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妖魔山編
1872.恐るべき大魔王ソフィの耐魔力
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耳が痛くなるほどに静かで薄暗い次元の狭間内だが、それまでの静寂が嘘のように一際大きな音が響き渡った。
その音の正体は、ソフィを仕留めようと振り下ろされた拳をソフィが掴んだ音であった。
「な、何だと……!?」
この場所は単なる『道』ではなく、シギンという妖魔召士から生み出された『理』から放たれた『空間魔法』によって生み出された『空間』である。
この中では同じ『理』を理解しているものか、この『魔法』そのものを放った術者以外に意識をしっかりと保つ事は出来ず、煌阿の拳を受け止めるどころか、反応すら出来ない筈なのである。
そうだというのに、しっかりとソフィの両目は神斗の身体をした煌阿を捉えており、煌阿の右手をしっかりと左手で掴んでいるのだった。
そしてソフィの目が『金色』に光り輝いた瞬間、慌てて煌阿は『魔力圧』をソフィに向けて放った。
その『魔力圧』の威力と勢いには、流石のソフィもこの空間内では抵抗出来ずに、そのまま『魔力圧』に呑み込まれて煌阿から強引に離されてしまうのだった。
しかし単に距離が空いただけで無傷のままソフィは、離れた場所から何事もなかったのように煌阿を睨みつけていた。
「どうやら本当にこの中でも意識をしっかりと持ち、ある程度は動けるようだな……」
ここにきてようやく、煌阿は目の前のソフィという魔族が自分と同じように『次元の狭間』でも動ける存在なのだと理解する。
煌阿もシギンと直接戦った時、この『空間』の内側でもある程度防御を行う事が出来ていた。つまりソフィという魔族も『魔』の概念に対して抗えるだけの『耐魔力』を持っているという事だろう。
『耐魔力』とは単に『魔法』に対してダメージを最小限に抑えるというわけではなく、その『魔法』の元となる『理』を含めた『魔』の概念そのものに対する『防御』である。
つまりは彼が『魔の概念』に対しての『対抗力』を持っている事に他ならない。
頭で『空間魔法』の『理』に対して理解が出来なくとも、ソフィの身体はすでにこの空間の中でも行動を起こせる『抵抗力』を身につけているという事であり、結論をいえば煌阿は、この空間の中であっても一方的な勝利を望めないという事であった。
「やれやれ……。どうやらお前も過去に『空間魔法』を使う者と戦った経験があるとみえる。そんな存在は俺達『鵺』の種族や王琳のような『別格』となる妖狐以外には存在しないと思っていたが、どうやらあの青髪のガキのいうように本当に『魔族』とやらは常識の埒外に居る存在のようだな」
煌阿が『青髪のガキ』と呼んだ時、ぴくりとソフィの眉が動いた。どうやらこの空間でソフィは普段通りに会話をする事は出来ないようだが、煌阿の『魔』の攻撃に抵抗する力だけではなく、ある程度はソフィも言葉を感じ取れている様子にあるのだと煌阿は理解するのだった。
「言葉は通じるが、言葉を話す事が出来ないか。やはりその症状を見るに感覚で動いている事の証左だな。俺と同様に何らかの形で『魔』の情報を仕入れる事によって、教本通りの使い方で覚えるのではなく、先に『概念』そのものの効力を解して『魔』の概念というものを理解するタイプだな。つまりお前がこのままこの空間に長く居続ければ、その内に普段通りに話す事も、自由自在に今以上に動く可能性も出てくるわけだ」
次の瞬間、煌阿の周囲に『青』と『金色』の『二色の併用』が纏わり始めていく。どうやら先程のようなお遊びと呼べる一打ではなく、一撃で確実に葬る為の力を蓄え始めたようだった。
「まだお前がこの空間内で動く事が不完全な内に、確実に葬ってやる!」
――魔神域『時』魔法、『隔絶空地入法』。
それこそはあらゆる『魔』の技法を『封印』する『卜部官兵衛』が編み出した『封印結界』であった。
どうやら少しずつこの『次元の狭間』に馴染んできている様子のソフィに、念を入れて『オーラ』といった『魔』の技法や、あの青髪のエヴィが用いたような、この世界にはない何らかの『魔』の概念をソフィが使用する事を封じようとした様子であった。
