6 / 56
第二章 愛人よりも居候で!
取りあえずはお預かりの第一日目の朝ご飯
しおりを挟む
「ど、どぞ。」
「うむ。」
悪魔である俺が渡した茶碗を、人間でしかない小さな人間が受け取った。
この小さな人間は真っ黒で固そうな髪の毛を首のあたりで一本髷に結っており、しかしながら着ている服が白のブラウスにピンクのジャンパースカートと、なんだかちぐはぐな印象でもある。
子供のくせに彼女がしかめっ面であるのは、この似合わない服を着せられている不満でもあるのだろうか。
彼女は朝食に起きて来て、俺を初めて見て、目を丸くするや、猫のようにぴょんと飛び上った。
凄く驚いたのだろうが、その動作で彼女に俺との関係を追及する予定だった彼女の兄は、「うむ。」とだけ言い、彼女に席につくように促しただけだった。
いや、今日から一週間居候することになったヴァクラだと、兄が俺を紹介した時の彼女の返答が、「うむ。」だけであったと思い出す。
瀬戸家では「うむ。」で意志疎通をしているのであろうか。
俺は兄の方を見た。
仏頂面だった。
妹、美亜を再び見返した。
しかめっ面だ。
昨夜は彼女の兄に彼女はこっぴどく叱られたそうなので、それはそのための不機嫌であるのかと思ったが、瀬戸家の標準装備なのかもしれない。
いやいや、普通に兄妹喧嘩中と見るべきか?
まあ、それならば、不機嫌は反省している証拠だ、許してやろう。
この子があんな魔法陣を描いたがために、俺がこうして苦境に落とされたのだから!
本当は俺を苦境に落としたのは上司キメジェスであるが、とりあえずとして俺を恋人とするという願いを口にした人間を見つめ返した。
その男、 瀬戸是之。
人間でしかない、二十八になろうかという程度の年端も行かぬ生き物でしかないくせに!この俺に愛人契約を持ちかけてきたとは!
今は台所でエプロンをつけて味噌汁をよそっているが、エプロンの下は紺色の制服姿だという男を見つめた。
その制服姿であるわけは、彼がこの建物において24時間責任があるという職務中であるからだそうだ。
そんな堅物男である彼は、昨夜は俺を担いで自分の部屋に連れ込んで、俺に本当のことを言えと迫った。
「本当の事とは何だ?」
「いや、だからさ。お前はどこから来た?親が虐待するようなところだったりさ、その外見で虐めに遭ってやむにやまれぬ事情で家出だったらね、聞いてやるからさ、言え。」
「そんな高圧的に言え言われて、告白する奴何ぞこの世にいないね!」
「そうか。では、実力行使で。」
俺はハッとした。
俺が転がされたのが、奴が使用しているらしいベッドの手前ではないか、と。
これは危機的状況だ。
召喚者に召喚された悪魔は取りあえず無力だ。
俺は自分の身が可愛いのならば、自分の身の上を考えるべきなのである。
奴の望む愛人となれば、ベッドでの情事は当たり前の行為じゃないか。
そして、俺に真実を言えと言い張る男は、俺が未成年の人間であれば手が出せないと歯噛みしている様子もある。
そこで俺は両手を合わせ、この世界の男であればグッとくるであろう、上目遣いという表情で、嘘を騙ることにした。
「ヴァクラって言います。ね、年齢は十九歳です。やむにやまれぬ事情があるので、しばらく匿ってください。」
そのしばらくの間に契約解除の方法を見つけ出して見せる!
こんな決意を抱きながら、お願い、という風に笑顔を作った。
「え、何すんのよ!」
瀬戸は俺に襲いかかるようにしてがばっと持ち上げ、どさっとベッドに放り投げた。
「俺は未成年だって!」
「十九は大丈夫だ。よし、いい子だ。宿代としてまずやろうか?」
「まってまってまって!心の準備!俺を愛人にしたいなら!俺への誘惑をちゃんとしようよ!こんな急なのは嫌だよ!」
俺は何を言っているのか。
しかし、瀬戸は大笑いをして見せると、簡単に俺を解放した。
それから仁王立ちをして見せると、俺に通告をしてきやがったのだ。
「お前を匿う期限は一週間。それ以上ここにいたいならば、その理由をちゃんと俺に話せ。俺の愛人になりたきゃ、ハハハ、俺を誘惑しても構わないよ。」
「放置プレイか!この俺を!」
俺は外見は最高級な悪魔だというのに!
この人間は俺の魅力にぐらりともこなかったのか?
