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天狗と家なき子
いいのか?
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「ただいまです!オレ自分の枕持ってきた!」
「お帰り、すぐり。みんなでほうじ茶を飲んだら眠ろうか?」
俺が腕を広げると、すぐりは枕を抱いたそのまま俺の胸に飛び込んで来た。
すぐりが持って来た枕とは、シロクマの形をした彼サイズの抱き枕だった。
「わお。二人分の重量。凄いクマさんをお持ちで。」
「大きなシロタロウだったら寂しくないでしょって、ユウトが買ってくれたんだよ、お別れの日に。でもオレやっぱ、ユウトがいないとやだ。ユウトはオレのお母さんだもの。」
「そっか。」
「ユウトはずっとずっとがいいのに!」
すぐりはなんて健気なんだろう。
俺は彼のその幼気さに悲しくなって、ぎゅうとさらに強く抱きしめていた。
そうだよな。
すぐりは鴉天狗でも外見通りにまだ生まれて五年目の子だそうだし、人間の子供だって五歳はまだまだ母親が恋しい年頃なんだもんな。
どうして俺にお母さん認定するのかは不明だけどさ。
派手外見な天狗から見れば、日本人顔は女も男も同じに見えるのかな?
すぐりのお母さんについて平埜さんに聞いてもいいのかな?
俺は自然と視線を平埜に動かしていた。
彼は丁度俺とすぐりの前にほうじ茶の入った小ぶりの湯のみを二つ差し出してて、俺とすぐりの姿に、亡き妻?別れた妻?を思い出したような、そんな風に俺が思ってしまう視線を向けていた。
切なそうな、っていうの?
「君と一緒に寝ても、君は本当に構わないのか?」
静かな声は俺への気遣いと言うよりは、そうだ、多分、別れる時のすぐりの気持を考えて欲しいという父親の気持に違いない。
俺は心を鬼にしてすぐりを一人寝させるべきなのかな。
「へいきー。ユウト真ん中にすればいいよ。オレとおとーさんがはしっこ。そしたら、ユウトが狭いってオレもおとーさんをお布団の外に蹴り出せるもん。あ、あのね、オレ達は蹴られてもへいきーだよ、ユウト。」
俺は再び平埜を見返していた。
一緒に寝て構わないって、平埜さんも俺と一緒に寝る気だったのよ、と。
あ、真っ赤になって俺から顔を背けた。
それで、なんだか彼にそぐわない笑いをし始めた。
失敗しちゃった人があげる自嘲ってやつ?
「平埜さん?」
「そうだな。君はすぐりと寝る。そうだ。それしか考えていなかった。」
「天狗にしか出来ない寝物語を聞かせてくれるなら、ええ、一緒に寝るのもいいですよ。いろいろ面白いお話が聞けそうだもの。」
俺はどうしてこんなことを言ってしまったのか。
いいや、分かっている。
俺は平埜が浮かべるだろう表情が見たかったのかもしれない。
はにかんだ、表情?
あるいは、切なさと幸せを一緒に噛みしめているような、表情?
そのどちらも彼の顔から見つけられなかったけれど。
彼はそもそもいつものように顔を背けて俺から顔を隠してるままだ。そして見つめていると、我は、と、確実に辞退するであろう声音を出した。
「ユウト。昔話は日高に頼もうよ。日高はいちまんねんとにせんねん生きているって言ってた。」
「日高知らんがそれは確実に嘘だな。」
「あれがそんなはずはない。」
俺と平埜は同時に答えていて、それで、同時に互いの顔を見合っていた。
俺達は当り前のように微笑み合って、だが、それは一種だけだった。
凍り付き顔を強張らせたのは平埜だった。
そして彼は、ふいっと目線も顔も横向けた。
あなたは俺にすぐりの母を重ねてしまったのかな?
