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妖魔山編
1877.泡沫の幻と最強の大魔王
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「クックック……! ハーッハッハッハッハ!!!」
煌阿の生み出した『次元の狭間』の空間の中で、唐突にソフィの笑い声が響き渡るのだった。
「笑い声だと……?」
「ふふっ、どんな幻覚を見たのかは知らぬが、遂に奴も精神を正常に保てなくなったというところだろう」
「……」
王琳もまたその煌阿の解釈に納得を仕掛けたが、そこで少しずつソフィを包む紫色の煙が晴れて行き、その姿を視界に捉えた瞬間にぞくりと震えが走った。
「素晴らしい! さぁ、次はどこまで耐えられる? クックック! もう手加減などせぬぞ!!」
目の視点がまだ正確に定まっていないソフィの目を見た王琳は、直ぐにこの後に起こる出来事を予測し、直ぐにその場から離れてヌーを守ろうと手に力を込めて抱き寄せているテアの前へと飛び退さってくる。
「――」(わぁっ!?)
ヌーの安全の事ばかり考えていたテアは、急に目の前に現れた王琳に驚きの声を上げた。
「少し黙っていろ。そいつをしっかりと抱きしめたままでいいから、俺の傍から動くな! さもなくばそいつ諸共死ぬぞ!」
「!?」
――次の瞬間。
ソフィがその場で振り切った拳によって巻き起こる衝撃波が、真っすぐに前方を突き抜けていくと『次元の狭間』にあっさりと亀裂が入って、その亀裂から外の光が漏れ始める。
煌阿は右頬を滴り落ちていく何かを感じて慌てて右手で拭うと、その右手にはべっとりと赤い血が付いていた。
「あ、ああ……?」
王琳と違って煌阿はソフィの近くに立っていた為、その振り切られた拳の衝撃波に少しだけ掠ってしまったのだろう。ただ血が流れた原因を理解出来ても、何故そんな事が起きたのかの要因が煌阿には見当たらない。
今のソフィは『呪い』によって幻覚に囚われている筈であり、何より『オーラ』や『魔』の技法その一切を『隔絶空地入法』によって『封印』されている状態なのである。
そして更にいえば、ここは『次元の狭間』という煌阿が作り出した空間の中であり、動くどころか意識を保つ事すら不可能に近いのだ。
そんな空間の中で『封印』されている筈の目の前の存在は、嬉しそうに笑いながら何かと戦っている様子で拳を次から次へと振り切っている。その度に生まれる衝撃波によって空間に次々と亀裂を入れられているのであった。
(何故動けているのか、それはこの際どうでもいい……。それより『オーラ』などを封じられていて、何故この空間に穴が開く程の衝撃波を放つ事が出来る? 奴は今生身の状態の筈であり、更にこの制限のかかった『次元の狭間』で穴を開ける事など不可能な筈だ……)
――信じられない光景に驚いていた煌阿だが、この後に更にその表情を驚愕色に染める事になる。
「今の攻撃にも平然と耐えて反撃を行うか……! 素晴らしいぞ、魔神よ!! もう遠慮は要らぬな? 次は本気で行くぞ!!」
「なっ……!?」
『隔絶空地入法』の『結界』の内側のソフィの体内から『魔力』が爆発的に膨れ上がっていく。
隔絶空地入法は『魔』の概念や『魔』の技法に対しては『封印』を施す事は出来るが、その技法を使う為の燃料となる『魔力』そのものには干渉出来ない。
しかしだからといって、その燃料を用いて『魔法』を使えば、その『魔法』を司る『理』の影響で生み出される『魔』の技法そのものが細分化されて、別の空間に保存されて封印される為に使えない筈である。