瀬戸はさらに若者らしい笑い声をあげた。
人間にしては見事な、いや、永遠の命を持つ悪魔だから俺がそう思っただけなのかもしれないが、一瞬の生しかない生き物しか纏えない命の輝きともいえる笑顔は尊いものである。
だからこそ、俺はこの人間の笑顔は美しいと素直に認めた。
笑顔だけね。
奴は全くデリカシーのない男だ。
奴は俺を残してシャワーを浴びに消え、そのままベッドに転がって寝始めたのだ。
え、俺は?って奴。
「風呂場に着替えのTシャツを置いといた。お前もシャワーを浴びて寝ろ。就寝時間だ。」
「え?どこで寝るの?」
「俺の隣は開いているな。床でも、お好きな所に。」
床で寝るのはプライドが邪魔をし、俺は奴の隣に横になって枕になったのだと思い返した。
悔しい事に、瀬戸は本気で爆睡しており、昨夜はその後は何もなく、本当に、忌々しいぐらいに何もなかったのである。
チャームレベルの高い悪魔なはずの俺のプライド!!!
思い返しながら憎々しく瀬戸を見やれば、昨夜の笑い顔など全く消えている、やはり仏頂面をした瀬戸が食卓に着いていた。
「うむ。」
悪魔である俺が渡した茶碗を、人間でしかない小さな人間が受け取った。
この小さな人間は真っ黒で固そうな髪の毛を首のあたりで一本髷に結っており、しかしながら着ている服が白のブラウスにピンクのジャンパースカートと、なんだかちぐはぐな印象でもある。
子供のくせに彼女がしかめっ面であるのは、この似合わない服を着せられている不満でもあるのだろうか。
彼女は朝食に起きて来て、俺を初めて見て、目を丸くするや、猫のようにぴょんと飛び上った。
凄く驚いたのだろうが、その動作で彼女に俺との関係を追及する予定だった彼女の兄は、「うむ。」とだけ言い、彼女に席につくように促しただけだった。
いや、今日から一週間居候することになったヴァクラだと、兄が俺を紹介した時の彼女の返答が、「うむ。」だけであったと思い出す。
瀬戸家では「うむ。」で意志疎通をしているのであろうか。
俺は兄の方を見た。
仏頂面だった。
妹、美亜を再び見返した。
しかめっ面だ。
昨夜は彼女の兄に彼女はこっぴどく叱られたそうなので、それはそのための不機嫌であるのかと思ったが、瀬戸家の標準装備なのかもしれない。
いやいや、普通に兄妹喧嘩中と見るべきか?
まあ、それならば、不機嫌は反省している証拠だ、許してやろう。
この子があんな魔法陣を描いたがために、俺がこうして苦境に落とされたのだから!
本当は俺を苦境に落としたのは上司キメジェスであるが、とりあえずとして俺を恋人とするという願いを口にした人間を見つめ返した。
その男、 瀬戸是之。
人間でしかない、二十八になろうかという程度の年端も行かぬ生き物でしかないくせに!この俺に愛人契約を持ちかけてきたとは!
今は台所でエプロンをつけて味噌汁をよそっているが、エプロンの下は紺色の制服姿だという男を見つめた。
その制服姿であるわけは、彼がこの建物において24時間責任があるという職務中であるからだそうだ。
そんな堅物男である彼は、昨夜は俺を担いで自分の部屋に連れ込んで、俺に本当のことを言えと迫った。
「本当の事とは何だ?」
「いや、だからさ。お前はどこから来た?親が虐待するようなところだったりさ、その外見で虐めに遭ってやむにやまれぬ事情で家出だったらね、聞いてやるからさ、言え。」
「そんな高圧的に言え言われて、告白する奴何ぞこの世にいないね!」
「そうか。では、実力行使で。」
俺はハッとした。
俺が転がされたのが、奴が使用しているらしいベッドの手前ではないか、と。
これは危機的状況だ。
召喚者に召喚された悪魔は取りあえず無力だ。
俺は自分の身が可愛いのならば、自分の身の上を考えるべきなのである。
奴の望む愛人となれば、ベッドでの情事は当たり前の行為じゃないか。
そして、俺に真実を言えと言い張る男は、俺が未成年の人間であれば手が出せないと歯噛みしている様子もある。
そこで俺は両手を合わせ、この世界の男であればグッとくるであろう、上目遣いという表情で、嘘を騙ることにした。
「ヴァクラって言います。ね、年齢は十九歳です。やむにやまれぬ事情があるので、しばらく匿ってください。」
そのしばらくの間に契約解除の方法を見つけ出して見せる!
