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妖魔山編
1882.彼はどうしようもない化け物を知る
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次元の狭間から外に出てきたソフィは、未だ煌阿の生み出した幻覚の中に居た。
どうやら力の魔神から見ても、鵺である『煌阿』が放つ『魔』の概念技法と呼べる『呪い』には、この短期間で戻す事は容易ではないと判断していたようで、仕方なくソフィが自分で意識を取り戻すまで、何度でもその攻撃を防ぎながら耐えようという判断に出た様子だった。
「クックック……! 何という心地良い気分だろうか。さぁ、ではこれならばどうだろうか……」
大魔王ソフィのその喜々とした声の上擦り具合は、聞く者にさえ伝わる程の高揚感を感じさせる程だった。
ソフィは自身が出せるであろうと判断する『力』の七割までの開放を終えると、そこから更に現在では『三色併用』を伴い、過去最高と呼べる力の体現を果たしている状況にあった。
天狗の帝楽智と戦っていた頃のソフィは、最後の『終焉』を放つ瞬間を除けばまだランク『8.5』から『9』の範疇にあり、煌阿はその時のソフィの力量が全てなのだろうと、閉じ込められていたあの洞穴の中で判断していたが故に、自分が相手をすればどうとでもなると状況を甘く見ていた。
だからこそシギンや王琳が自分に向けてきた言葉に対しても全く真剣に考えることをせず、卜部官兵衛やその子孫であるシギンを相手にした時のような対策なども一切考えず、用意なども不要だとばかりに深くは考えずにここまできてしまった。
――しかし実際にこの『大魔王ソフィ』を前にして、如何に自分が間違っていたのかをようやく理解するに至った。
妖魔神の『神斗』の身体を乗っ取り、かつて自分を苦しめた『卜部官兵衛』の『魔』の技法を克服し、知識を増やす事に成功した後、更にはその子孫であるシギンから『魔』の概念と技法をモノにしてみせた煌阿だからこそ、自分の至った領域がどれほどの高みにあるかを理解していたのだ。
そしてこの状況に至って尚、煌阿は自分が如何に優れているかを他者に誇りたい気分すら抱いてはいる。そう確かに間違いなくそういう気分を抱いてはいるのだが、目の前のソフィという『存在』は、この誇れる今の自分の至っている領域から更に遥か高みに居る者にして、明らかな『別次元』の強さなのだと結論を無理やりに判断させられてしまったのだった。
その認識は『次元の狭間』に居た頃より遥かに強くなっており、それを証拠に自分を全く見ていないというのに、あの黒羽と呼ばれていた『存在』が何か言葉を発するたびに、煌阿の身体はビクビクと何度も勝手に震えが走ってしまうのだ。
――煌阿がこんな感覚を抱いた事は、これまでにただの一度もない。
そして今もまだ膨らんでいくソフィの『魔力』を見た煌阿は、抵抗を諦めたかのようにただ呆然と眺めていた。
この場に居る妖魔退魔師の副総長や組長格、それにゲンロクやエイジ達でさえ、何とかソフィから放たれるであろう『真っ白い光の束』に対して何らかの手立てを用いようと模索している様子を見せており、この場で先程名を挙げた者達よりも間違いなく力量が上であろう煌阿が、その名を挙げた誰よりも抵抗する素振りを見せないのは、単に怯えてしまって動けないという理由ではないのだ。
確かに『卜部官兵衛』や『シギン』の生み出した『理』を正確に理解出来ていなくても、彼らと同様に扱う事の出来る煌阿であれば、あの放たれようとしている『真っ白い光の束』を一度くらいは何とか出来る可能性はあるだろう。それも間違いなくゲンロク達がやろうとしている自衛行為よりも遥かに生き残る事が現実的ともいえる。
――だが、他者よりも『魔』の概念や、強さというモノを有しているからこそ、煌阿は大魔王ソフィという存在と戦おうとすることが如何に不毛な事なのかという事を理解させられてしまっていたのだった。
煌阿にそう思わせるに至ったのが、この大魔王ソフィが自身の出せるであろうと判断する『今』の七割程の開放された『力』なのである。
――そう、あくまで大魔王ソフィの全力というわけではなく、現状の七割の大魔王ソフィという魔族の力に『煌阿』はその考えを持ってしまったのだ。
そしてここで先程の話に戻るのだ。
たとえばこの攻撃を奇跡的に耐える事が出来たとして、その次は耐えられるのか?