「平埜さん。あなたも一緒だよ。俺達の大事なすぐりは、みんなでをご所望であらせられる。」
「君は全く望んでいないというのに?」
「望んでいますよ。あなたに面白い話をして欲しいと思ってる。」
「我に面白い話などできん。我は日高とは違う。」
「それは聞いて見ないと。何ごとも試す事は必要でしょう?」
「人がいう、毒を喰らわば皿まで。そうなっても知らんぞ。」
「お帰り、すぐり。みんなでほうじ茶を飲んだら眠ろうか?」
俺が腕を広げると、すぐりは枕を抱いたそのまま俺の胸に飛び込んで来た。
すぐりが持って来た枕とは、シロクマの形をした彼サイズの抱き枕だった。
「わお。二人分の重量。凄いクマさんをお持ちで。」
「大きなシロタロウだったら寂しくないでしょって、ユウトが買ってくれたんだよ、お別れの日に。でもオレやっぱ、ユウトがいないとやだ。ユウトはオレのお母さんだもの。」
「そっか。」
「ユウトはずっとずっとがいいのに!」
すぐりはなんて健気なんだろう。
俺は彼のその幼気さに悲しくなって、ぎゅうとさらに強く抱きしめていた。
そうだよな。
すぐりは鴉天狗でも外見通りにまだ生まれて五年目の子だそうだし、人間の子供だって五歳はまだまだ母親が恋しい年頃なんだもんな。
どうして俺にお母さん認定するのかは不明だけどさ。
派手外見な天狗から見れば、日本人顔は女も男も同じに見えるのかな?
すぐりのお母さんについて平埜さんに聞いてもいいのかな?
俺は自然と視線を平埜に動かしていた。
彼は丁度俺とすぐりの前にほうじ茶の入った小ぶりの湯のみを二つ差し出してて、俺とすぐりの姿に、亡き妻?別れた妻?を思い出したような、そんな風に俺が思ってしまう視線を向けていた。
切なそうな、っていうの?
「君と一緒に寝ても、君は本当に構わないのか?」
静かな声は俺への気遣いと言うよりは、そうだ、多分、別れる時のすぐりの気持を考えて欲しいという父親の気持に違いない。
俺は心を鬼にしてすぐりを一人寝させるべきなのかな。
「へいきー。ユウト真ん中にすればいいよ。オレとおとーさんがはしっこ。そしたら、ユウトが狭いってオレもおとーさんをお布団の外に蹴り出せるもん。あ、あのね、オレ達は蹴られてもへいきーだよ、ユウト。」
俺は再び平埜を見返していた。
一緒に寝て構わないって、平埜さんも俺と一緒に寝る気だったのよ、と。
あ、真っ赤になって俺から顔を背けた。
それで、なんだか彼にそぐわない笑いをし始めた。
失敗しちゃった人があげる自嘲ってやつ?
「平埜さん?」
「そうだな。君はすぐりと寝る。そうだ。それしか考えていなかった。」
「天狗にしか出来ない寝物語を聞かせてくれるなら、ええ、一緒に寝るのもいいですよ。いろいろ面白いお話が聞けそうだもの。」
俺はどうしてこんなことを言ってしまったのか。
いいや、分かっている。
俺は平埜が浮かべるだろう表情が見たかったのかもしれない。
はにかんだ、表情?
あるいは、切なさと幸せを一緒に噛みしめているような、表情?
そのどちらも彼の顔から見つけられなかったけれど。
彼はそもそもいつものように顔を背けて俺から顔を隠してるままだ。そして見つめていると、我は、と、確実に辞退するであろう声音を出した。
「ユウト。昔話は日高に頼もうよ。日高はいちまんねんとにせんねん生きているって言ってた。」
「日高知らんがそれは確実に嘘だな。」
「あれがそんなはずはない。」
俺と平埜は同時に答えていて、それで、同時に互いの顔を見合っていた。
俺達は当り前のように微笑み合って、だが、それは一種だけだった。
凍り付き顔を強張らせたのは平埜だった。
そして彼は、ふいっと目線も顔も横向けた。
あなたは俺にすぐりの母を重ねてしまったのかな?
「平埜さん。あなたも一緒だよ。俺達の大事なすぐりは、みんなでをご所望であらせられる。」
「君は全く望んでいないというのに?」
「望んでいますよ。あなたに面白い話をして欲しいと思ってる。」
「我に面白い話などできん。我は日高とは違う。」
「それは聞いて見ないと。何ごとも試す事は必要でしょう?」
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