愛するあなたを失いたくないけれど、今のままでは辛すぎる

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兄はドツボへの一歩を踏み出していた

日暮れから悪魔な夜へ

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「我が親友ロリ野郎と我が育てし妹との結婚を祝して!はーい乾杯!」

 殆どやけくそみたいに声をあげたが、酒と騒ぎに飢えているだけの同僚達は俺に呼応して声をあげ、俺の奢りだからと俺を破産させる勢いで飲み騒ぎ始めた。

 今夜の飲み会の会場となったこの店は、軽く飲めて騒げる店で、妹と結婚した親友ダンと長年使った店でもある。
 そしてデモンズナイトというふざけた店名が示す通り、貸し切りにした今夜は、俺の為に一段高い所に王様の椅子を作ってくれたというおふざけ具合だ。
 王様にはかしずく女官や従者がいるものだが、高台の恥ずかしいピンクな巨大ソファに乗せ上げられた俺の周りでは、気取り返ってワインをちびちび飲むような数名しかいない。

 俺は今夜騒ぎ倒したいというのに!

 これも自分の副官、アロイス・メイヤー准尉の余計な采配のせいだと本人を睨みつけると、彼は俺に見つめられたと嬉しそうに頬を赤らめただけだった。

 俺は軽く歯噛みをした。
 俺のダン。
 軍の中で知らない人はいないどころか、抱かれたい男ナンバーワンの彼は、眼光鋭い切れ者だと有名でもあるが、その黒髪と黒い瞳をした眉目秀麗な美丈夫は鈍感で幸せ回路の痴れ者の馬鹿野郎だ。

 メイヤーはそのダンと似た振る舞いをするのだ。
 俺にとっての良きことを心掛け、それが俺の望まないことばかり、という、ダンそっくりな行動を!
 俺がメイヤーを切らないのは、ひとえにどころか、あのダンが「欲しい。」とのたまった事があるからに過ぎない。

 お前はどうしてそんな鈍感なのだ!

 俺が気持ちを隠しているからだと言っても、俺のまだ十八歳の幼い妹による一目でわかる恋心の眼つきにも、全く気が付かない愚鈍ぶりだから仕方が無いがな!

「サルヴァドーレ少佐、まあ、ご機嫌斜めですわね。」

 俺は見せつけるようにして自慢の長い足を組みなおし、いつもの社交用の笑顔を顔に貼り付けて声の主を見返した。

「そりゃそうでしょうよ。騒ぎたいと酒場に来て、俺はこんな見世物椅子に座らせられている。」

「うふふ。アークロイド少佐が結婚されてしまったなら、あなたこそ抱かれたい男ナンバーワンに輝いたという事では無いですか!」

「繰り上がりは嬉しくないね。」

「まあ、まあ!わたくしにはあなたが最初からナンバーワンですわ!」

 美しい顔立ちの派手な女だったが、誰だっけ?
 まあ、いい、ここは酒場だ。

「そうだね、今のところは俺には相手もいないからね。」

「では、わたくしが立候補しても?」

「まず、お付き合いから始めなきゃだね。」

「では、付き合って下さいますの?」

「それはこれから決めようかな。」

 俺は王様の椅子から立ち上がると大声をあげ、グラスを掲げて見せた。

「俺とやりたい奴!今から俺と勝負だ!杯を空けろ!勝った奴は俺を今晩好きにさせてやる!」
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