そして今のソフィは確かに『三色併用』といった、爆発的に力を上昇させる『魔』の技法を使ってはいない。
つまり今の魔力の高まりも本来の大魔王ソフィが持っている、そのままの『魔力』を使っているだけに過ぎない。
だが、幻覚に囚われて存在しない『力の魔神』に対して、大魔王ソフィがこれまで使ったことがない自分の本当の力を使おうと試みた場合、果たしてどうなるだろうか。
過去、大魔王ソフィは大賢者エルシスや、現実の『力の魔神』、そして大魔王レキに、大魔王ダルダオスといった強者と戦ってきたが、その戦いでは一度たりとも例外なく、ソフィは潜在する自身の出せるであろう力の半分すら出していないのである。
そんな彼が今回、幻覚に囚われてしまった事で泡沫の『最強の存在』を出現させてしまった。幻覚の中でソフィと戦っている『力の魔神』は、もはや現実世界の『力の魔神』を軽く凌駕してしまっている。
――そう。まさに恋焦がれるように、自分と全力で戦ってくれる存在を待ち続けていた大魔王ソフィの前に、幻覚とはいえその存在が現れてしまったのである。
現実の世界であっても過去にあのまま『力の魔神』が、表情を一切変えずにソフィを消滅させようと向かっていたならば、この展開になる事は十分に有り得たが、しかし実際には起こり得なかった出来事であった。
しかし煌阿の『呪い』が想像以上に強力なものであったせいで、幻覚の中で自分に届き得る存在を生み出してしまった。
その存在と戦う為だけに大魔王ソフィは、これまでに自身も経験したことのない『力』の体現を許してしまおうとしている状態にあるのだった。
「どうやら卜部の子孫が言っていた言葉も、あながち嘘ばかり並べ立てていたわけではないようだ……」
煌阿は静かにそう独り言ちると、現在の『隔絶空地入法』の更に外側から『結界』でソフィを覆い始める。その『結界』は『赤い真四角』で出来た『結界』で、妖魔召士シギンの編み出した『結界』であった。
この『結界』の堅守さは確かなものであり、妖魔神である鬼人の『悟獄丸』が、全力で振り切っても壊れる事なく維持出来た程であった。
今回はそれに加えて『隔絶空地入法』で『オーラ』や『魔法』などで増幅させる事そのものを封じている状態にある。つまり生身で妖魔神の『悟獄丸』を上回る腕力でもなければ、決して破壊する事は出来ないだろう。
「ちっ! まさか『卜部』や、その子孫を相手にした時以上の周到な準備をさせられるとは思わなかったぞ」
舌打ちをしながら忌々しそうにソフィを見て、そう告げる煌阿であった。
この時の煌阿はまだ、一体誰を相手にしているのかの理解の本質に頭が追いついていなかった。
天上界に存在する『魔神』達の中でも、更に最上位に位置する『力の魔神』を相手に、たった三割程度しか出していなかったソフィが今、その潜在する力の全てを出そうと試みている状態にあるのだ。
――それが一体どういう事なのか。彼はこの後に身をもって知る事になるのであった。
煌阿の生み出した『次元の狭間』の空間の中で、唐突にソフィの笑い声が響き渡るのだった。
「笑い声だと……?」
「ふふっ、どんな幻覚を見たのかは知らぬが、遂に奴も精神を正常に保てなくなったというところだろう」
「……」
王琳もまたその煌阿の解釈に納得を仕掛けたが、そこで少しずつソフィを包む紫色の煙が晴れて行き、その姿を視界に捉えた瞬間にぞくりと震えが走った。
「素晴らしい! さぁ、次はどこまで耐えられる? クックック! もう手加減などせぬぞ!!」
目の視点がまだ正確に定まっていないソフィの目を見た王琳は、直ぐにこの後に起こる出来事を予測し、直ぐにその場から離れてヌーを守ろうと手に力を込めて抱き寄せているテアの前へと飛び退さってくる。
「――」(わぁっ!?)
