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君が望まぬとも、我は君を望むだろう
優斗の守護者
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すぐりと優斗が新潟に飛び立ったその後は、我は全くの役立たずになった自分に憤慨しながら我が地の中心に飛んだ。
それはパワーの充填の為だ。
我ら天狗が自然の森を神の代りに守っているのは、自然の気の流れというこの世の摂理である、生命エネルギーの循環を淀みなく行わせるためである。
つまり、我が私欲で似てそのエネルギーを奪取する事も出来るのだ。
一時でも神と同等の力を得たならば、神である弥彦が施した天狗避けをかいくぐって優斗とすぐりの下に行けるかもしれない。
新潟の地にいる大弥彦様とは、皇祖天照大御神の御曾孫であり伊夜日子大神ともお呼ばれだった天香山命様である。
我ら天狗とは、格どころか、存在自体が別物のお方なのだ。
そんな彼は森羅万象界から新潟の長岡の寺泊に上陸した後、新潟平野に座する霊山弥彦山に登り、そこに留まられて越後開拓の祖神となられたそうだ。
そして大弥彦様は責任感がとてもお強い方なのか、他の神々が天狗という者達を作って己が支配地を天狗に任せて森羅万象界に引き上げても、この人間界に留まって支配を続けていらっしゃる。
神様だからか、己の価値感や情報を新たなものに書き換えることも無しに、だ。
よって、彼には理解できない天狗は悪の者として彼の支配地から排除され、天狗を排除した事で天狗から他の神の情報を受けられなくなった彼は、その為にさらなる情報不足を重ねているという悪循環にも陥っている。
しかし、彼のかたくなさを責めるわけにはいかないだろう。
かって人々を恐れさせた大妖怪、酒呑童子は越後の生まれだ。
弥彦には誰よりも美しく妖力があったその鬼へのトラウマがあるのか、妖力と美貌を兼ね備えた我ら天狗を同様の者と見做してしまうと言う事なのだ。
我は大きく息を吐くと、全ての力を身に纏おうと両手を強く合わせた。
「無理でもやってやろうぞ。いざとなれば、我はどうなろうと構わん。優斗とすぐりの為ならば、この身が千切れようと弥彦の地に飛び込んでやる。」
すると、我の決意を知っている者によって、すぐさま我の視界は見えなかった優斗へと像を結んだのだ。
大きな紙袋を両手に下げて、背中にすぐりを貼り付けている、という優斗の姿である。しかし、見慣れた微笑ましい姿どころか、今の優斗の表情は真っ白に血の気が引いているという脅えしか見えないものであった。
優斗の危機だったとは!
「感謝する。日高。」
「感謝するは早いな。吾こそ現状を見誤っていたらしいからな。」
日高の言葉に目を凝らせば、我は優斗とすぐりの目の前に、初めて目にした美貌の大男が立っていた事を知ったのである。
肩甲骨よりも下の長さの黒髪はくるくると巻いており、金色の太陽を模したモチーフのあるサークルを額に嵌め、この時代にであるというのに古代の金色の鎧を身に着けている、という時代遅れの存在が。
「弥彦本人が優斗に?」
「ハハハ。知って笑え。どうやら優斗に懸想していたのはお主だけでは無かったようだぞ。弥彦殿こそ優斗を狙っていたという、鬼みたいな笑い話やけ。」
日高は俺に掠れた声で答えながら俺の視界の中に現われた。
俺は見逃していたが、優斗とすぐりのすぐ前で、日高は倒れていたのだ。
彼は我に話しかけながらむっくりと起き上がり、我が子を守るようにして金色の翼を広げながら彼等の前に立つ神への壁となったのである。
天狗の中では太陽神に一番近く麗しい男と言われた彼であるが、彼の自慢でもあった金色の翼は焼けただれて今や赤黒く染まっており、美貌の顔や真っ白の衣服にだって、己が血や煤で薄汚れたものとなっている。
「日高。」
「吾が最後の力を出したその時、お主の地に二人を引っ張れ。よいな。」
「了解した。」
