最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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妖魔山編

1863.煌阿が秘めている可能性

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「――そういうわけだから、お前達は全力で悟獄丸ごごくまるを殺った連中の情報を集めてこい」

「「はっ!! 分かりました!」」

 妖魔山の頂にある開けた場所で神斗の身体と声をした『煌阿こうあ』が、集めた禁止区域に居る連中にそう命令を下すと、この場に集められた多種多様の大勢の妖魔達は直ぐに神斗に恭しく頭を下げて命令に従い去って行くのだった。

「さて、もうこれで十分だろう」

 煌阿は自分以外に誰も居なくなった山の頂でそう独り言ちると、大きく溜息を吐くのだった。

 彼はシギンや耶王美達を『結界』に閉じ込めた後、認識阻害の札に『空間魔法』を用いて他の者達からは見えないように施し、そして今のように煌阿はあらゆる場所に居る妖魔達に同じ命令を繰り返して、この山に乗り込んできた人間達を殺すように指示を出してまわっていた。

「ふふっ、天狗共を殺った奴がなんなのかは分からぬが、卜部官兵衛うらべかんべえや閉じ込めたあの人間より強いわけはないはずだ。もう俺が動く必要もなさそうだが、耶王美が口にしていた言葉が少しばかり気に掛かるからな。情報次第では俺が直々に潰してやってもいいだろう」

 煌阿はそう口にしながら、新たな身体になじませるように自身の『魔力』を通していく。

 現在煌阿が乗っ取っている身体は、かつての仲間であった妖魔神の神斗のものである。しかしもう本来の身体の持ち主である神斗の精神は消失している事だろう。

 何故なら神斗の『魔』の概念理解度であれば、自身の身体から精神だけを上手く乖離させて意識をしっかりと保たせる程の領域にまでまだ至っていないと煌阿は考えているからである。

 あのシギンと名乗っていた人間や、卜部官兵衛であれば今の煌阿のように乗っ取った身体の内側に上手く媒体として『魔力』の一部を残してその身体に潜り込ませ続けながら隠蔽を施して煌阿に気付かれぬように、裏から何らかの対策を講じようとしていた可能性も否めないが、あくまで『透過』技法という『魔』の概念にのみ傾倒し続けている神斗程度の『魔』の概念理解度では、それすら行う事は出来ないだろう。

 そう考える煌阿ではあるが、彼自身も精神体を見事に使いこなせるようになったのは『卜部官兵衛』との戦闘後からであるため、長寿な生物である彼にとっては比較的最近といえた。

 それに加えて彼は自身の『金色の体現者』としての『特異』のおかげで、相手の『魔』の技法に対して凡そ八割の再現が行える為に、その相手の『魔』の技法を実際に使用する事で通常よりも早く理解する事が出来ている。

 煌阿はそんな『魔』に対するアドバンテージがある為に、シギンよりも更に短期間で『魔』の理解を深める事を可能としたが、神斗は全て自分だけの力で『魔』を覚えて行かなくてはならないが故に、精神体という概念を作り出して上手く隠蔽を施しながら他者が支配権を握っている身体に同居させるという器用な真似はまだまだ出来ないだろう。

 こうして考えれば如何に『金色の体現者』に備わる『特異』というものが、異質にして反則的なものかが窺い知れるだろう。

 確かに戦闘に対して直接的な関係があるわけではない『煌阿』の『特異』ではあるが、相手の『魔』の力を直接自分で扱う事で十全とまではいかずとも、どういったモノであるかを判断する材料としては十分であり、概念への理解度を深める上ではこれ以上ない教材を手にする事が出来るだろう。

 そうして手に入れた『魔』の理解は、長い目で見れば戦闘面がより鋭利化されていく為に、直接的な威力を伸ばす『特異』よりも優れているといっても過言ではない筈である。

 現に煌阿は理解度では『卜部官兵衛』や『シギン』に劣っているにしても、すでにその本家本元である『卜部官兵衛』の至った『魔』の技法の数々を自分のモノにして十割の力で扱うにまで至った。

 そうしてその『卜部官兵衛』の『魔』の技法、更にはシギンの『魔』の技法を会得する事で、実際にシギンという『魔』の理解者を相手に封印して完封してみせたのである。

 たとえこうした一つのキッカケで手にした八割の力であっても、相手の使う『魔』や『ことわり』を理解出来れば、あとは独自に研鑽や研究を進める事でいずれは十割の力で会得すればいいだけの話であり、煌阿にはそれを行える寿命も理解への下地もすでに完成されているのだ。

 たとえ煌阿の相手が自分よりも強く『魔』の知識を持っていたのだとしても、いずれは追いつき追い抜く事が出来る可能性を秘めている。

 この『ノックス』の世界で『煌阿』という妖魔は、まさに『最強』へ至る事が出来るで間違いないだろう。

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