愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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ストーカーは二歩ぐらい先に

抵抗を封じるもの

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「君はダンになったつもりは無いと言わなかったか?今更ダンに成り代わってみるのか?」

 俺はメイヤーの言葉にむっときた気持ちのままシーツから顔を上げており、尚且つメイヤーの目を見て睨みつけるという事までしていた。
 しかしメイヤーは俺と目が合ったと嬉しそうに破顔しただけだ。

「いやだなぁ。俺は俺のままですよ。俺のままあなたの望むように動くだけです。俺をアークロイド少佐と思って誤魔化してもいいですよって言っているだけです。俺はあなたに苦痛など与えたくないですから。」

「じゃあ、止めてくれないか?俺がダンにされたい事があってもね、あいつはきっとできないよ。あいつはキスが下手だった。君とは違う。」

「ああ、あれか。あれは失敗しました。あなたのキスが嬉しくて、俺は無意識に頑張ってしまった。あそこはあなたに翻弄された振りをしているべきでしたね。そうか、それであなたはさっきは俺のキスを拒んだんだ!俺のキスでアークロイド少佐とのつたないキスの味が忘れてしまうからと!」

 俺は完全にメイヤーに負かされた。
 彼が突きつけた真実を俺が彼に認めるわけは無い。
 そんな俺は彼に言ってしまうしかないのだ。

「この自信過剰が!そんなに自分のキスが上手いというならば、そのキスで俺をその気にさせてみればいいだろう?」

「ああ!あなたはどうしてそんなに可愛らしいのですか?」

 メイヤーは俺の手首から手を離したが、それは彼が俺に口づけた後の話だ。
 彼は彼の口づけで俺が完全に翻弄される事を知っていたのだ。
 俺はする方でなく、優しく誰かに翻弄されたいと望んでもいた。
 そして、俺にキスされたダンが俺を拒むどころか、俺を抱き締めて来た事も思い出されてしまった。
 あいつは何て簡単に俺の手に転がって来たのだろうか、と。
 もしかして、俺が唆せばあいつは俺を愛したのだろうか、と。

「愛しています。あなたを愛しています。あなたを抱けるこの一夜、俺は一生忘れないでしょう。」

「静かに。俺が君をダンだと思い込めなくなる。」

「では、あなたの大好きなダンの振りをしてさしあげます。」

 俺の腰はメイヤーの右腕によって持ち上げられた。
 俺は次に何が来るのか理解していながらも、メイヤーが左腕を俺の首に回して俺の頭を固定して、俺に深い口づけを行っているから逃れられないのだと自分に言い聞かせていた。

 決して熱くなっている下半身を宥めるものが欲しいと思っているからでは無いだろうと。
 メイヤーに刺激されていたからではなく、俺はずっと誰かに抱かれる事を望んでもいただけだと、今この時に認めたくはない。

 少々の痛みを伴って穿たれてしまったが、俺はその行為に反発するどころか熱い吐息を吐くだけなのだ。
 なぜ、愛してもいない男に抱かれて、俺の中の十四歳の俺が今は叫びを止めているのだろう。

「愛しています。あなたがなじむまで動きませんから安心して。痛みはありますか?大丈夫ですか?」

 これだ、メイヤーがずっと俺を愛していると囁くからだ。
 最後には俺の身体を労わる言葉を吐くからだ。

「動け。気にせずに動いて俺を粉々にしろ!」

 愛されたがりよりも、淫乱な抱かれたがりと思われたい。
 俺が誰にも愛されない一人ぼっちだと気付かせないでくれ。
 いや、気が付かないでくれ!
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