「どこにも行かせるはず無いであろう。優斗は私の子。五歳の祝いに私が祝福を授けた大事な子供だ。どこにも行かせるはずはない。」
びり、びり、と弥彦が話すたびにノイズが彼に走り、そのたびに我の目には弥彦ではない別の男の姿も見えた。
日高の森で見た事のある、優斗の父の姿だった。
「それなのに、この者は優斗を別の地に向かわせようとした。私の血族と言えども今や単なる人でしかない者の統べる土地になど。許すまじ。許すことなど出来はしない。命を懸けて償わせねばならない。優斗の足止めと人生の破壊だ。」
優斗はひいっと小さな悲鳴を上げた。
彼は戦慄きながら、ぐらつく様に一歩下がった。
「おとうさん。ああ、父さんは!だから!だから俺を轢いてしまったの?」
「さすが、鬼のような行動力ですな。百二十四人を一瞬で屠ってしまった神のなせる業か。ですけどね、神様。優斗は吾の子やけ。吾は優斗の守護者としてこの子を守り通すつもりですんで、よろしゅうに。」
日高の言葉によって再び弥彦は優斗の父の姿を覆い隠し、その神である自分の姿そのものとなって凝り固まった。
優斗は再び前へと動いた。
それは、日高が優斗に長い腕を回して、自分の背中に押し付けたからである。
優斗の背中にしがみ付いていたすぐりの服が黒装束の鴉天狗の物へと変化して行き、日高の背中に隠れながらも大きく黒い翼を広げ始めた。
日高は自分を弾けさせた勢いで二人を飛ばす気だ。
我は必ず二人を連れ帰ようとも。
我も羽を大きく広げた。
「お前だけにいい格好はさせない。」
俺達は同時に鼻で笑った。
だが、神は神であった。
残酷すぎる存在である。
「五歳の優斗が望んだのは兄になることであった。私は子の出来ない夫婦に優斗の望みだからと子を与えた。優斗よ、あれらは不要か?」
それはパワーの充填の為だ。
我ら天狗が自然の森を神の代りに守っているのは、自然の気の流れというこの世の摂理である、生命エネルギーの循環を淀みなく行わせるためである。
つまり、我が私欲で似てそのエネルギーを奪取する事も出来るのだ。
一時でも神と同等の力を得たならば、神である弥彦が施した天狗避けをかいくぐって優斗とすぐりの下に行けるかもしれない。
新潟の地にいる大弥彦様とは、皇祖天照大御神の御曾孫であり伊夜日子大神ともお呼ばれだった天香山命様である。
我ら天狗とは、格どころか、存在自体が別物のお方なのだ。
そんな彼は森羅万象界から新潟の長岡の寺泊に上陸した後、新潟平野に座する霊山弥彦山に登り、そこに留まられて越後開拓の祖神となられたそうだ。
そして大弥彦様は責任感がとてもお強い方なのか、他の神々が天狗という者達を作って己が支配地を天狗に任せて森羅万象界に引き上げても、この人間界に留まって支配を続けていらっしゃる。
神様だからか、己の価値感や情報を新たなものに書き換えることも無しに、だ。
よって、彼には理解できない天狗は悪の者として彼の支配地から排除され、天狗を排除した事で天狗から他の神の情報を受けられなくなった彼は、その為にさらなる情報不足を重ねているという悪循環にも陥っている。
しかし、彼のかたくなさを責めるわけにはいかないだろう。
かって人々を恐れさせた大妖怪、酒呑童子は越後の生まれだ。
弥彦には誰よりも美しく妖力があったその鬼へのトラウマがあるのか、妖力と美貌を兼ね備えた我ら天狗を同様の者と見做してしまうと言う事なのだ。
我は大きく息を吐くと、全ての力を身に纏おうと両手を強く合わせた。
「無理でもやってやろうぞ。いざとなれば、我はどうなろうと構わん。優斗とすぐりの為ならば、この身が千切れようと弥彦の地に飛び込んでやる。」
すると、我の決意を知っている者によって、すぐさま我の視界は見えなかった優斗へと像を結んだのだ。
大きな紙袋を両手に下げて、背中にすぐりを貼り付けている、という優斗の姿である。しかし、見慣れた微笑ましい姿どころか、今の優斗の表情は真っ白に血の気が引いているという脅えしか見えないものであった。
優斗の危機だったとは!
