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妖魔山編
1865.抱く本音と流れる涙
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「その大魔王に首を切断された時、耐えられないと思える痛みも感じたし、確かに子供ながらに僕は死ぬんだという感覚も感じられた。でもいつまで経っても死というモノを迎えられず、だんだんと痛みも麻痺してきたのか感じられなくなっていったんだ。でも目に映る光景はいつまで経っても変わらず、高笑いをしていた大魔王に段々と僕も腹が立ってきたんだ」
どうして僕が、こんな目に遭わなければならない。
どうして何も悪い事をしていないのに、こんな最期を迎えなければならない。
どうして、どうして、どうして……!!
どうして、僕がこんな目に遭っているのに、お前はそんな嬉しそうに笑っているんだ。
――こいつを僕と同じ目に遭わせてやりたい。
「本気で目の前の大魔王に対してそう考えた時、僕は首だけになったというのに、感じた事のない感覚が身体の先にあってね。無意識にそれが欲しいと思えて手を伸ばしたんだ。すると何か僕の中から何かがごっそりと奪い取られるような感覚を覚えた」
耶王美は固唾を呑み込みながら、エヴィの話に聞き入っている。
「そしてそのまま視界の先にあった自分の胴体を見た時、薄れていった痛みを思い出して僕は苦痛に顔を歪めた。その時だよ、大笑いをしていたその大魔王が急に首元辺りを押さえながら苦しみ始めたんだ」
どうやら『金色の体現者』であったエヴィは、その大魔王に首を刎ねられた時がキッカケで、自分の持つ『特異』の力に目覚めたのだろう。
「首だけになった僕の顔は、多分嬉しそうに笑っていただろうね。だって僕はその大魔王が苦しむ姿に心の底から喜んでいたんだもの。もっと苦しめ、僕と同じ目に遭え、そのまま死ねって何度も何度も強く願った。そしたら本当にその大魔王の首が地面に落ちて行ったんだ。引く程に大量の血を辺りにまき散らしながらね。でもその後の事はよく覚えていなくて、次に目覚めた時は真っ白い部屋に清潔なベッドの上だった。首だけになった筈なのに、しっかりと手も足も動かせて身体も元通りだった」
耶王美は目の前のエヴィが、この妖魔山で天狗の『座汀虚』を相手に砂になったりして戦っている姿を千里眼と呼べるその眼で一度見ている。
どうやらその元の世界で目覚めた力こそが、この世界で座汀虚を相手に使っていた力なのだろうと理解するのだった。
「それで僕が目覚めた事に外で見張っていた連中が気づいたんだろうね。直ぐに何人かの魔族が僕の居る部屋に入ってきて、これから話があるからついてこいと言われた。僕は何が何だか分からなかったけど、でもついていかないと絶対に後悔するって思えて、素直にそいつらについていったんだ。そしたら、その先にソフィ様が居たんだ。耶王美、その方がね、僕に、僕に生きる意味を与えてくれた神様なんだ!」
エヴィの居た大陸で起きた戦争を巻き起こした大魔王とやらが、エヴィに『呪い』殺されたという事であれば、つまりその大魔王達の一味の戦争相手こそがソフィ達だったのだろう。
「ソフィ様は僕を手厚く迎えてくれて、嫌な事があったら直ぐに我に言えって口にしてくれて、そして本当にその後に僕が今まで感じた事のない、何不自由ない生活と望んでいた以上の幸福を与えてくれたんだ。僕はその時にこの方の為に生きよう、そしてこの方の為にいつかは死のうって思えた。それは今でも僕の心に根強く残っているし、実際にいま目の前で死ねと命じられたら、喜んであの時のように首を刎ね飛ばして、感謝しながら死んでみせるよ!」
にこにこと笑いながら恐ろしい事を口にするエヴィだが、主の為に生きて主の為に死のうという気持ちを理解出来る同類である耶王美は、少しばかり自分の想いとは異なる部分を感じつつも、言っている事の理解と共感を得られたのだった。
だが、笑みを浮かべて拳を握り、両手を胸の前に出していたエヴィだったが、その顔が憂いだかと思うと同時に伸ばしていた手をだらりと下ろしながら、この世の終わりのような表情へと変えたのだった。
「ど、どうしたんだ、いきなり……」
満面の笑顔から一転して、この世の終わりといった表情を浮かべ始めたエヴィを見て、耶王美は百面相みたいだなと思いながらも心配そうに声を掛けるのだった。
「本当にソフィ様には良くして頂いて、僕も何とかソフィ様に恩を返したいと思っているんだけど、ソフィ様の願望を僕では叶えられないんだ……」
そう言ってエヴィの両目から涙がとめどなく溢れて流れていく。
「本当にこの僕はいつでもソフィ様の為に命を捧げられるし、望まれる事を全てやりたいと考えている。だけど、ソフィ様が本当に望まれている事に対して、僕は叶えてあげられない。それが僕は本当に悔しい、悔しいんだよ耶王美……!」
その願望が具体的にどういったモノなのかを確かめる前に、耶王美は本能的に動いたかと思うとエヴィを自分の胸元に抱き入れる。
「大丈夫だ、落ち着けエヴィ。お前の悔しいという気持ちを私は分かってあげられる。私も同じ気持ちを抱いて生きているからな。だから、一緒に何かを出来る事を探そう? それまで私は常にお前といると約束するから」
耶王美は掠れた涙声でそう告げて、エヴィを力いっぱい抱きしめてくれたのだった。
どうして僕が、こんな目に遭わなければならない。
どうして何も悪い事をしていないのに、こんな最期を迎えなければならない。
どうして、どうして、どうして……!!
