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妖魔山編
1859.筋の通し方と両組織の判断
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ヌーとの会話の後にエイジは、師の呪符を先程とは違う感情を込めて握りしめるのだった。
(サイヨウ様……。貴方がゲンロクを見事に立ち直らせた後も、小生やヒュウガ達に『僧全』の重要性を説いて『天狗』や『鵺』の使う『呪詛』や『呪い』への対処法、それに『捉術』に取り入れるという画期的なアイデアを教えて下さったおかげで、小生もヒュウガもイダラマも、そしてこのゲンロクもまた『最上位妖魔召士』として恥ずかしくない実力を身につける事が出来た。あのまま貴方が組織に居続けてくれていたならば、今頃はもう少し組織もマシになっていたに違いない)
エイジは手元の呪符を見ながら、昔を懐かしむようにシギンや四天王が居た頃の組織を思い浮かべて感傷的な気分にさせられるのであった。
「これは本当は言うつもりはなかったのだがな、本当はコウエン殿は『守旧派』の筆頭として組織の長に返り咲いた後に自らの手でその呪符を手渡して、そしてシギン様の代の時のような一枚岩となる妖魔召士組織を目指しておったのだ」
「コウエン殿が……?」
感傷的な気分に浸っていたエイジは、当時の『守旧派』であったリクト達の話に真摯に耳を傾ける。
「シギン様やサイヨウ殿が組織を離れた後の妖魔召士組織は見てはおれぬものとなった。かつての『改革派』や、これ幸いとシギン様の代には『守旧派』や『中立派』であった者達までもが好き勝手を始めたのは記憶に新しい。ゲンロクも自分の心の回復に大変だったのは分かるが、組織を預かる身に復帰するまでの時間が長すぎたな。暫定の長となる頃には組織はもうどうしようもない惨状だった」
「リクト殿……」
ゲンロクはリクトの言葉に、不甲斐なさを噛みしめながら申し訳なさそうにするのだった。
「お主を責めているのではない。むしろそんな組織を少しでも良くしようとしていた事をワシらもちゃんと分かっておる。お主が新たに『禁術』を作り出した事や、退魔組という新たな退魔士達の受け皿となる場所を作ったのもこれ以上組織が悪い方向へ行かぬようにと考えての事だという事もワシらは頭では理解しておったのだ。だが、組織の中にはお主の『禁術』をこれ幸いにと悪用して用いる者や、何も分からぬままに上に言われて平然と使うようになった者達で溢れかえる様には、もうワシらはついていけなかった。それもまた時代の流れだったのだろうな。ワシらのような古い考えを持つ者は、シギン様や四天王達が離れた時点で引退するべきだったのだ」
遠い目をしながらそう口にするリクトだったが、そういう心境に至りこうして伝える事が出来たのには、コウエンの死期をこの山で見届けられたからという面が大きかったのだろう。
これまでは『守旧派』にしてかつての四天王であった『コウエン』というリーダーが存命であったことに加えて、あれだけ多くの同志が居たことで、リクト達にも再び組織を盛り返せるかもしれないという欲が表に大きく出てきていた。しかし今はもうその多くの同志達もいなくなり、成し遂げてくれるはずのリーダーも死んでしまった。
希望の糸が切れた事でようやく『引退』して出来る事と出来ない事の分別、言い換えれば現実を受け入れる覚悟がリクトにも出来たという事だろう。
何もかもを失ってようやく気付いたリクトだが、彼自身はまだこうして無事に生き永らえる事が出来ている。そういった点ではまだ遅すぎたということはなく、これから反省を活かして生きていく事もまだまだ可能だろう。
今回の出来事であったコウエンからエイジに呪符を無事託せた事は、彼らにとって『引退』を決めるいい機会になったようであった。
「シゲン殿。リクト殿達の処断の件じゃが、彼らはサカダイ襲撃に直接関わり手を出してはいない。もちろんこのまま無関係とまでは言い張るつもりもないが、こうしてエイジに渡し物があったという事情があったにせよ、組織のトップである貴方がたの居るこの場所に自ら……」
「ゲンロク殿! それを決めるのはあくまで総長です。組織の長の座を退いているとはいえ、それ以上は控えられる方がよろしいかと」