たとえばこの攻撃を奇跡的に回避する事が出来たとして、その次も避ける事が出来るのか?
たとえばこの化け物から一時的に逃れられる事が出来たとして、その次も逃れられる事が出来るのだろうか?
――そう、むしろ生き残れば生き残る程、この化け物に攻撃され続けるという恐怖をいつまでも抱き続けなければならないのだ。
この煌阿の抱いた恐怖心と、他の者達が抱く単なる強者に対して抱く恐怖心とはまた少し異なっている。
自分の限界となる強さの天井を少しでも理解出来た者が、その天井を悠々と超えた高みから見下ろされている恐怖と、まだまだ自分の強さの壁や天井というものを知らず、見上げれば自分より多くの強者が居る立場での上から見下ろされている恐怖とは、一見すれば同じように見えるが、その実全く異なっているのである。
アレルバレルの世界に存在する多くの大魔王達は、当然この大魔王ソフィという魔族の強さを嫌という程知っているが、それはあくまで未熟な領域に居る自分や、他者からの評価で塗り固めた大魔王ソフィという『存在』を知った気になって作り上げた偶像に過ぎないが、この煌阿という妖魔はしっかりと現実に『存在』する大魔王ソフィを知っている。
相手の強さの『質』というものに対して、自分自身を秤にかける事で推し量れる煌阿という存在であればこそ、本当の意味で大魔王ソフィに恐怖する事が出来たのである。
――大魔王ソフィという魔族の強さを本当の意味で理解し、恐怖する事が出来る『存在』は、この世界やアレルバレルの世界でもほんの一握りに過ぎないだろう。
つまりそれに見合う強さを持っている煌阿だからこそ、本当の意味で大魔王ソフィに『恐怖』を覚えて、抵抗する事の無意味さを理解したのである。
そしてこの煌阿程の強さに至った『理解者』でようやく、真の意味で大魔王ソフィに刃向かう事がどれだけ馬鹿げているかを知る事が出来るのだ。
この煌阿より優れた強さを持った者が居ない世界で生きてきた大魔王ソフィが、如何にこれまでの何千年というもの年月の間、孤独だったかが窺い知れるだろう。
だが、これでもまだ、大魔王ソフィは全力ではないのだ――。
――そして、七割の力を開放したソフィの一撃が、遂にこの場で放たれるのであった。
……
……
……
どうやら力の魔神から見ても、鵺である『煌阿』が放つ『魔』の概念技法と呼べる『呪い』には、この短期間で戻す事は容易ではないと判断していたようで、仕方なくソフィが自分で意識を取り戻すまで、何度でもその攻撃を防ぎながら耐えようという判断に出た様子だった。
「クックック……! 何という心地良い気分だろうか。さぁ、ではこれならばどうだろうか……」
大魔王ソフィのその喜々とした声の上擦り具合は、聞く者にさえ伝わる程の高揚感を感じさせる程だった。
ソフィは自身が出せるであろうと判断する『力』の七割までの開放を終えると、そこから更に現在では『三色併用』を伴い、過去最高と呼べる力の体現を果たしている状況にあった。
天狗の帝楽智と戦っていた頃のソフィは、最後の『終焉』を放つ瞬間を除けばまだランク『8.5』から『9』の範疇にあり、煌阿はその時のソフィの力量が全てなのだろうと、閉じ込められていたあの洞穴の中で判断していたが故に、自分が相手をすればどうとでもなると状況を甘く見ていた。
だからこそシギンや王琳が自分に向けてきた言葉に対しても全く真剣に考えることをせず、卜部官兵衛やその子孫であるシギンを相手にした時のような対策なども一切考えず、用意なども不要だとばかりに深くは考えずにここまできてしまった。
――しかし実際にこの『大魔王ソフィ』を前にして、如何に自分が間違っていたのかをようやく理解するに至った。
妖魔神の『神斗』の身体を乗っ取り、かつて自分を苦しめた『卜部官兵衛』の『魔』の技法を克服し、知識を増やす事に成功した後、更にはその子孫であるシギンから『魔』の概念と技法をモノにしてみせた煌阿だからこそ、自分の至った領域がどれほどの高みにあるかを理解していたのだ。
そしてこの状況に至って尚、煌阿は自分が如何に優れているかを他者に誇りたい気分すら抱いてはいる。そう確かに間違いなくそういう気分を抱いてはいるのだが、目の前のソフィという『存在』は、この誇れる今の自分の至っている領域から更に遥か高みに居る者にして、明らかな『別次元』の強さなのだと結論を無理やりに判断させられてしまったのだった。
