愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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後退ばかりの愛される男

危険度を増した新妻

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 リビングのソファでだらけながらパットでニュースを読んでいた俺は、何気なく視界の隅で捕捉した敵映像で身体が固まった。

 俺という男の前におはようと現れたティナは、いつもの朝とは違ってTシャツではなくキャミソール、そして、長ズボンで無いどころかホットパンツとしか言えない丈のショートパンツだったのだ。

 彼女がいやらしいなんてことは無い。
 健康的でいかにも女子大生姿であるのに、発情期の犬のように喜んだ俺が助平なだけだ。
 こんなにも彼女は初々しくて爽やかなのに。

 そう、それなのに俺は、彼女の健康的な首筋から鎖骨を舐めたいと視線で舐めていたのだ。

 おい!ダン!
 お前の見守りって、ティナの身体の成長具合を見守ることじゃないだろう?

「お、おはよう!君も早いね!」

 俺は慌てながらソファから立ち上がり、いつでもティナから逃げられるように身構えた。
 俺が逃げなければ、俺が彼女を襲ってしまう!
 それなのにヒヨコ同然のティナは危険度が増している俺の前にトコトコと無防備に近づき、俺を上目遣いで、それも恥ずかしそうに見上げるという無邪気な凶悪攻撃を繰り出した。

「ええと、ダンは朝食はしちゃったかな?まだだったらお腹は空いている?」

 とってもハングリーで、今すぐ君を食べてしまいたいよ。

 俺の助平な視線を感じたのか、薄いニットキャミソールに乳首のぽっちがツンと浮き出た。
 え?ぽっち?
 ブ、ブブ、ブラジャーはどうした!

「あ、そそ、そうだね!ご飯だね。で、さ、さむくない?そんな格好。」

「え?さ、寒くないわよ。」

 嘘だ!乳首が勃ってるぞ!……なんて言えるわけ無い!

「俺が、め、飯を作る!」

 俺は勃ちたがりな場所を隠すために彼女に背を向け、集中できる得意料理の一つ、ティナの大好きなポーチドエッグにしようと台所に向かった。

「あ、ダン。私は何をすればいい?」

 振り向けば、ティナはエプロンをいち早く着けていた。
 胸当てのある真っ白でレース縁取りがあるエプロンは、彼女の胸のぽっちを俺から隠してくれたが、彼女のキャミソールやショートパンツまで無いものにしてくれるという神業まで披露してくれていた。

 ありがとう、エプロン。
 俺はこの光景は忘れない。

 じゃない!

「そのエプロンは俺にちょうだい。ポーチドエッグを作るから胸当てが欲しい。」

 ティナはくすくす笑いながら俺に自分が着けていたエプロンを手渡し、彼女は俺がいつもつけているカフェエプロンの方を腰に巻いた。

 さあ、落ち着け、俺。

 さあ、鍋に集中するのだ。

 俺は水が沸騰するのを一心不乱に無駄に見つめることとし、わが身の猛りを忘れるように無の境地へ行こうと試みたのである。
 そのかいがあり、湯が沸いて卵を落としたころには俺の心は平静に戻り、俺はいつものようにティナに声をかけられるところまで復活していた。

「皿を頼む。」

「まあ、素敵!私の大好きなポーチドエッグを作れるのはあなただけね。」

「では、墓石に刻んでくれ。最高のポーチドエッグを作れる男って。」

 いつもの軽口だったが、俺はティナがいつもと違う格好だったと忘れてた。
 彼女は俺を窘めるように肩をぶつけ、俺はいつものように彼女に自分をぶつけ返したが、俺の感じやすい肘は彼女の胸に当たっていた。
 いや、胸じゃ無かったはずだ。
 胸そのものじゃないけれど、胸のふくらみの解るところなだけだ。
 ノーブラだと分かる心地よい感触を感じられるところなだけだ。

 ……横乳は胸と一緒だろうが!

 胸に触っちゃったよ!

 俺の時間は止まり、呼吸もそこで止まった。
 エプロンをつけていてよかった。
 俺の時間が止まった理由をティナに知られる事は無い。
 そして、俺は親友に感謝もしていた。
 彼の丁度良い帰還は俺の失地回復に役に立つ。
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