ツクモ!〜俺以外は剣とか魔法とかツクモとかいう異能力で戦ってるけど、それでも拳で戦う〜

コガイ

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第二章 異次元の魔術師

平和平和、それが一番

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 メティスとルディア、そしてリルが部屋で和解し、話している最中に第四の人物が現れる。それは

「メティス様! 何故そこにいるのですか!」

 怒号を飛ばしながら入ってくる、白い三角頭巾と割烹着を見に纏ったカリューオンだった。

「あら、カリュ。おはよう」
「おはようございます。……ではなくてですね!」

 メティスの挨拶に反応し、すぐさまきちんとした礼を返す銀狼人カリューオン。しかし、すぐさまお説教モードに入る。

「メティス様、昨日の夜は一睡もしておりませんね? 
 しかも、この部屋でずっと起きていたのでは?」
「もう、困ったちゃんね。一体何を根拠に言っているのかしら」
「昨日の夜、寝る前にメティス様に話があったのですが、他の部屋を見てもいなかったので」
「……その時だけに用があったの」
「あれ? 俺、夜中に目を覚ました時にメティス、いた気がするんだけど……」
「ちょっと、リルーフくん。あんまりネタばらしをしちゃいけないの」
「やっぱり寝てないんじゃないですか! 
 メティス様の体は、メティス様一人の物ではないのですからもっと体に気を使って……!」

 漫才まがいの説教に、困惑するリルとルディア。
 何故カリューオンがメティスの行動を推理できたのかとか、夜中ずっと起きていたメティスは大丈夫なのかとか、もうそこの所がどうでも良くなっていた。

「一体、何を見せられてるのよ……」
「……シラネ」

 二人とも今すぐここから立ち去りたい気分であったが、リルは体を動かせず、それを不便に思ったのか、ルディアは話の方向性を変える。

「それよりもカリュ。朝食を作ってたんじゃないの?」
「む? ああ、そうだったな。実はそれはもう出来上がってる。だからリルーフたちを呼びに来たんだ。
 ……そこの主人は少々予想外だったが。
 全く、早朝であるこの時間に起きているのは大体夜通し起きていた事しかないからな」

 そういう事か、と二人は納得する。
 主人と共に行動しているからこそ分かる事であった。

「まあまあ、そんなこと言わずに。
 朝ご飯はできているのよね?」
「はい。すでに食卓に用意しています。リルーフの分は別途用意していますが……」
「なら、ここで食べましょうか」

 メティスがスッと指を動かすと、何ということでしょう。
 一瞬にしてリビングにあった食卓と椅子が、この部屋に移動させられる。しかも、その上には六人分の朝食が載せられており、その中の一つはスープらしき料理だ。

「うお……何度見ても、すごいなその魔法」
「でも何でこっちに移動させるのよ……」
「あら、食事はみんなで食べた方が美味しいって、貴女の母親から聞いたのだけれど?」
「何もここに持ってこなくても……」

 自身の母親、それを持ってこられたからか、ルディアは反論もなく、けれども頭を左右に振り、ツッコミを諦める。

「それで、載ってるのは六人分……この場にいる四人と、ヨシアキと、あとピテーコスもいるの?」
「ええ、彼女は極度の人間嫌いですが、慣れてもらおうかと思いまして」
「いつの間にかリルが襲われたりは?」
「大丈夫、あの子はそんな事しないわ。もししようとしても、その為にも私がここで見張っているもの」

 ——主人の見ている前で暗殺するわけないか。

 ルディアはそう考え、ピテーコスへの疑念は晴らす。今だけは大丈夫だと。

「そう、ならいいわ。とにかく朝ごはんにしましょ。
 私はヨシアキを呼んでくるから、カリュはあの猿を呼んできて」
「ヨシアキ……ああ、あの男の子か。わかった。
 ただ、ルディア。毎度の事だが、彼女の前でその呼び方はするなよ?」
「はいはい、抑えが効かなくなるから、でしょ? それくらい、私も分かってる」

 そんな話をしながらも、ルディアとカリューオンは部屋を出る。それぞれ別の人をここに連れてくる為に。
 そして、三分後。さっきに戻ってきたのは、善明を連れてきたルディアだった。

「なあ、ルディア。何でこっちに行くんだ? 
 朝食だったらリビングに……何で食卓がこっちに移動してるんだ?」
「さあね。どっかの誰かが持ってきたんじゃない?」
「あら、これは私なりの優しさよ。
 だって、リルは指一本も動かせないもの。一人で食べさせるなんてかわいそうじゃない?」
「え!? さとる、そんなに怪我してるのか!?」

 善明は記憶の中にある友人を無意識に口にしながらも、リルに近づき心配する素振りを見せる。
 布団を剥がして、右手を取ったり、体中を触ったりと。しかし、それはリルにとって悪手であった。

「いででで!!」
「あっ、ご、ごめん!」

 彼の行動全てが、リルの強烈な痛みへと変わる。
 それに気づいた善明はすぐさま手を離す。ルディアがやっていた事を繰り返しているようだ。

「ヨシアキくん、昨日も言ったでしょう? 彼は怪我人だって。
 傷もそうだけれど、昨日の戦いで限界以上の力を出し過ぎたせいで、全身にその反動を受けているの」

 その話、ルディアにとっては初耳ではあるが、リルが起き上がらない事を不自然に思っており、そうではないかと予想はしていた。

「す、すみません、忘れてました。
 えっと……メティス・ウィザードさんで、よろしかったでご、ござりましょうか?」
「メティスでいいわ。その敬語をやめても、ね?」

 年上らしく見えるメティスに、唯一かしこまるような言葉を使う善明。慣れていないのか、その使い方はおかしいが、彼女は優しく受け止める。

「わ、わかりまし……分かった。
 ふぅ……俺、敬語苦手だから、そう言ってくれて助かったよ」

 その一連の流れに、一つ指摘をするべきだと思う者がいた。
 いや、本当の事を言えば二つなのだが、今すべきなのは一つだと彼女は判断する。メティスがどうして異世界人の、もっと言えばこの世界にない言語を話せるのか、というは置いておく。
 なぜなら、メティスがであり、叡智の賢者と呼ばれるほどの知識を持っているからだ。異世界の事を感知していおり、その言葉を習得していても不思議ではない。

