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妖魔山編

1887.絶望的な状況

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「先程までの勢いはどうしたのだ。ほれ、纏めてかかってきても構わんぞ?」

 煌阿こうあは自信を漲らせながら、厭味な笑みを浮かべてミスズ達に向けてそう告げるのだった。

 スオウ、キョウカ、ヒノエの組長達は、視線を煌阿に向けたまま、ジリジリとゆっくりとした足取りでミスズの方へと集まっていく。

 どうやら妖魔退魔師の幹部達もこのままでは煌阿に歯が立たぬとみて、この戦闘の最中に作戦を練り直そうと考えたようである。

 確かに副総長のミスズや、組長格の面々も個々の力は大変優れているのだが、流石にランク『10』の中でも最上位と呼べる程の煌阿が相手では分が悪い。

 現在意識を失って地面に横たわっている妖狐達の中の七耶咫なやたでさえ、副総長のミスズやスオウ達が協力してやっと対等に渡り合えるかという程の実力差だというのに、この煌阿という相手はその七耶咫をたった数発で意識を失わせてみせたのである。

 更にいえば妖魔召士達の『僧全そうぜん』という『魔』の技法を用いてを図った上で、片腕を失った状態でこれだけの強さを有しているのである。

 流石に作戦もなしに個々が挑んでどうにかなる範疇にはないと、スオウ達は判断した様子であった。

 煌阿はミスズの元にゆっくりと集まっていくスオウ達を見て、更に笑みを深めていく。

(どうやら王琳や空の上に居る『魔神』とやらも、あの化け物の相手に手一杯でこちらには手を出せぬようだ。流石にあの化け物を見た時は終わったと思ったが、これならば俺は十分に生き延びられるだろう。あの人間共を一掃した後、再び『空間』を経由してこの山から去り、ほとぼりが冷めるを待ってから再びこの山の妖魔共を支配すればよい。今の俺は『卜部うらべ』とその血筋の人間の『力』すら自在に操れる状況にある。もう神斗も悟獄丸も翼族共も居ないのだ。この場さえどうにか出来れば、後はどうにでもなる……!)

 ちらりと空を見上げた煌阿は、今も幻覚に囚われて何かと戦い続けているであろうソフィを見て、自分を取り囲んでいる人間達を一網打尽にした後に、空間内へと身を隠そうと考え始めるのだった。

 …………

 やがて示し合わせたかの如く、スオウ、キョウカ、ヒノエの組長達がミスズの元に集うのだった。

「副総長、どうやらもう混乱に乗じて一気に奴をやっちまうって策は駄目みたいだ」

「ええ……、ヒノエ組長。先程彼女が奴に返り討ちにされたところをみて、これはもうと判断しています」

 ヒノエの言葉にそう返しながら、ミスズは眼鏡をあげる癖が出かけたが、自分が眼鏡をかけていない事に気付いて、自分が思っている程にではないのだと自覚し直した様子だった。

「それでどうするの? 総長やあの王琳おうりんって妖狐もこちらに何度か視線を向けてはいる様子が見受けられるけど、どうやらソフィさんの方を気にしているみたいでこちらの加勢までは期待できなさそうだけれど」

「向こうもこちら以上に切迫している状況が続いているものね……」

 今度はキョウカの言葉に、先程の総長達の行動を思い返して溜息を吐くミスズであった。

「それなんですけど、副総長。ソフィ殿がおかしくなったのは、どうやらあの妖魔のようですし、何とか少しの間だけでもシゲン総長にこちらの加勢を……」

「それは駄目です、スオウ組長」

「や、やはり難しいでしょうか……?」

「今のソフィ殿はとても正常な状態にあるとは言えません。いつまたあの天狗達を葬ったような恐ろしい『力』を私達に向けられるか分からない状況にあるのです。スオウ組長も先程の出来事は覚えておいででしょう? 何かあった時に何とか出来るのは、あの場に居る総長やヌー殿、それに王琳殿達だけなのです」

 ミスズは冷静に現在の置かれている状況を省みて、ソフィ殿の居る場所からシゲン総長達を離させるわけにはいかないとスオウに告げるのだった。

「しっかし、このままじゃどうにもなりませんよ? チビ助の言う通り、ソフィ殿がおかしくなっちまったのは、あの妖魔神って奴のせいで間違いないだろうし、アイツさえ倒せればソフィ殿も元通りになるかもしれねぇ。ここはいちかばちか、無理にでもシゲン総長に加勢を頼むのも一つの手ではないですかね?」

 スオウはヒノエがいつもの軽口で自分の事をチビ助と呼んでいるのではないという事は、真剣な表情と声色から直ぐに判断がついた為に、訂正を促すような言葉を掛けずにコクリと彼女に同意するように頷いて、ミスズの方に再び視線を向けるのだった。

 ――しかしそこへ件の妖魔から声が掛けられるのだった。

「オイ、いつまでぺちゃくちゃ内緒話をしているつもりだ? 向かってこないつもりなら、こっちからお前らを皆殺しにしてやる」

 そう言って悩んでいたミスズ達に向けて、煌阿は殺意を孕んだ視線を向けてくるのだった。

「仕方ありませ……っ!?」

 ミスズがもう猶予がないと判断して、総長に助力を申し出ますと告げようとした瞬間、恐ろしい重圧に空を見上げ始めるのだった。

 そしてその行動はミスズだけではなく、殺意の視線を向けていた煌阿や、大魔王ヌーにシゲンに王琳達も同様に空を見上げていた。

 ――全員の視線の先は、当然にであった。

 …………
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