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第二章 愛人よりも居候で!

取りあえずはお預かりの第一日目の朝ご飯

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「ど、どぞ。」

「うむ。」

 悪魔である俺が渡した茶碗を、人間でしかない小さな人間が受け取った。
 この小さな人間は真っ黒で固そうな髪の毛を首のあたりで一本髷に結っており、しかしながら着ている服が白のブラウスにピンクのジャンパースカートと、なんだかちぐはぐな印象でもある。
 子供のくせに彼女がしかめっ面であるのは、この似合わない服を着せられている不満でもあるのだろうか。

 彼女は朝食に起きて来て、俺を初めて見て、目を丸くするや、猫のようにぴょんと飛び上った。
 凄く驚いたのだろうが、その動作で彼女に俺との関係を追及する予定だった彼女の兄は、「うむ。」とだけ言い、彼女に席につくように促しただけだった。

 いや、今日から一週間居候することになったヴァクラだと、兄が俺を紹介した時の彼女の返答が、「うむ。」だけであったと思い出す。
 瀬戸家では「うむ。」で意志疎通をしているのであろうか。

 俺は兄の方を見た。
 仏頂面だった。
 妹、美亜を再び見返した。
 しかめっ面だ。

 昨夜は彼女の兄に彼女はこっぴどく叱られたそうなので、それはそのための不機嫌であるのかと思ったが、瀬戸家の標準装備なのかもしれない。
 いやいや、普通に兄妹喧嘩中と見るべきか?
 まあ、それならば、不機嫌は反省している証拠だ、許してやろう。

 この子があんな魔法陣を描いたがために、俺がこうして苦境に落とされたのだから!

 本当は俺を苦境に落としたのは上司キメジェスであるが、とりあえずとして俺を恋人とするという願いを口にした人間を見つめ返した。

 その男、 瀬戸是之せとこれゆき

 人間でしかない、二十八になろうかという程度の年端も行かぬ生き物でしかないくせに!この俺に愛人契約を持ちかけてきたとは!

 今は台所でエプロンをつけて味噌汁をよそっているが、エプロンの下は紺色の制服姿だという男を見つめた。
 その制服姿であるわけは、彼がこの建物において24時間責任があるという職務中であるからだそうだ。
 そんな堅物男である彼は、昨夜は俺を担いで自分の部屋に連れ込んで、俺に本当のことを言えと迫った。

「本当の事とは何だ?」

「いや、だからさ。お前はどこから来た?親が虐待するようなところだったりさ、その外見で虐めに遭ってやむにやまれぬ事情で家出だったらね、聞いてやるからさ、言え。」

「そんな高圧的に言え言われて、告白する奴何ぞこの世にいないね!」

「そうか。では、実力行使で。」

 俺はハッとした。
 俺が転がされたのが、奴が使用しているらしいベッドの手前ではないか、と。
 これは危機的状況だ。
 召喚者に召喚された悪魔は取りあえず無力だ。
 俺は自分の身が可愛いのならば、自分の身の上を考えるべきなのである。

 奴の望む愛人となれば、ベッドでの情事は当たり前の行為じゃないか。

 そして、俺に真実を言えと言い張る男は、俺が未成年の人間であれば手が出せないと歯噛みしている様子もある。
 そこで俺は両手を合わせ、この世界の男であればグッとくるであろう、上目遣いという表情で、嘘を騙ることにした。

「ヴァクラって言います。ね、年齢は十九歳です。やむにやまれぬ事情があるので、しばらく匿ってください。」

 そのしばらくの間に契約解除の方法を見つけ出して見せる!
 こんな決意を抱きながら、お願い、という風に笑顔を作った。

「え、何すんのよ!」

 瀬戸は俺に襲いかかるようにしてがばっと持ち上げ、どさっとベッドに放り投げた。

「俺は未成年だって!」

「十九は大丈夫だ。よし、いい子だ。宿代としてまずやろうか?」

「まってまってまって!心の準備!俺を愛人にしたいなら!俺への誘惑をちゃんとしようよ!こんな急なのは嫌だよ!」

 俺は何を言っているのか。
 しかし、瀬戸は大笑いをして見せると、簡単に俺を解放した。
 それから仁王立ちをして見せると、俺に通告をしてきやがったのだ。

「お前を匿う期限は一週間。それ以上ここにいたいならば、その理由をちゃんと俺に話せ。俺の愛人になりたきゃ、ハハハ、俺を誘惑しても構わないよ。」

「放置プレイか!この俺を!」

 俺は外見は最高級な悪魔だというのに!
 この人間は俺の魅力にぐらりともこなかったのか?

 瀬戸はさらに若者らしい笑い声をあげた。
 人間にしては見事な、いや、永遠の命を持つ悪魔だから俺がそう思っただけなのかもしれないが、一瞬の生しかない生き物しか纏えない命の輝きともいえる笑顔は尊いものである。
 だからこそ、俺はこの人間の笑顔は美しいと素直に認めた。
 笑顔だけね。

 奴は全くデリカシーのない男だ。
 奴は俺を残してシャワーを浴びに消え、そのままベッドに転がって寝始めたのだ。

 え、俺は?って奴。

「風呂場に着替えのTシャツを置いといた。お前もシャワーを浴びて寝ろ。就寝時間だ。」

「え?どこで寝るの?」

「俺の隣は開いているな。床でも、お好きな所に。」
 
 床で寝るのはプライドが邪魔をし、俺は奴の隣に横になって枕になったのだと思い返した。
 悔しい事に、瀬戸は本気で爆睡しており、昨夜はその後は何もなく、本当に、忌々しいぐらいに何もなかったのである。
 
 チャームレベルの高い悪魔なはずの俺のプライド!!!

 思い返しながら憎々しく瀬戸を見やれば、昨夜の笑い顔など全く消えている、やはり仏頂面をした瀬戸が食卓に着いていた。
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