……
……
……
「七耶咫、五立楡、六阿狐! お前達はこの場に残り、あの人間達に加勢してやれ。絶対に誰一人として死なせるなよ?」
「「王琳様!?」」
王琳は傍に控えている自分の配下達にそう告げると、突然にその場から大きく跳躍を果たす。
――その跳躍した先は、大魔王ヌーとテアの居る方角であった。
……
……
……
「よし、行くぞ! テア、俺の身体に……――!?」
テアがヌーの合図に従ってヌーの身体に触れようとした瞬間、遠くから邪悪な笑みを浮かべた王琳が、妖狐本来の身体でヌーの背の上に飛び乗ってくるのだった。
「うぉっ! て、てめえクソ野郎! 何をしやがる!?」
ヌー達の元に辿り着いた王琳が素早く人型に戻ると、テアと同様にヌーの身体に密着させた。
「お前のその『魔力』の高まりをみるに、何らかの『魔』の技法を用いる事で煌阿達の居る空間へ入る事が出来るんだな? だったら、俺も連れて行ってもらうぞ」
「ふざけるんじゃねぇ! 誰がテメェなんかを……!?」
「おっと、逆らえば今すぐにこの女の首を刎ね飛ばして、お前自身も消滅させる。俺が本気を出せば一秒も掛からないというのは、お前程度であっても理解に及ぶだろう?」
そう言ってコンマ数秒で『青』と『金色』の『二色の併用』を纏わせた王琳が、右手でテアの首を掴んで左手でヌーの胸倉を掴みあげた。
――そしてこの僅かなやり取りで、自分では王琳に勝つどころか、抗う間もなく殺されると本能で理解してしまったのであった。
「ちっ! さっさとテアの首から手を離せ! そうすりゃ連れていってやる!」
「――」(ぬ、ヌー……)
「ふふ、聞き分けが良くて助かるぞ。ではさっさとやれ」
にやりと笑みを浮かべた王琳は、煽るようにわざと大きく手を広げてテアの首から手を離した。
「てめぇもいつか……、この手でぶち殺してやるから覚えていやがれっ!」
「それは……。ふふっ、楽しみにしてるぞ?」
――魔神域『時』魔法、『概念跳躍』。
次の瞬間、妖狐の王琳、大魔王ヌー、そして死神貴族テアの三名が、この世界から忽然と消え去るのだった。
……
……
……
その音の正体は、ソフィを仕留めようと振り下ろされた拳をソフィが掴んだ音であった。
「な、何だと……!?」
この場所は単なる『道』ではなく、シギンという妖魔召士から生み出された『理』から放たれた『空間魔法』によって生み出された『空間』である。
この中では同じ『理』を理解しているものか、この『魔法』そのものを放った術者以外に意識をしっかりと保つ事は出来ず、煌阿の拳を受け止めるどころか、反応すら出来ない筈なのである。
そうだというのに、しっかりとソフィの両目は神斗の身体をした煌阿を捉えており、煌阿の右手をしっかりと左手で掴んでいるのだった。
そしてソフィの目が『金色』に光り輝いた瞬間、慌てて煌阿は『魔力圧』をソフィに向けて放った。
その『魔力圧』の威力と勢いには、流石のソフィもこの空間内では抵抗出来ずに、そのまま『魔力圧』に呑み込まれて煌阿から強引に離されてしまうのだった。
しかし単に距離が空いただけで無傷のままソフィは、離れた場所から何事もなかったのように煌阿を睨みつけていた。
「どうやら本当にこの中でも意識をしっかりと持ち、ある程度は動けるようだな……」
ここにきてようやく、煌阿は目の前のソフィという魔族が自分と同じように『次元の狭間』でも動ける存在なのだと理解する。
煌阿もシギンと直接戦った時、この『空間』の内側でもある程度防御を行う事が出来ていた。つまりソフィという魔族も『魔』の概念に対して抗えるだけの『耐魔力』を持っているという事だろう。
『耐魔力』とは単に『魔法』に対してダメージを最小限に抑えるというわけではなく、その『魔法』の元となる『理』を含めた『魔』の概念そのものに対する『防御』である。
つまりは彼が『魔の概念』に対しての『対抗力』を持っている事に他ならない。
頭で『空間魔法』の『理』に対して理解が出来なくとも、ソフィの身体はすでにこの空間の中でも行動を起こせる『抵抗力』を身につけているという事であり、結論をいえば煌阿は、この空間の中であっても一方的な勝利を望めないという事であった。