「感謝する。日高。」
「感謝するは早いな。吾こそ現状を見誤っていたらしいからな。」
日高の言葉に目を凝らせば、我は優斗とすぐりの目の前に、初めて目にした美貌の大男が立っていた事を知ったのである。
肩甲骨よりも下の長さの黒髪はくるくると巻いており、金色の太陽を模したモチーフのあるサークルを額に嵌め、この時代にであるというのに古代の金色の鎧を身に着けている、という時代遅れの存在が。
「弥彦本人が優斗に?」
「ハハハ。知って笑え。どうやら優斗に懸想していたのはお主だけでは無かったようだぞ。弥彦殿こそ優斗を狙っていたという、鬼みたいな笑い話やけ。」
日高は俺に掠れた声で答えながら俺の視界の中に現われた。
俺は見逃していたが、優斗とすぐりのすぐ前で、日高は倒れていたのだ。
彼は我に話しかけながらむっくりと起き上がり、我が子を守るようにして金色の翼を広げながら彼等の前に立つ神への壁となったのである。
天狗の中では太陽神に一番近く麗しい男と言われた彼であるが、彼の自慢でもあった金色の翼は焼けただれて今や赤黒く染まっており、美貌の顔や真っ白の衣服にだって、己が血や煤で薄汚れたものとなっている。
「日高。」
「吾が最後の力を出したその時、お主の地に二人を引っ張れ。よいな。」
「了解した。」
「どこにも行かせるはず無いであろう。優斗は私の子。五歳の祝いに私が祝福を授けた大事な子供だ。どこにも行かせるはずはない。」
びり、びり、と弥彦が話すたびにノイズが彼に走り、そのたびに我の目には弥彦ではない別の男の姿も見えた。
日高の森で見た事のある、優斗の父の姿だった。
「それなのに、この者は優斗を別の地に向かわせようとした。私の血族と言えども今や単なる人でしかない者の統べる土地になど。許すまじ。許すことなど出来はしない。命を懸けて償わせねばならない。優斗の足止めと人生の破壊だ。」
優斗はひいっと小さな悲鳴を上げた。
彼は戦慄きながら、ぐらつく様に一歩下がった。
「おとうさん。ああ、父さんは!だから!だから俺を轢いてしまったの?」
「さすが、鬼のような行動力ですな。百二十四人を一瞬で屠ってしまった神のなせる業か。ですけどね、神様。優斗は吾の子やけ。吾は優斗の守護者としてこの子を守り通すつもりですんで、よろしゅうに。」
日高の言葉によって再び弥彦は優斗の父の姿を覆い隠し、その神である自分の姿そのものとなって凝り固まった。
優斗は再び前へと動いた。
それは、日高が優斗に長い腕を回して、自分の背中に押し付けたからである。
優斗の背中にしがみ付いていたすぐりの服が黒装束の鴉天狗の物へと変化して行き、日高の背中に隠れながらも大きく黒い翼を広げ始めた。
日高は自分を弾けさせた勢いで二人を飛ばす気だ。
我は必ず二人を連れ帰ようとも。
我も羽を大きく広げた。
「お前だけにいい格好はさせない。」
俺達は同時に鼻で笑った。
だが、神は神であった。
残酷すぎる存在である。
「五歳の優斗が望んだのは兄になることであった。私は子の出来ない夫婦に優斗の望みだからと子を与えた。優斗よ、あれらは不要か?」
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