愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

蔵前

文字の大きさ
上 下
13 / 87
ストーカーは二歩ぐらい先に

メイヤーの部屋

しおりを挟む
「つきましたよ。まずはソファに横になって下さい。」

 いつの間にタクシーを降りたのか、そして、いつの間に横にされているのかも俺は気がつかなかった。
 俺は一人で自分を哀れんでいたから。

「情けないな。俺は情けないでしょうよ?」

「いいえ。あなたはいつも美しくて、俺の憧れの人です。士官学校で新入生の研修にあなたが監督官として参加して下さったでしょう。俺はその日からあなたに恋をしているんです。」

 俺は士官学校で出会ったダンに恋をした。
 恋をした自分を隠してダンと親友付き合いを続け、ダンが妹に恋したらその恋心を煽り、彼を決して手放さないようにと無邪気な妹を使ってコントロールしてきた。

 それも、今日で終わる。
 俺は気が付いたのだ。
 飼っていたペットの死で、ダンとティナが我が子を無くした夫婦のように寄り添う姿に、俺のせいで彼らが本当の我が子を抱ける日が来ないということに。

 俺のせいで相思相愛になっているのに、三人の世界を壊したくない俺のせいで、死ぬまで告白し合わないだろう二人に気が付いたのだ。
 だから俺は彼等を手放す事に決めたのではないか?
 だから今夜は思い切れるように騒ぐはずだったのではないのか?

 そうだ、その予定を潰したのはメイヤーだ。

「君は俺をそんなに長く愛しているんだ。すごいね、でも、たった、五年か?」

 ダンと俺はもう十年だ。

「押し付けるつもりはありません。まだ五年ですが、あなたに振り向いてもらわなくても一生思い続けるつもりです。」

 俺はメイヤーの首に右手をかけ、彼を自分に引き寄せた。

「俺はゲロ臭いぞ。それでもいいなら俺との一夜は君のものだ。」

「最初からそのつもりですよ。」

「え?」

 メイヤーは俺の唇にキスをしようとしてきた。
 俺は咄嗟に唇を右手で覆った。
 俺は今日初めてダンに深いキスをした。
 結婚式の親友のキスをわざと曲解させ、新郎の親友の俺が新郎のダンに口づけたのだ。
 俺は俺の思いのたけを込めて、だが諦めるために俺を振り払って欲しいと。
 しかし、ダンは俺のキスにうっとりするという間抜けだった。

「少佐。」

 俺は口元から手を離すと、俺にキスをしようと顔を近づけているメイヤーの胸をその手で押さえた。

「せめて口をゆすがせてくれ。」

「新しい歯ブラシも用意してありますよ。バスルームに行きましょうか。」

「これは計画的か?」

「軍人ですから。もしも、で用意をしていただけです。こんなに簡単にあなたが腕の中に転がって来てくれるとは思いませんでしたけれど。」

 俺は再びメイヤーに抱きかかえられる事となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...