「リル、その包帯……」

 彼女が、ルディアが指摘したのはリルの左腕に巻かれた包帯であった。
 今まで布団に隠されており見えなかったが、それは隙間なく巻かれており、左腕全体、指の先までを覆っていた。
 つまり、その下には傷だらけだという事。処置の仕方からどうやら骨折ではないようだが、それでもひどいことには変わりないだろう。

「ああ……これか? メティスと戦った時にちょっとな」
「無茶したって事……?」
「まあ、そういう事になる」

 ——これは、怒られるな。

 記憶は失っているものの、体が覚えているのか、リルはそう予測する。
 無茶をした。自身がそう感じていなくとも、そうせざるを得なかったとしても、他人がそう判断すれば、お叱りが飛んでくる事がおおよその常だ。今回もそうなる……

「……今回は良い結果になったから、大目に見てあげる。けど、今後は気をつけなさいよ。
 無茶は、自分が死ぬかもしれないって時だけすること」
「あ、ああ。そうするよ」

 事は無かった。
 少しばかり説教も入ったが、彼女の言葉はは優しく諭すだけに収まる。

「そう言えば、カリュはどうなったのかしら、ルディア?」
「部屋に入っていたのは見たけど、そこからは知らないわ」
「なら、ピティの説得に手間取ってるわね。あの子の人間嫌いは筋金入りだもの。
 ……と、噂をすれば、ね」

 メティスの言う通り、話題の二人が部屋に入ってくる。
 嫌そうな顔をしながら子供のように暴れている寝巻き姿のピテーコス、それを強引に引っ張り、連れてきたカリューオンだ。

「い、や、だ! なんでアチキが人間共と、しかもわざわざ飯の時間に同席しなくちゃならないんだ!」
「メティス様がそれをお望みだからだ。
 お前が人間を嫌っている理由は理解できるが、メティス様の考えも少しは汲み取ったらどうだ」
「それでも嫌だ! あんな奴らとなんて……」

 なんともやかましい入室ではあるが、これで全員が揃ったと言う事になる。

「おはよう、ピティ」
「メ、メティス様!? お、おはようございます……」

 ジタバタしていたピテーコスは主人の姿を視界に入れた瞬間、急に大人しくなり、身なりを正そうとする。
 ただし、寝巻きなので、どう頑張ってもだらしなく見えるのは仕方ない。

「さて、これで全員ね。みんな席に着いて、朝ご飯を食べましょう」

 メティスに促され、ベッドから動けないリルを除いてその場にる全員が食卓に着くとする。若干一名は複雑な顔をしながらではあるが、問題はないだろう。

「お、俺は……?」
「心配しなくても大丈夫よ。私が食べさせてあげるから」

 ルディアはそう良い、リル専用の病人食であるスープを持っていく。

「ほら、口開けて」

 あーん、と赤ちゃんかそれとも恋人ぐらいしか使わない、料理を口に持っていく行動を彼女は何の意識もせずに、リルへと行う。

「う、これ恥ずかしいな」

 対して彼はこの行動に少しばかりの恥を感じながらも、仕方なしに受け入れて、スプーンにすくわれたスープを口に含む。

「どう?」
「……うん、美味しいと思う」
「そう、ならカリュに伝えておくわね」
「ああ、伝えておいてくれ。
 ——それでその……ありがとう」
「え?」

 唐突なお礼に、戸惑ってしまうルディア。
 過程をすっ飛ばしたかのようなリルの言動には、誰しもが耳を疑ってしまうだろう。しかし、彼にもちゃんとした理由があった。

「その……さ。
 昨日、俺はどうなっても良いって諦めた時、お前が止めてくれなきゃ、生きる意味を見失ってた。
 過去を知ろうなんて思わなかった。だから……」

 ありがとう、その言葉を二回も言う事に彼はどこかむず痒さを感じてしまう。
 本来は顔を背けてしまいたいところだが、体は動かず、目を瞑るだけとなる。一回目は関係ない話の中だからこそ、言えたのだろう。

「その先ほ言わなくて良いわ。むしろ、私が感謝するべきなのかもしれない」
「え……?」
「あの時は、正直言ってただのエゴだった。もう誰も失いたくないって、もうあんな悲しい想いはしたくない、少なくともそんなエゴをアンタに押しつけてた。
 だからね、こんな私のこんなエゴで、生きる意味を見出してくれて、ありがとうって、本当に想ってるわ」

 礼を言うはずが、礼を言われた。
 しかも、何の恥じらいもなく、混じりっ気もない言葉に、リルはさらに赤面せざるを得なかった。

「よ、よくそんな事を真っ直ぐ言えるな」
「そんな事を想っているから言えるんじゃないの?」

 その光景は、平和そのものであろう。
 平和というものはいつまでも続くわけではないが、今はこれで良い。昨日の敵が同じ食卓の輪にいる。その内に何を抱えているかはさておき、団欒は素晴らしいものだ。
 せめて、彼らにこの一時の幸せを……

「ルディア! 昨日はアレだったけど、今日も今日とて勝負だ!」

 しかし、平和はすぐ崩れるものである。
 けれども、良いのかもしれない。これくらいならば。
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