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監視室を抜けるとそこは大きなお屋敷だった

階段で口説いて見せろと言ったばかりに!

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 ユージンは俺を彼の肩に担ぎ上げると、彼のアルデバランが凄惨な世界を作っている最中、悠々と階段へと向かい始めた。

 ちょっと待て。
 アルデバランという魔法で無双しているならば、普通に歩いて普通の出口からさようならをした方が良いのでは?

「ちょ、ちょっと!おい、ユージン。今ならこの屋敷の通常出口から逃げられるだろう?どうしてわざわざ階段使って屋根裏というか最上階のルーフバルコニーを目指すんだよ!」

「え?君が提案したんじゃないのさ。俺は愛する君の奴隷。君の言うがままに行動するだけですよ。」

「じゃあ、命令はチェンジ!通常エントランスから出よう!今すぐ出よう!」

 しかし俺はユージンの肩で揺らされるままであり、ユージンはエントランスなどに向かう事などしなかった。

「どうして!」

「階段で口説いて欲しいと言ったのは君だ。」

「階段以外の場所でも口説けるだろ?」

「階段というシチェーションが欲しい。」

 俺はユージンの肩で揺れながら、愛していると言った相手を縛ったまま荷物のように肩に担いでも平気な男に期待などするなと、いつまでたっても甘ちゃんな自分を叱りつけていた。

 だが、俺がユージンに少しでも期待してしまうのも仕方が無いだろう。

  魔王様おやぢは レグルスぱぱが笑ってくれるならばと、オーク型の自動人形という耕運機をこの世に作り出した。さらにパパの国が豊かになるようにと、白地に黒のぶち柄のよくある牛だって贈ったのだ。さらに言わせてもらえば、贈られた牛には、黒ハート模様がブチの中にあるから探せ的な遊び心があるキュートなものらしい。

 ちなみに、牛にハート柄のブチもある何てことは、二十数年経った今でも、レグルスは未だに全く気が付いていないそうだ。
 まあ、レグルスは、自分の国が滅んでも別に構わない程度にしか故郷を思っていないのだから仕方がないか?

 さて、一応人間なユージンに魔王並みのことなど望まないが、せめて、一般の人間並みには優しく口説いてくれても良いのでは無いだろうか。

 それに俺が応えるかは、物凄く高みに置いておくが!

「縛ったままでごめん。」

 階段についた途端にユージンの肩から降ろされた。
 俺は後ろ手にされている状態なのは変わらないが、ユージンは俺の背中にそっと指先を当てるぐらいの触れ合いに留めていた。

 ごめん、なんて言ったよ!
 どうした?

「でもさ、君は照れ屋だろ?俺が君について全て言い切るまで、このままにしていいかな。解いた後はいくらでも殴ってもいいから。」

「お?お、おう。」

「ああ、よかった。」

 ユージンは反則と見做していいほどの素晴らしい笑顔を浮かべた。

「では、君の腰を抱くよ。アルデバランもあるし、これはいいよね?」

「お、おう。」

 やばい。
 ユージンが初めて人らしい言葉を話し、人らしい素振りをしてくれている。
 俺はそれだけでほだされてしまいそうだと、自分が何に飢えていたのか気が付いてしまった程だ。

 俺は分かり合える友が欲しかったんだ!
 実家では親父たちがラブラブすぎて、子供の俺こそ目のやり場とか居場所が無い時もあったもの!

「俺はさ、言ったっけ?三か月前に君が俺を助けてくれた時、君が凄く格好良くて愛してしまったという事を。」

「う、ううん。言ってないと思う!」

 やばい。
 格好いいなんてユージンに言われた!

「あの日の君はチュニックの下には何も履いていなかった。短い裾がはためいて、カモシカのような健康的に筋肉で締まった足どころか、きゅっとしたお尻まで見えたんだよ。ああ、俺はあそこに突っ込もうと、その時に決意したんだと思う。」

 俺の気持ちはそこでシューと萎み、俺はどうしてユージンに毎回期待してしまうのかなって、騙されてばかりの自分にこそ見切りをつけるべきのような気がしていた。
 どうして、ユージンに一喜一憂する自分がいるのかも不可解でしか無いが。
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