こんな決意を抱きながら、お願い、という風に笑顔を作った。
「え、何すんのよ!」
瀬戸は俺に襲いかかるようにしてがばっと持ち上げ、どさっとベッドに放り投げた。
「俺は未成年だって!」
「十九は大丈夫だ。よし、いい子だ。宿代としてまずやろうか?」
「まってまってまって!心の準備!俺を愛人にしたいなら!俺への誘惑をちゃんとしようよ!こんな急なのは嫌だよ!」
俺は何を言っているのか。
しかし、瀬戸は大笑いをして見せると、簡単に俺を解放した。
それから仁王立ちをして見せると、俺に通告をしてきやがったのだ。
「お前を匿う期限は一週間。それ以上ここにいたいならば、その理由をちゃんと俺に話せ。俺の愛人になりたきゃ、ハハハ、俺を誘惑しても構わないよ。」
「放置プレイか!この俺を!」
俺は外見は最高級な悪魔だというのに!
この人間は俺の魅力にぐらりともこなかったのか?
瀬戸はさらに若者らしい笑い声をあげた。
人間にしては見事な、いや、永遠の命を持つ悪魔だから俺がそう思っただけなのかもしれないが、一瞬の生しかない生き物しか纏えない命の輝きともいえる笑顔は尊いものである。
だからこそ、俺はこの人間の笑顔は美しいと素直に認めた。
笑顔だけね。
奴は全くデリカシーのない男だ。
奴は俺を残してシャワーを浴びに消え、そのままベッドに転がって寝始めたのだ。
え、俺は?って奴。
「風呂場に着替えのTシャツを置いといた。お前もシャワーを浴びて寝ろ。就寝時間だ。」
「え?どこで寝るの?」
「俺の隣は開いているな。床でも、お好きな所に。」
床で寝るのはプライドが邪魔をし、俺は奴の隣に横になって枕になったのだと思い返した。
悔しい事に、瀬戸は本気で爆睡しており、昨夜はその後は何もなく、本当に、忌々しいぐらいに何もなかったのである。
チャームレベルの高い悪魔なはずの俺のプライド!!!
思い返しながら憎々しく瀬戸を見やれば、昨夜の笑い顔など全く消えている、やはり仏頂面をした瀬戸が食卓に着いていた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
彼が幸せになるまで
花田トギ
BL
一緒に暮らしていた男の息子蒼汰(そうた)と暮らす寺内侑吾(てらうちゆうご)は今ではシングルファザーだ。
何やらワケアリの侑吾に惹かれるのは職場の常連の金持ち、新しく常連になった太眉の男――だけではなさそうである。
ワケアリ子持ち独身マイナス思考な侑吾くんが皆に好き好きされるお話です。
登場人物
寺内侑吾 てらうちゆうご 主人公 訳あり 美しい男
蒼太 そうた 雪さん(元彼)の息子
近藤夏輝 こんどうなつき 人懐こいマッチョ
鷹司真 たかつかさまこと 金持ちマッチョ
晃さん あきらさん 関西弁の大家さん
【BL】ヒーローが裏切り者を地下に監禁して、ひたすら性的拷問を繰り返す話【ヒーロー高校生×悪の科学者大学生】
ハヤイもち
BL
”どうして裏切ったんだ!?”
地球侵略のために宇宙からやってきた悪の組織”チョコバイダー”。
それに対抗するために作られた人類の秘密組織アスカ―の一員である日向は高校生をしながら
日々宇宙人との戦いに明け暮れていた。
ある日怪人に襲われている大学生、信を助ける。
美しくミステリアスな彼に日向は急激に惹かれていく。
そして彼と仲良くなり、彼を仲間に引き入れるが、
何やら彼には秘密があるようで・・・・。
※※※
これは表のあらすじで、主人公はミステリアスな大学生の信。
彼は実は悪の組織チョコバイダーの天才科学者だった。
裏切り者の彼に対し、日向は復讐と称して彼を監禁し、快楽地獄で屈服させようとする。
少しずつ信の内側が明らかになっていく。
高校生×大学生
ヒーロー×悪役
の片思いBL。そこはかとなくヤンデレ。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
コネクト
大波小波
BL
オメガの少年・加古 青葉(かこ あおば)は、安藤 智貴(あんどう ともたか)に仕える家事使用人だ。
18歳の誕生日に、青葉は智貴と結ばれることを楽しみにしていた。
だがその当日に、青葉は智貴の客人であるアルファ男性・七浦 芳樹(ななうら よしき)に多額の融資と引き換えに連れ去られてしまう。
一時は芳樹を恨んだ青葉だが、彼の明るく優しい人柄に、ほだされて行く……。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる