メイヤーにそこらじゅうでやられた俺は、ダンも同じカテゴリーの人間だったのかと殆ど泣き笑いで転がっていた。
「野獣だ!野獣がここにもいる!」
「ジュリアン!」
「君はさ、ハハ、そんな衝動的な君がそんな激しい行為をしているって噂一つ聞いた事はないけどさ、もしかして、経験が一つもない、のかな。」
俺はダンに軽く横腹を突く程度の軽さで蹴られた。
俺はわざと痛がって見せて仰向けになったのだが、なんと、ダンは跪いており、真面目な顔を俺に向けたまま俺の頭を両手で掴んだのだ。
頭突きでもするつもりか?
違った。
ダンは恋人にするような深いキスを俺にしてきたのだ。
君は俺を愛していたのか?
俺はダンにしがみ付き、彼のキスを受けながら彼をさらに自分に向き合わせたいと、このまま死んでも構わない程に彼にキスを深めた。
――突っ込んだこのまま死んでしまいたい!
ああ、メイヤー。
その通りだよ、その通りだね。
いつの間にか俺がダンの上にいて、ダンはいつの間にか仰向けで俺の下になっていた。
そして、ダンからは最初の情熱が消えてしまっている。
「どうした?動きが止まったぞ。」
「俺のプライドを粉々にしてくれてありがとう。俺は君に比べるとチェリーボーイでしかないって思い知りましたよ。教官。」
ぶはっ。
単なるキスの復讐ってだけだったのかと、俺は愛されていたと有頂天になった自分こそ恥ずかしいだけだと笑い飛ばすしかなくなった。
このまま泣き顔など見せることなどできやしない。
俺はダンの肩に顔を埋めた。
ダンはそんな馬鹿な俺を抱き締めただけでなく、俺の頭を優しく撫でた。
俺に振られたメイヤーは、俺に憎んで欲しいと何度も言った。
愛してもらえないなら、俺を憎んで欲しいと。
「ねえ、ダン。誰と付き合おうが、どんな快楽を得ようが、俺が抱いているのはそいつじゃないんだよ。君がティナに恋をしているならね、抱き締めな。抱きしめて、……その野獣ぶりで振られてこい。」
「ひどいな。だけどさ、振られたら君とこうやって慰め合うのもいいね。ただね、今は駄目だよ。俺にティナが脅えたら駄目でしょう。俺を受け入れられなかったらあの子の居場所が無くなる。あの子が俺を愛してくれるまで、俺はゆっくり待つよ。」
ティナはそれなりの財産があるし、大学寮に入るって手もあるから大丈夫だよ、と言いかけ、ダンこそティナを手放したくないだけなんだと気が付いた。
俺がダンを手放さないで済むように、三人の世界を作ったように、ダンは手に入らないのならば今の状態を壊したく無いのだ。
やっぱり、俺が動くしかないのか。
俺だって妹の幸せを望んでもいるのである。
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