ヌーの安全の事ばかり考えていたテアは、急に目の前に現れた王琳に驚きの声を上げた。
「少し黙っていろ。そいつをしっかりと抱きしめたままでいいから、俺の傍から動くな! さもなくばそいつ諸共死ぬぞ!」
「!?」
――次の瞬間。
ソフィがその場で振り切った拳によって巻き起こる衝撃波が、真っすぐに前方を突き抜けていくと『次元の狭間』にあっさりと亀裂が入って、その亀裂から外の光が漏れ始める。
煌阿は右頬を滴り落ちていく何かを感じて慌てて右手で拭うと、その右手にはべっとりと赤い血が付いていた。
「あ、ああ……?」
王琳と違って煌阿はソフィの近くに立っていた為、その振り切られた拳の衝撃波に少しだけ掠ってしまったのだろう。ただ血が流れた原因を理解出来ても、何故そんな事が起きたのかの要因が煌阿には見当たらない。
今のソフィは『呪い』によって幻覚に囚われている筈であり、何より『オーラ』や『魔』の技法その一切を『隔絶空地入法』によって『封印』されている状態なのである。
そして更にいえば、ここは『次元の狭間』という煌阿が作り出した空間の中であり、動くどころか意識を保つ事すら不可能に近いのだ。
そんな空間の中で『封印』されている筈の目の前の存在は、嬉しそうに笑いながら何かと戦っている様子で拳を次から次へと振り切っている。その度に生まれる衝撃波によって空間に次々と亀裂を入れられているのであった。
(何故動けているのか、それはこの際どうでもいい……。それより『オーラ』などを封じられていて、何故この空間に穴が開く程の衝撃波を放つ事が出来る? 奴は今生身の状態の筈であり、更にこの制限のかかった『次元の狭間』で穴を開ける事など不可能な筈だ……)
――信じられない光景に驚いていた煌阿だが、この後に更にその表情を驚愕色に染める事になる。
「今の攻撃にも平然と耐えて反撃を行うか……! 素晴らしいぞ、魔神よ!! もう遠慮は要らぬな? 次は本気で行くぞ!!」
「なっ……!?」
『隔絶空地入法』の『結界』の内側のソフィの体内から『魔力』が爆発的に膨れ上がっていく。
隔絶空地入法は『魔』の概念や『魔』の技法に対しては『封印』を施す事は出来るが、その技法を使う為の燃料となる『魔力』そのものには干渉出来ない。
しかしだからといって、その燃料を用いて『魔法』を使えば、その『魔法』を司る『理』の影響で生み出される『魔』の技法そのものが細分化されて、別の空間に保存されて封印される為に使えない筈である。
そして今のソフィは確かに『三色併用』といった、爆発的に力を上昇させる『魔』の技法を使ってはいない。
つまり今の魔力の高まりも本来の大魔王ソフィが持っている、そのままの『魔力』を使っているだけに過ぎない。
だが、幻覚に囚われて存在しない『力の魔神』に対して、大魔王ソフィがこれまで使ったことがない自分の本当の力を使おうと試みた場合、果たしてどうなるだろうか。
過去、大魔王ソフィは大賢者エルシスや、現実の『力の魔神』、そして大魔王レキに、大魔王ダルダオスといった強者と戦ってきたが、その戦いでは一度たりとも例外なく、ソフィは潜在する自身の出せるであろう力の半分すら出していないのである。
そんな彼が今回、幻覚に囚われてしまった事で泡沫の『最強の存在』を出現させてしまった。幻覚の中でソフィと戦っている『力の魔神』は、もはや現実世界の『力の魔神』を軽く凌駕してしまっている。
――そう。まさに恋焦がれるように、自分と全力で戦ってくれる存在を待ち続けていた大魔王ソフィの前に、幻覚とはいえその存在が現れてしまったのである。
現実の世界であっても過去にあのまま『力の魔神』が、表情を一切変えずにソフィを消滅させようと向かっていたならば、この展開になる事は十分に有り得たが、しかし実際には起こり得なかった出来事であった。
しかし煌阿の『呪い』が想像以上に強力なものであったせいで、幻覚の中で自分に届き得る存在を生み出してしまった。
その存在と戦う為だけに大魔王ソフィは、これまでに自身も経験したことのない『力』の体現を許してしまおうとしている状態にあるのだった。
「どうやら卜部の子孫が言っていた言葉も、あながち嘘ばかり並べ立てていたわけではないようだ……」
煌阿は静かにそう独り言ちると、現在の『隔絶空地入法』の更に外側から『結界』でソフィを覆い始める。その『結界』は『赤い真四角』で出来た『結界』で、妖魔召士シギンの編み出した『結界』であった。
この『結界』の堅守さは確かなものであり、妖魔神である鬼人の『悟獄丸』が、全力で振り切っても壊れる事なく維持出来た程であった。
今回はそれに加えて『隔絶空地入法』で『オーラ』や『魔法』などで増幅させる事そのものを封じている状態にある。つまり生身で妖魔神の『悟獄丸』を上回る腕力でもなければ、決して破壊する事は出来ないだろう。
「ちっ! まさか『卜部』や、その子孫を相手にした時以上の周到な準備をさせられるとは思わなかったぞ」
舌打ちをしながら忌々しそうにソフィを見て、そう告げる煌阿であった。
この時の煌阿はまだ、一体誰を相手にしているのかの理解の本質に頭が追いついていなかった。
天上界に存在する『魔神』達の中でも、更に最上位に位置する『力の魔神』を相手に、たった三割程度しか出していなかったソフィが今、その潜在する力の全てを出そうと試みている状態にあるのだ。
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