27 / 56
第六章 三人で暮らすと言う事
婚約者の風の噂と
しおりを挟む
俺は最近ヴァクラのせいで、自意識過剰になっているのかもしれない。
あんなに可愛い悪魔に、お前はハンサムだいい男だと囁かれていれば、どんな不細工の唐変木だったとしても、自分が俳優か何かに錯覚するものなのだ。
そう、これは錯覚で、俺の考え違いだ、と俺は自分に言い聞かせた。
気さくな 吉永真愛先生は、純粋に自分の生徒のことを心配していただけであり、また、保護者として半人前以下の俺に他の家庭の保護者達と触れ合いさせたかっただけのはずなのだから、と。
だよな?
次週の週末の夜に予定された天体教室の説明が終われば、保護者は当たり前のように座談会となるのはわかるが、俺と吉永だけ一つのテーブルで向かい合わせに座らせられているとはどういうことだ?
いや、俺と同じ新顔らしき保護者は、もともとの企画の会員である保護者達に囲まれる形で、三人~五人のテーブルに別れていた。
「最近美亜さんは明るくなって、ふふ、女の子達に囲まれるようになったのですよ?今日だって、ほら。」
吉永は子供達だけのテーブルを手で示したが、俺は美亜の現状を確認して、あれは仲が良くなっているどころか、子供に囲まれた美亜がうんざりしているだけだな、と理解した。
「瀬戸さん、ふふ、私の提案した通りだったでしょう。あなたの決定が美亜さんとの垣根を崩したからこその今です。」
俺は吉永に向かってそうですね、と微笑んだ。
すると、吉永は自分の隣に置いてあったバッグから、角2サイズの茶封筒を取り出して、それを俺の方へと差し出した。
学校の大事な書類かと茶封筒の中身を取り出してみれば、この集まりの母体団体であるらしき分厚いパンフレットだった。
俺は別に男として狙われていたわけでない、どころか、唐変木な俺が若くて可愛らしい女性に簡単に靡くカモに思われていただけだったらしい。
「ああ、勧誘、ですか?」
「違います。そうですね、この団体は宗教団体ですけれど、美術館などを所有して学術の周知に努めています。私の趣味は美術館巡りなんです。このパンフレットには団体が所有している近隣の美術館や博物館の情報も載っていますから、美亜さんを連れ出す時にはどうかなって。割引コードもついていますでしょ?」
「ああ、すいません。とても失礼な物言いになって。」
俺は吉永に微笑み、吉永は顔を伏せてから真っ赤になった。
それから彼女はぽつりと呟いたが、俺の耳が調子が悪いのか、聞こえた言葉が俺の脳みそで理解することが出来なかった。
私も案内できますから。
え?
俺が見守る目の前の女性は、俺から目を逸らしてはにかんでおり、何か期待もしているような表情もしている。
子供の担任に誘われた時、下手に断ったら美亜の学校生活に関係しないか?
俺は美亜に無意識的に振り返っており、美亜はパグみたいな顔、いや、俺が与えた餌が最悪だと顔を歪めたさび猫と同じ表情を返した。
努力しろよ、お前、って奴だ。
お前を想ってお断りの言葉が出てこないんだろうが!
こんな時、ヴァクラは?
あ、そうだ。
「嬉しいお申し出ですね。俺は武骨なだけの男ですから、あなたのような教養のある方と美術館をご一緒できると知れば恋人も喜ぶでしょう。」
けれど、吉永は俺に労わり?慰め?の目を向けると、俺の左手の甲に自分の右手を重ねた。これは担任と保護者では親密すぎると彼女に言いかけたその時、彼女の方が先に俺を爆撃してしまった。
「 綺夏は別の方と結婚しちゃったじゃないですか。それで東京で面白おかしく生活していると聞いています。大体、婚約の破棄の理由はあの子の二股でしょう?忘れましょうよ?」
「 綺夏って、あいつとあなたはお知り合いでしたか?」
披露宴の綺夏側の友人席には吉永の名前が無かったと思い返しながら、俺は俺の実情をしっかり知っていたらしい妹の担任を見返していた。
吉永は今までの気さくな表情を辛辣なものに変え、ふんと鼻を鳴らした。
それから忌々しそうに口にしたのだ。
「高校が一緒なだけです。ここは田舎町ですもの。」
「ああ、ここが綺夏の故郷だったのですか。いや、全く知らなかった。いや、経営者だった親族の建物の警備仕事なのだから、考え無しは俺か。」
「まあ!綺夏がこちらの出だとご存じなかった?」
「ええ。上司の紹介で知り合いまして、その時は彼女の御一家は東京住まいでした。ですからずっと東京生まれの東京暮らしの人だと思っていましたよ。」
「まあ、あの人らしい。」
「その物言い。嫌っていましたか?」
「二面性がある子でしたから。美亜さんは綺夏とは面識がありましたか?二人きりにする事がありましたか?」
「え、ええ。女同士だと言っては、綺夏の方が美亜を連れまわしていましたね。俺は美亜とどう接して良いか分からなかった唐変木ですから、ずいぶん彼女には助けられましたよ。」
答えながら俺はヴァクラの言葉が脳裏に蘇った。
「趣味が悪い女だな!いや、性格が悪い女なのかな!」
綺夏は性格に難があった?
