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ストーカーは二歩ぐらい先に
メイヤーの部屋
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「つきましたよ。まずはソファに横になって下さい。」
いつの間にタクシーを降りたのか、そして、いつの間に横にされているのかも俺は気がつかなかった。
俺は一人で自分を哀れんでいたから。
「情けないな。俺は情けないでしょうよ?」
「いいえ。あなたはいつも美しくて、俺の憧れの人です。士官学校で新入生の研修にあなたが監督官として参加して下さったでしょう。俺はその日からあなたに恋をしているんです。」
俺は士官学校で出会ったダンに恋をした。
恋をした自分を隠してダンと親友付き合いを続け、ダンが妹に恋したらその恋心を煽り、彼を決して手放さないようにと無邪気な妹を使ってコントロールしてきた。
それも、今日で終わる。
俺は気が付いたのだ。
飼っていたペットの死で、ダンとティナが我が子を無くした夫婦のように寄り添う姿に、俺のせいで彼らが本当の我が子を抱ける日が来ないということに。
俺のせいで相思相愛になっているのに、三人の世界を壊したくない俺のせいで、死ぬまで告白し合わないだろう二人に気が付いたのだ。
だから俺は彼等を手放す事に決めたのではないか?
だから今夜は思い切れるように騒ぐはずだったのではないのか?
そうだ、その予定を潰したのはメイヤーだ。
「君は俺をそんなに長く愛しているんだ。すごいね、でも、たった、五年か?」
ダンと俺はもう十年だ。
「押し付けるつもりはありません。まだ五年ですが、あなたに振り向いてもらわなくても一生思い続けるつもりです。」
俺はメイヤーの首に右手をかけ、彼を自分に引き寄せた。
「俺はゲロ臭いぞ。それでもいいなら俺との一夜は君のものだ。」
「最初からそのつもりですよ。」
「え?」
メイヤーは俺の唇にキスをしようとしてきた。
俺は咄嗟に唇を右手で覆った。
俺は今日初めてダンに深いキスをした。
結婚式の親友のキスをわざと曲解させ、新郎の親友の俺が新郎のダンに口づけたのだ。
俺は俺の思いのたけを込めて、だが諦めるために俺を振り払って欲しいと。
しかし、ダンは俺のキスにうっとりするという間抜けだった。
「少佐。」
俺は口元から手を離すと、俺にキスをしようと顔を近づけているメイヤーの胸をその手で押さえた。
「せめて口をゆすがせてくれ。」
「新しい歯ブラシも用意してありますよ。バスルームに行きましょうか。」
「これは計画的か?」
「軍人ですから。もしも、で用意をしていただけです。こんなに簡単にあなたが腕の中に転がって来てくれるとは思いませんでしたけれど。」
俺は再びメイヤーに抱きかかえられる事となった。
いつの間にタクシーを降りたのか、そして、いつの間に横にされているのかも俺は気がつかなかった。
俺は一人で自分を哀れんでいたから。
「情けないな。俺は情けないでしょうよ?」
「いいえ。あなたはいつも美しくて、俺の憧れの人です。士官学校で新入生の研修にあなたが監督官として参加して下さったでしょう。俺はその日からあなたに恋をしているんです。」
俺は士官学校で出会ったダンに恋をした。
恋をした自分を隠してダンと親友付き合いを続け、ダンが妹に恋したらその恋心を煽り、彼を決して手放さないようにと無邪気な妹を使ってコントロールしてきた。
それも、今日で終わる。
俺は気が付いたのだ。
飼っていたペットの死で、ダンとティナが我が子を無くした夫婦のように寄り添う姿に、俺のせいで彼らが本当の我が子を抱ける日が来ないということに。
俺のせいで相思相愛になっているのに、三人の世界を壊したくない俺のせいで、死ぬまで告白し合わないだろう二人に気が付いたのだ。
だから俺は彼等を手放す事に決めたのではないか?
だから今夜は思い切れるように騒ぐはずだったのではないのか?
そうだ、その予定を潰したのはメイヤーだ。
「君は俺をそんなに長く愛しているんだ。すごいね、でも、たった、五年か?」
ダンと俺はもう十年だ。
「押し付けるつもりはありません。まだ五年ですが、あなたに振り向いてもらわなくても一生思い続けるつもりです。」
俺はメイヤーの首に右手をかけ、彼を自分に引き寄せた。
「俺はゲロ臭いぞ。それでもいいなら俺との一夜は君のものだ。」
「最初からそのつもりですよ。」
「え?」
メイヤーは俺の唇にキスをしようとしてきた。
俺は咄嗟に唇を右手で覆った。
俺は今日初めてダンに深いキスをした。
結婚式の親友のキスをわざと曲解させ、新郎の親友の俺が新郎のダンに口づけたのだ。
俺は俺の思いのたけを込めて、だが諦めるために俺を振り払って欲しいと。
しかし、ダンは俺のキスにうっとりするという間抜けだった。
「少佐。」
俺は口元から手を離すと、俺にキスをしようと顔を近づけているメイヤーの胸をその手で押さえた。
「せめて口をゆすがせてくれ。」
「新しい歯ブラシも用意してありますよ。バスルームに行きましょうか。」
「これは計画的か?」
「軍人ですから。もしも、で用意をしていただけです。こんなに簡単にあなたが腕の中に転がって来てくれるとは思いませんでしたけれど。」
俺は再びメイヤーに抱きかかえられる事となった。
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