「やれやれ……。どうやらお前も過去に『空間魔法』を使う者と戦った経験があるとみえる。そんな存在は俺達『鵺』の種族や王琳のような『別格』となる妖狐以外には存在しないと思っていたが、どうやらあの青髪のガキのいうように本当に『魔族』とやらは常識の埒外に居る存在のようだな」
煌阿が『青髪のガキ』と呼んだ時、ぴくりとソフィの眉が動いた。どうやらこの空間でソフィは普段通りに会話をする事は出来ないようだが、煌阿の『魔』の攻撃に抵抗する力だけではなく、ある程度はソフィも言葉を感じ取れている様子にあるのだと煌阿は理解するのだった。
「言葉は通じるが、言葉を話す事が出来ないか。やはりその症状を見るに感覚で動いている事の証左だな。俺と同様に何らかの形で『魔』の情報を仕入れる事によって、教本通りの使い方で覚えるのではなく、先に『概念』そのものの効力を解して『魔』の概念というものを理解するタイプだな。つまりお前がこのままこの空間に長く居続ければ、その内に普段通りに話す事も、自由自在に今以上に動く可能性も出てくるわけだ」
次の瞬間、煌阿の周囲に『青』と『金色』の『二色の併用』が纏わり始めていく。どうやら先程のようなお遊びと呼べる一打ではなく、一撃で確実に葬る為の力を蓄え始めたようだった。
「まだお前がこの空間内で動く事が不完全な内に、確実に葬ってやる!」
――魔神域『時』魔法、『隔絶空地入法』。
それこそはあらゆる『魔』の技法を『封印』する『卜部官兵衛』が編み出した『封印結界』であった。
どうやら少しずつこの『次元の狭間』に馴染んできている様子のソフィに、念を入れて『オーラ』といった『魔』の技法や、あの青髪のエヴィが用いたような、この世界にはない何らかの『魔』の概念をソフィが使用する事を封じようとした様子であった。
……
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「七耶咫、五立楡、六阿狐! お前達はこの場に残り、あの人間達に加勢してやれ。絶対に誰一人として死なせるなよ?」
「「王琳様!?」」
王琳は傍に控えている自分の配下達にそう告げると、突然にその場から大きく跳躍を果たす。
――その跳躍した先は、大魔王ヌーとテアの居る方角であった。
……
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「よし、行くぞ! テア、俺の身体に……――!?」
テアがヌーの合図に従ってヌーの身体に触れようとした瞬間、遠くから邪悪な笑みを浮かべた王琳が、妖狐本来の身体でヌーの背の上に飛び乗ってくるのだった。
「うぉっ! て、てめえクソ野郎! 何をしやがる!?」
ヌー達の元に辿り着いた王琳が素早く人型に戻ると、テアと同様にヌーの身体に密着させた。
「お前のその『魔力』の高まりをみるに、何らかの『魔』の技法を用いる事で煌阿達の居る空間へ入る事が出来るんだな? だったら、俺も連れて行ってもらうぞ」
「ふざけるんじゃねぇ! 誰がテメェなんかを……!?」
「おっと、逆らえば今すぐにこの女の首を刎ね飛ばして、お前自身も消滅させる。俺が本気を出せば一秒も掛からないというのは、お前程度であっても理解に及ぶだろう?」
そう言ってコンマ数秒で『青』と『金色』の『二色の併用』を纏わせた王琳が、右手でテアの首を掴んで左手でヌーの胸倉を掴みあげた。
――そしてこの僅かなやり取りで、自分では王琳に勝つどころか、抗う間もなく殺されると本能で理解してしまったのであった。
「ちっ! さっさとテアの首から手を離せ! そうすりゃ連れていってやる!」
「――」(ぬ、ヌー……)
「ふふ、聞き分けが良くて助かるぞ。ではさっさとやれ」
にやりと笑みを浮かべた王琳は、煽るようにわざと大きく手を広げてテアの首から手を離した。
「てめぇもいつか……、この手でぶち殺してやるから覚えていやがれっ!」
「それは……。ふふっ、楽しみにしてるぞ?」
――魔神域『時』魔法、『概念跳躍』。
次の瞬間、妖狐の王琳、大魔王ヌー、そして死神貴族テアの三名が、この世界から忽然と消え去るのだった。
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