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悪の華として燦然と輝け

私達が婚約解消をした方が良い理由

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 カナンはそれは紳士的に私を馬車に乗せてくれたが、彼は私の向かいに腰を下ろしたそこで大げさに眉毛を上げて見せた。
 本当にいいのか?と尋ねる様に。

「いいのよ。悪役令嬢は故郷に帰る。婚約もお終い。お互いに自由。これこそ私達には必要なんだと思うわ。友情を憎み合いにしたく無いもの。」

「憎み合い?友人だというなら、どうして憎み合いになるのさ?」

 私は答えたくも無いと口をつぐんだが、カナンは私の答えを聞くまで馬車を出さないという風ににやっと笑って見せた。
 彼は父の手のものではなく、純粋にノアの守り手であるようだ。

「彼には私はいない方がいいのよ。今は仲良く腐れ縁をしていますけどね、そのまま結婚なんてしたら思うはずよ、僕は恋をした事があったのか、と。」

 あ、ノアが手芸クラブでエディット嬢と仲睦まじい様子を見せていたのを思い出してしまった。
 彼は彼女にほっぺなどをつねらせたりもしていたのだ。

「ねえ、君の言うそれは君の事でもあるんじゃない?君こそそこが不安なんじゃないのかな。ああ、私は燃える恋をした事がないわ!恋の味って何かしら?」

 私はカナンの脛を蹴っていた。
 蹴れなかったが。
 長い足はなかなかに機敏だ。

「少佐様?黙って蹴られるのも器の大きな男性の役割では?」

「ハハ。可愛いルームシューズならまだしも、そんなごついミリタリーブーツで蹴られたくはないね。それに、俺はですね、武術は得意なんですよ。寝技なんか大好きだ。」

 わあ、彼は私の横にひょいと座り直し、私の肩まで抱いた。
 金色の瞳は私を獲物のようにして見据え、私は胃がひっくり返りそうだ。

「キスしてみる?俺は上手いよ。俺に惚れてもいい。そして泣いて、殿下に戻ればいい。」

「あら?私が泣く事が前提?私にあなたこそ泣かされるかもしれないのに?」

 ぶっ。
 カナンは大きく吹き出すと、再び自分が座っていた座席に戻った。

「ああ、駄目だ。面白すぎる。ねえ、本当に婚約破棄したら俺と付き合わない?俺はもう少し出世するつもりだからね、いい先物だと思いますよ。」

「婚約者を寝取った男を出世させるほど俺は公正な男ではないから、カナン、その野望は一先ず消してくれ。」

 私はぐるっと振り向くと、馬車の戸口にノアがいた。
 彼は私が初めて見たと思うくらいに怖い顔をして、私に向かって私が自分のモノのようにして手を差しだした。
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