俺はそんな事も知らずに、美亜を綺夏と二人きりにさせていた?
当時の俺にとって、綺夏と美亜が打ち解けてくれれば全てが丸く収まり、いや、自分は自分の世界に無責任に戻りたいだけだった。
「美亜さんは綺夏にきっと酷い言葉の一つや二つは受けたはずです。」
吉永は断定し、俺はそれでも婚約者だった女を庇った。
「綺夏が美亜に酷い言葉を言ったとして、それは全部俺の不徳からの事です。俺はあいつに美亜を任せて、自分は海に帰れればいいって思っていた馬鹿者ですから。ですからね、俺を振るのも仕方がない事なんですよ。」
俺は吉永の右手からそっと自分の左手を抜き去ろうとしたが、俺の手の甲はぎゅっと吉永に掴まれてしまった。
吉永はまっすぐな目をして、俺を見つめた。
「どんな状況でも、あなたを振るなんて馬鹿な人です。」
え?
俺はもう一度美亜に助けを求めた。
俺が視線を送った丁度その時、美亜は同じ席の女の子によって、ヴァクラ特製のワンピースにハンバーグソースをかけられたところだった。
あんなに可愛い悪魔に、お前はハンサムだいい男だと囁かれていれば、どんな不細工の唐変木だったとしても、自分が俳優か何かに錯覚するものなのだ。
そう、これは錯覚で、俺の考え違いだ、と俺は自分に言い聞かせた。
気さくな 吉永真愛先生は、純粋に自分の生徒のことを心配していただけであり、また、保護者として半人前以下の俺に他の家庭の保護者達と触れ合いさせたかっただけのはずなのだから、と。
だよな?
次週の週末の夜に予定された天体教室の説明が終われば、保護者は当たり前のように座談会となるのはわかるが、俺と吉永だけ一つのテーブルで向かい合わせに座らせられているとはどういうことだ?
いや、俺と同じ新顔らしき保護者は、もともとの企画の会員である保護者達に囲まれる形で、三人~五人のテーブルに別れていた。
「最近美亜さんは明るくなって、ふふ、女の子達に囲まれるようになったのですよ?今日だって、ほら。」
吉永は子供達だけのテーブルを手で示したが、俺は美亜の現状を確認して、あれは仲が良くなっているどころか、子供に囲まれた美亜がうんざりしているだけだな、と理解した。
「瀬戸さん、ふふ、私の提案した通りだったでしょう。あなたの決定が美亜さんとの垣根を崩したからこその今です。」
俺は吉永に向かってそうですね、と微笑んだ。
すると、吉永は自分の隣に置いてあったバッグから、角2サイズの茶封筒を取り出して、それを俺の方へと差し出した。
学校の大事な書類かと茶封筒の中身を取り出してみれば、この集まりの母体団体であるらしき分厚いパンフレットだった。
俺は別に男として狙われていたわけでない、どころか、唐変木な俺が若くて可愛らしい女性に簡単に靡くカモに思われていただけだったらしい。
「ああ、勧誘、ですか?」
「違います。そうですね、この団体は宗教団体ですけれど、美術館などを所有して学術の周知に努めています。私の趣味は美術館巡りなんです。このパンフレットには団体が所有している近隣の美術館や博物館の情報も載っていますから、美亜さんを連れ出す時にはどうかなって。割引コードもついていますでしょ?」
「ああ、すいません。とても失礼な物言いになって。」
俺は吉永に微笑み、吉永は顔を伏せてから真っ赤になった。
それから彼女はぽつりと呟いたが、俺の耳が調子が悪いのか、聞こえた言葉が俺の脳みそで理解することが出来なかった。
私も案内できますから。
え?
俺が見守る目の前の女性は、俺から目を逸らしてはにかんでおり、何か期待もしているような表情もしている。
子供の担任に誘われた時、下手に断ったら美亜の学校生活に関係しないか?
俺は美亜に無意識的に振り返っており、美亜はパグみたいな顔、いや、俺が与えた餌が最悪だと顔を歪めたさび猫と同じ表情を返した。
努力しろよ、お前、って奴だ。
お前を想ってお断りの言葉が出てこないんだろうが!
こんな時、ヴァクラは?