その認識は『次元の狭間』に居た頃より遥かに強くなっており、それを証拠に自分を全く見ていないというのに、あの黒羽と呼ばれていた『存在』が何か言葉を発するたびに、煌阿の身体はビクビクと何度も勝手に震えが走ってしまうのだ。
――煌阿がこんな感覚を抱いた事は、これまでにただの一度もない。
そして今もまだ膨らんでいくソフィの『魔力』を見た煌阿は、抵抗を諦めたかのようにただ呆然と眺めていた。
この場に居る妖魔退魔師の副総長や組長格、それにゲンロクやエイジ達でさえ、何とかソフィから放たれるであろう『真っ白い光の束』に対して何らかの手立てを用いようと模索している様子を見せており、この場で先程名を挙げた者達よりも間違いなく力量が上であろう煌阿が、その名を挙げた誰よりも抵抗する素振りを見せないのは、単に怯えてしまって動けないという理由ではないのだ。
確かに『卜部官兵衛』や『シギン』の生み出した『理』を正確に理解出来ていなくても、彼らと同様に扱う事の出来る煌阿であれば、あの放たれようとしている『真っ白い光の束』を一度くらいは何とか出来る可能性はあるだろう。それも間違いなくゲンロク達がやろうとしている自衛行為よりも遥かに生き残る事が現実的ともいえる。
――だが、他者よりも『魔』の概念や、強さというモノを有しているからこそ、煌阿は大魔王ソフィという存在と戦おうとすることが如何に不毛な事なのかという事を理解させられてしまっていたのだった。
煌阿にそう思わせるに至ったのが、この大魔王ソフィが自身の出せるであろうと判断する『今』の七割程の開放された『力』なのである。
――そう、あくまで大魔王ソフィの全力というわけではなく、現状の七割の大魔王ソフィという魔族の力に『煌阿』はその考えを持ってしまったのだ。
そしてここで先程の話に戻るのだ。
たとえばこの攻撃を奇跡的に耐える事が出来たとして、その次は耐えられるのか?
たとえばこの攻撃を奇跡的に回避する事が出来たとして、その次も避ける事が出来るのか?
たとえばこの化け物から一時的に逃れられる事が出来たとして、その次も逃れられる事が出来るのだろうか?
――そう、むしろ生き残れば生き残る程、この化け物に攻撃され続けるという恐怖をいつまでも抱き続けなければならないのだ。
この煌阿の抱いた恐怖心と、他の者達が抱く単なる強者に対して抱く恐怖心とはまた少し異なっている。
自分の限界となる強さの天井を少しでも理解出来た者が、その天井を悠々と超えた高みから見下ろされている恐怖と、まだまだ自分の強さの壁や天井というものを知らず、見上げれば自分より多くの強者が居る立場での上から見下ろされている恐怖とは、一見すれば同じように見えるが、その実全く異なっているのである。
アレルバレルの世界に存在する多くの大魔王達は、当然この大魔王ソフィという魔族の強さを嫌という程知っているが、それはあくまで未熟な領域に居る自分や、他者からの評価で塗り固めた大魔王ソフィという『存在』を知った気になって作り上げた偶像に過ぎないが、この煌阿という妖魔はしっかりと現実に『存在』する大魔王ソフィを知っている。
相手の強さの『質』というものに対して、自分自身を秤にかける事で推し量れる煌阿という存在であればこそ、本当の意味で大魔王ソフィに恐怖する事が出来たのである。
――大魔王ソフィという魔族の強さを本当の意味で理解し、恐怖する事が出来る『存在』は、この世界やアレルバレルの世界でもほんの一握りに過ぎないだろう。
つまりそれに見合う強さを持っている煌阿だからこそ、本当の意味で大魔王ソフィに『恐怖』を覚えて、抵抗する事の無意味さを理解したのである。
そしてこの煌阿程の強さに至った『理解者』でようやく、真の意味で大魔王ソフィに刃向かう事がどれだけ馬鹿げているかを知る事が出来るのだ。
この煌阿より優れた強さを持った者が居ない世界で生きてきた大魔王ソフィが、如何にこれまでの何千年というもの年月の間、孤独だったかが窺い知れるだろう。
だが、これでもまだ、大魔王ソフィは全力ではないのだ――。
――そして、七割の力を開放したソフィの一撃が、遂にこの場で放たれるのであった。
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