どうして、僕がこんな目に遭っているのに、お前はそんな嬉しそうに笑っているんだ。
――こいつを僕と同じ目に遭わせてやりたい。
「本気で目の前の大魔王に対してそう考えた時、僕は首だけになったというのに、感じた事のない感覚が身体の先にあってね。無意識にそれが欲しいと思えて手を伸ばしたんだ。すると何か僕の中から何かがごっそりと奪い取られるような感覚を覚えた」
耶王美は固唾を呑み込みながら、エヴィの話に聞き入っている。
「そしてそのまま視界の先にあった自分の胴体を見た時、薄れていった痛みを思い出して僕は苦痛に顔を歪めた。その時だよ、大笑いをしていたその大魔王が急に首元辺りを押さえながら苦しみ始めたんだ」
どうやら『金色の体現者』であったエヴィは、その大魔王に首を刎ねられた時がキッカケで、自分の持つ『特異』の力に目覚めたのだろう。
「首だけになった僕の顔は、多分嬉しそうに笑っていただろうね。だって僕はその大魔王が苦しむ姿に心の底から喜んでいたんだもの。もっと苦しめ、僕と同じ目に遭え、そのまま死ねって何度も何度も強く願った。そしたら本当にその大魔王の首が地面に落ちて行ったんだ。引く程に大量の血を辺りにまき散らしながらね。でもその後の事はよく覚えていなくて、次に目覚めた時は真っ白い部屋に清潔なベッドの上だった。首だけになった筈なのに、しっかりと手も足も動かせて身体も元通りだった」
耶王美は目の前のエヴィが、この妖魔山で天狗の『座汀虚』を相手に砂になったりして戦っている姿を千里眼と呼べるその眼で一度見ている。
どうやらその元の世界で目覚めた力こそが、この世界で座汀虚を相手に使っていた力なのだろうと理解するのだった。
「それで僕が目覚めた事に外で見張っていた連中が気づいたんだろうね。直ぐに何人かの魔族が僕の居る部屋に入ってきて、これから話があるからついてこいと言われた。僕は何が何だか分からなかったけど、でもついていかないと絶対に後悔するって思えて、素直にそいつらについていったんだ。そしたら、その先にソフィ様が居たんだ。耶王美、その方がね、僕に、僕に生きる意味を与えてくれた神様なんだ!」
エヴィの居た大陸で起きた戦争を巻き起こした大魔王とやらが、エヴィに『呪い』殺されたという事であれば、つまりその大魔王達の一味の戦争相手こそがソフィ達だったのだろう。
「ソフィ様は僕を手厚く迎えてくれて、嫌な事があったら直ぐに我に言えって口にしてくれて、そして本当にその後に僕が今まで感じた事のない、何不自由ない生活と望んでいた以上の幸福を与えてくれたんだ。僕はその時にこの方の為に生きよう、そしてこの方の為にいつかは死のうって思えた。それは今でも僕の心に根強く残っているし、実際にいま目の前で死ねと命じられたら、喜んであの時のように首を刎ね飛ばして、感謝しながら死んでみせるよ!」
にこにこと笑いながら恐ろしい事を口にするエヴィだが、主の為に生きて主の為に死のうという気持ちを理解出来る同類である耶王美は、少しばかり自分の想いとは異なる部分を感じつつも、言っている事の理解と共感を得られたのだった。
だが、笑みを浮かべて拳を握り、両手を胸の前に出していたエヴィだったが、その顔が憂いだかと思うと同時に伸ばしていた手をだらりと下ろしながら、この世の終わりのような表情へと変えたのだった。
「ど、どうしたんだ、いきなり……」
満面の笑顔から一転して、この世の終わりといった表情を浮かべ始めたエヴィを見て、耶王美は百面相みたいだなと思いながらも心配そうに声を掛けるのだった。
「本当にソフィ様には良くして頂いて、僕も何とかソフィ様に恩を返したいと思っているんだけど、ソフィ様の願望を僕では叶えられないんだ……」
そう言ってエヴィの両目から涙がとめどなく溢れて流れていく。
「本当にこの僕はいつでもソフィ様の為に命を捧げられるし、望まれる事を全てやりたいと考えている。だけど、ソフィ様が本当に望まれている事に対して、僕は叶えてあげられない。それが僕は本当に悔しい、悔しいんだよ耶王美……!」
その願望が具体的にどういったモノなのかを確かめる前に、耶王美は本能的に動いたかと思うとエヴィを自分の胸元に抱き入れる。
「大丈夫だ、落ち着けエヴィ。お前の悔しいという気持ちを私は分かってあげられる。私も同じ気持ちを抱いて生きているからな。だから、一緒に何かを出来る事を探そう? それまで私は常にお前といると約束するから」
耶王美は掠れた涙声でそう告げて、エヴィを力いっぱい抱きしめてくれたのだった。
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