あ、そうだ。
「嬉しいお申し出ですね。俺は武骨なだけの男ですから、あなたのような教養のある方と美術館をご一緒できると知れば恋人も喜ぶでしょう。」
けれど、吉永は俺に労わり?慰め?の目を向けると、俺の左手の甲に自分の右手を重ねた。これは担任と保護者では親密すぎると彼女に言いかけたその時、彼女の方が先に俺を爆撃してしまった。
「 綺夏は別の方と結婚しちゃったじゃないですか。それで東京で面白おかしく生活していると聞いています。大体、婚約の破棄の理由はあの子の二股でしょう?忘れましょうよ?」
「 綺夏って、あいつとあなたはお知り合いでしたか?」
披露宴の綺夏側の友人席には吉永の名前が無かったと思い返しながら、俺は俺の実情をしっかり知っていたらしい妹の担任を見返していた。
吉永は今までの気さくな表情を辛辣なものに変え、ふんと鼻を鳴らした。
それから忌々しそうに口にしたのだ。
「高校が一緒なだけです。ここは田舎町ですもの。」
「ああ、ここが綺夏の故郷だったのですか。いや、全く知らなかった。いや、経営者だった親族の建物の警備仕事なのだから、考え無しは俺か。」
「まあ!綺夏がこちらの出だとご存じなかった?」
「ええ。上司の紹介で知り合いまして、その時は彼女の御一家は東京住まいでした。ですからずっと東京生まれの東京暮らしの人だと思っていましたよ。」
「まあ、あの人らしい。」
「その物言い。嫌っていましたか?」
「二面性がある子でしたから。美亜さんは綺夏とは面識がありましたか?二人きりにする事がありましたか?」
「え、ええ。女同士だと言っては、綺夏の方が美亜を連れまわしていましたね。俺は美亜とどう接して良いか分からなかった唐変木ですから、ずいぶん彼女には助けられましたよ。」
答えながら俺はヴァクラの言葉が脳裏に蘇った。
「趣味が悪い女だな!いや、性格が悪い女なのかな!」
綺夏は性格に難があった?
俺はそんな事も知らずに、美亜を綺夏と二人きりにさせていた?
当時の俺にとって、綺夏と美亜が打ち解けてくれれば全てが丸く収まり、いや、自分は自分の世界に無責任に戻りたいだけだった。
「美亜さんは綺夏にきっと酷い言葉の一つや二つは受けたはずです。」
吉永は断定し、俺はそれでも婚約者だった女を庇った。
「綺夏が美亜に酷い言葉を言ったとして、それは全部俺の不徳からの事です。俺はあいつに美亜を任せて、自分は海に帰れればいいって思っていた馬鹿者ですから。ですからね、俺を振るのも仕方がない事なんですよ。」
俺は吉永の右手からそっと自分の左手を抜き去ろうとしたが、俺の手の甲はぎゅっと吉永に掴まれてしまった。
吉永はまっすぐな目をして、俺を見つめた。
「どんな状況でも、あなたを振るなんて馬鹿な人です。」
え?
俺はもう一度美亜に助けを求めた。
俺が視線を送った丁度その時、美亜は同じ席の女の子によって、ヴァクラ特製のワンピースにハンバーグソースをかけられたところだった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
彼が幸せになるまで
花田トギ
BL
一緒に暮らしていた男の息子蒼汰(そうた)と暮らす寺内侑吾(てらうちゆうご)は今ではシングルファザーだ。
何やらワケアリの侑吾に惹かれるのは職場の常連の金持ち、新しく常連になった太眉の男――だけではなさそうである。
ワケアリ子持ち独身マイナス思考な侑吾くんが皆に好き好きされるお話です。
登場人物
寺内侑吾 てらうちゆうご 主人公 訳あり 美しい男
蒼太 そうた 雪さん(元彼)の息子
近藤夏輝 こんどうなつき 人懐こいマッチョ
鷹司真 たかつかさまこと 金持ちマッチョ
晃さん あきらさん 関西弁の大家さん
【BL】ヒーローが裏切り者を地下に監禁して、ひたすら性的拷問を繰り返す話【ヒーロー高校生×悪の科学者大学生】
ハヤイもち
BL
”どうして裏切ったんだ!?”
地球侵略のために宇宙からやってきた悪の組織”チョコバイダー”。
それに対抗するために作られた人類の秘密組織アスカ―の一員である日向は高校生をしながら
日々宇宙人との戦いに明け暮れていた。
ある日怪人に襲われている大学生、信を助ける。
美しくミステリアスな彼に日向は急激に惹かれていく。
そして彼と仲良くなり、彼を仲間に引き入れるが、
何やら彼には秘密があるようで・・・・。
※※※
これは表のあらすじで、主人公はミステリアスな大学生の信。
彼は実は悪の組織チョコバイダーの天才科学者だった。
裏切り者の彼に対し、日向は復讐と称して彼を監禁し、快楽地獄で屈服させようとする。
少しずつ信の内側が明らかになっていく。
高校生×大学生
ヒーロー×悪役
の片思いBL。そこはかとなくヤンデレ。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
僕は傷つかないから
ritkun
BL
雨松玄樹(あめまつ げんき)はイタリア人の母を持つ高身長イケメンの高校生。物心ついた時から想い続けているのは10歳上の春野晃輝(はるの こうき)。晃輝の勤める会社のイメージキャラクターをしないかと言われて、少しでも長く一緒にいたいという理由だけで引き受ける。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる