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第一章 出会い頭の吹雪
夢と出会い
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例えば、何か悪い事が起こるとして、それを止める事は出来るのだろうか。
その悪い事、というのは前兆があるかもしれないし、ないかもしれない。あったとしても小さかったり、当たり前すぎたり、逆に大きすぎて分からなかったり、分かっていても止めようがないかもしれない。もしかすると、勘違いだと思って気にも留めないかもしれない。
けれどもし、もしもだ。
止めようとして悪化したら、どれだけ後悔するか。
でも、今回はそうではない。最悪の状況に陥った訳ではなく、ただ成るようになってしまっただけ。とは言っても、悪い事には変わりはない。さっき挙げた中でどれに分類されるかはさておき、彼らは『家』を失くした。
いや、その家は焼かれているのだ。今、目の前で。
轟々と燃え盛り、全てを灰と化すような勢いで炎は家を飲み込む。
少年と少女、家に住んでいた彼女らは何を思っているのだろう。憎しみか、復讐のための怒りか、それとも家を奪われた事への悲しみか。
——こんなの……こんなのあんまりだ……。
少年は否定する。今起きている惨劇は現実ではないと、この感情が嘘だと。
——いや、待て。俺はこんな家は知らない。隣にいる彼女も。
だが、彼は気づく。記憶と現状との違和感に。
——そもそも、一体……一体俺は……俺は誰だ?
記憶がない、その事に今更ながらも気づく。自身の記憶や名前が思い出せず、そもそも何故今に至るかの記憶すらも無かった
——俺は……俺は何故……
彼の感情には徐々に混乱が交じる。記憶の曖昧、現状の悲惨さ。何もかもが理解できない。
やがて、彼の意識は朦朧としていく。いや、はっきりとしてくると言った方が正しいか。何にせよ、視界に広がる火の惨劇からは離れていく。
——おい、ちょっと待ってくれ……!
現状の把握もできないまま、視界は一気に暗くなる。
「ハッ……! 夢、か」
少年は仰向けの状態から勢いよく飛び起きると同時に、今までの見ていた物は現実ではなかった事に気がつく。あんな悲惨な出来事が夢だけに止まっている事には安堵のため息を漏らす。
だが、彼の呼吸は荒く、心臓の鼓動は収まる事を知らない。全身にまとわりつく冷や汗も、止まることはない。それは、先の夢が現実だったからこそ、彼の中にある感情が収まりきらないのではないか。
「……とりあえず、帰るか」
彼はその嫌な感情を振り払うため、何か行動を起こそうとする。
地面に座っていた状態から、両足を使い、立つ。そして、周りを見渡し自分がどこにいるかを確認する。
どうやらここは、どこかの森の中のようだ。日が入ってこないほど、木が生い茂ってる訳でもなく、かといって遠くが見えるほど過疎でもない。程よい塩梅の森であった。
だが、彼はそんな中で妙な違和感に襲われる。
「背中がなんかかゆいな……」
それが違和感の正体、ではない。
もっと根本的な問題。それがなぜ起こっているのか。なぜ背中に手を回した時、直接肌に触れられるのか。それさえ気づければ、
「そこに誰かいるの?」
あともう少し早く気づければ、この後の不幸な出来事を避けられたかもしれないというのに。
「うん……? ああ、ここにいるぞ」
「敵意は……ないみたいね」
木の陰から出てくる人物、それは年齢的にも身長的にも少年より一回り小さい少女だった。
「ここで何して……」
少女は最初、普通に接しようとしたが、すぐに視線を下に向けて少年の異常に気がつく。
「きゃあああ! アンタなんで裸なのよ!」
「へ……?」
少女悲鳴をあげられ、少年は自身の体を見回す。そこでやっと自分が今どういう状況なのかを理解し、二回目の冷や汗が、全身から決壊したダムのように流れていく。
男の象徴、ナニが股の間を自由気ままにぶら下がり、露出をしてしまっていた。
「なんで……」
その疑問を浮かべるのは当然だ。だが、間違いでもある。
「なんで俺裸なんだ!!!!」
森の中の困惑の叫び。しかし、そんな事をしている場合じゃないと、少年は少女からの怪訝な視線で気がつく。
彼女はまるで少年を不審者かのように睨む。いや、はたから見れば実際、不審者である事は間違いない。
そして、少年はこの状況で、とある方程式を組み立てる。
自身を睨みつづける少女、ここから何が導き出せるのか、通報、警察沙汰、逮捕、最後には刑務所送り。このままでは、その彼の予想が現実と化してしまうだろう。そして、確実に社会的な意味で殺されてしまう。そうなる前に弁明をしなければならない。
「いやそのこれは、気がついたらこうなってたわけで……べつに裸が好きな訳じゃなくて……記憶がないんだ! とにかく信じてくれ!」
「……信じられる訳がない」
少年の必死の抵抗も虚しく、少女の冷ややかな目は続く。
「くそ、こうなったら……!」
「あ、ちょっと!」
誤解を解くのは不可能、そう判断した彼は逃走を選択する。だが、
「うわ!?」
その足は走り出した瞬間にもつれ出し、体は切り倒される木のように地面と平行になっていく。しかも、彼に降りかかる不幸はそれだけではない。
「ふごっ!?」
彼が倒れた先には木の根っこが地面から隆起しており、彼の頭と衝突し、意識を失わせてしまう。
「……いったいなんだったの?」
裸かと思えば逃げ出し、勝手に転び自滅する。そんな少年の不可解な行動の一連に、彼女は困惑するしかなかった。
これが、物語の始まりだ。
その悪い事、というのは前兆があるかもしれないし、ないかもしれない。あったとしても小さかったり、当たり前すぎたり、逆に大きすぎて分からなかったり、分かっていても止めようがないかもしれない。もしかすると、勘違いだと思って気にも留めないかもしれない。
けれどもし、もしもだ。
止めようとして悪化したら、どれだけ後悔するか。
でも、今回はそうではない。最悪の状況に陥った訳ではなく、ただ成るようになってしまっただけ。とは言っても、悪い事には変わりはない。さっき挙げた中でどれに分類されるかはさておき、彼らは『家』を失くした。
いや、その家は焼かれているのだ。今、目の前で。
轟々と燃え盛り、全てを灰と化すような勢いで炎は家を飲み込む。
少年と少女、家に住んでいた彼女らは何を思っているのだろう。憎しみか、復讐のための怒りか、それとも家を奪われた事への悲しみか。
——こんなの……こんなのあんまりだ……。
少年は否定する。今起きている惨劇は現実ではないと、この感情が嘘だと。
——いや、待て。俺はこんな家は知らない。隣にいる彼女も。
だが、彼は気づく。記憶と現状との違和感に。
——そもそも、一体……一体俺は……俺は誰だ?
記憶がない、その事に今更ながらも気づく。自身の記憶や名前が思い出せず、そもそも何故今に至るかの記憶すらも無かった
——俺は……俺は何故……
彼の感情には徐々に混乱が交じる。記憶の曖昧、現状の悲惨さ。何もかもが理解できない。
やがて、彼の意識は朦朧としていく。いや、はっきりとしてくると言った方が正しいか。何にせよ、視界に広がる火の惨劇からは離れていく。
——おい、ちょっと待ってくれ……!
現状の把握もできないまま、視界は一気に暗くなる。
「ハッ……! 夢、か」
少年は仰向けの状態から勢いよく飛び起きると同時に、今までの見ていた物は現実ではなかった事に気がつく。あんな悲惨な出来事が夢だけに止まっている事には安堵のため息を漏らす。
だが、彼の呼吸は荒く、心臓の鼓動は収まる事を知らない。全身にまとわりつく冷や汗も、止まることはない。それは、先の夢が現実だったからこそ、彼の中にある感情が収まりきらないのではないか。
「……とりあえず、帰るか」
彼はその嫌な感情を振り払うため、何か行動を起こそうとする。
地面に座っていた状態から、両足を使い、立つ。そして、周りを見渡し自分がどこにいるかを確認する。
どうやらここは、どこかの森の中のようだ。日が入ってこないほど、木が生い茂ってる訳でもなく、かといって遠くが見えるほど過疎でもない。程よい塩梅の森であった。
だが、彼はそんな中で妙な違和感に襲われる。
「背中がなんかかゆいな……」
それが違和感の正体、ではない。
もっと根本的な問題。それがなぜ起こっているのか。なぜ背中に手を回した時、直接肌に触れられるのか。それさえ気づければ、
「そこに誰かいるの?」
あともう少し早く気づければ、この後の不幸な出来事を避けられたかもしれないというのに。
「うん……? ああ、ここにいるぞ」
「敵意は……ないみたいね」
木の陰から出てくる人物、それは年齢的にも身長的にも少年より一回り小さい少女だった。
「ここで何して……」
少女は最初、普通に接しようとしたが、すぐに視線を下に向けて少年の異常に気がつく。
「きゃあああ! アンタなんで裸なのよ!」
「へ……?」
少女悲鳴をあげられ、少年は自身の体を見回す。そこでやっと自分が今どういう状況なのかを理解し、二回目の冷や汗が、全身から決壊したダムのように流れていく。
男の象徴、ナニが股の間を自由気ままにぶら下がり、露出をしてしまっていた。
「なんで……」
その疑問を浮かべるのは当然だ。だが、間違いでもある。
「なんで俺裸なんだ!!!!」
森の中の困惑の叫び。しかし、そんな事をしている場合じゃないと、少年は少女からの怪訝な視線で気がつく。
彼女はまるで少年を不審者かのように睨む。いや、はたから見れば実際、不審者である事は間違いない。
そして、少年はこの状況で、とある方程式を組み立てる。
自身を睨みつづける少女、ここから何が導き出せるのか、通報、警察沙汰、逮捕、最後には刑務所送り。このままでは、その彼の予想が現実と化してしまうだろう。そして、確実に社会的な意味で殺されてしまう。そうなる前に弁明をしなければならない。
「いやそのこれは、気がついたらこうなってたわけで……べつに裸が好きな訳じゃなくて……記憶がないんだ! とにかく信じてくれ!」
「……信じられる訳がない」
少年の必死の抵抗も虚しく、少女の冷ややかな目は続く。
「くそ、こうなったら……!」
「あ、ちょっと!」
誤解を解くのは不可能、そう判断した彼は逃走を選択する。だが、
「うわ!?」
その足は走り出した瞬間にもつれ出し、体は切り倒される木のように地面と平行になっていく。しかも、彼に降りかかる不幸はそれだけではない。
「ふごっ!?」
彼が倒れた先には木の根っこが地面から隆起しており、彼の頭と衝突し、意識を失わせてしまう。
「……いったいなんだったの?」
裸かと思えば逃げ出し、勝手に転び自滅する。そんな少年の不可解な行動の一連に、彼女は困惑するしかなかった。
これが、物語の始まりだ。
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