この調査が終わった後に連行される事となるリクト達の心証を少しでもよくしようと、ゲンロクがシゲンに直談判をしようとしたが、最後まで言い切らせる前に副総長のミスズが咎めるように口を挟んだ。
「ゲンロク殿、この件はまた調査を終えた後にゆっくりと話をしよう。ひとまず貴方もこれからやるべき事に尽力を願いたい」
「そ、そう、ですな……」
ゲンロクの言いたい事や、そうしたいと思う気持ちも理解する事が出来たシゲンだが、あくまで今は山の調査の最中であり、両組織の人間達だけではなく、この場にはソフィ達もいる。そしてそんなソフィ達を優先すると口にしていた以上は、どれだけリクト達の件で妖魔退魔師組織に思うところがあれども、この山の調査が終わるまでは保留すると総長シゲンは決めている。
それにリクト達の処遇についてにしても、被害を被ったのは妖魔退魔師組織である為、それを元妖魔召士の暫定の長の座に居たゲンロクの言葉であろうと、組織そのものが違う以上は、妖魔退魔師組織の決める処断に対してモノ申す事自体が筋違いとなる。
それを踏まえた上でシゲンは、本来は何も言う必要がない場面でしっかりとゲンロクに伝えた。そしてミスズもまたゲンロクに責任を取らせないように、あえて言質となる言葉を吐き出させないように留めようと静止してくれた。
総長シゲン、副総長ミスズはわざわざ妖魔召士組織側のこれ以上の失態を避けるために、分かりやすく窘めてくれたのである。
その事をしっかりと理解したゲンロクは、決定的な発言となる前に何とか言葉を呑み込む事が出来たのだった。
そしてゲンロクが再び顔を上げた時、シゲンは軽く頷きをみせて、ミスズはよく見ていなければ分からない程の小さな微笑みを少しの間だけだが、ゲンロクに向けて浮かべてくれたのだった。
(サイヨウ様……。貴方がゲンロクを見事に立ち直らせた後も、小生やヒュウガ達に『僧全』の重要性を説いて『天狗』や『鵺』の使う『呪詛』や『呪い』への対処法、それに『捉術』に取り入れるという画期的なアイデアを教えて下さったおかげで、小生もヒュウガもイダラマも、そしてこのゲンロクもまた『最上位妖魔召士』として恥ずかしくない実力を身につける事が出来た。あのまま貴方が組織に居続けてくれていたならば、今頃はもう少し組織もマシになっていたに違いない)
エイジは手元の呪符を見ながら、昔を懐かしむようにシギンや四天王が居た頃の組織を思い浮かべて感傷的な気分にさせられるのであった。
「これは本当は言うつもりはなかったのだがな、本当はコウエン殿は『守旧派』の筆頭として組織の長に返り咲いた後に自らの手でその呪符を手渡して、そしてシギン様の代の時のような一枚岩となる妖魔召士組織を目指しておったのだ」
「コウエン殿が……?」
感傷的な気分に浸っていたエイジは、当時の『守旧派』であったリクト達の話に真摯に耳を傾ける。
「シギン様やサイヨウ殿が組織を離れた後の妖魔召士組織は見てはおれぬものとなった。かつての『改革派』や、これ幸いとシギン様の代には『守旧派』や『中立派』であった者達までもが好き勝手を始めたのは記憶に新しい。ゲンロクも自分の心の回復に大変だったのは分かるが、組織を預かる身に復帰するまでの時間が長すぎたな。暫定の長となる頃には組織はもうどうしようもない惨状だった」
「リクト殿……」
ゲンロクはリクトの言葉に、不甲斐なさを噛みしめながら申し訳なさそうにするのだった。
「お主を責めているのではない。むしろそんな組織を少しでも良くしようとしていた事をワシらもちゃんと分かっておる。お主が新たに『禁術』を作り出した事や、退魔組という新たな退魔士達の受け皿となる場所を作ったのもこれ以上組織が悪い方向へ行かぬようにと考えての事だという事もワシらは頭では理解しておったのだ。だが、組織の中にはお主の『禁術』をこれ幸いにと悪用して用いる者や、何も分からぬままに上に言われて平然と使うようになった者達で溢れかえる様には、もうワシらはついていけなかった。それもまた時代の流れだったのだろうな。ワシらのような古い考えを持つ者は、シギン様や四天王達が離れた時点で引退するべきだったのだ」
遠い目をしながらそう口にするリクトだったが、そういう心境に至りこうして伝える事が出来たのには、コウエンの死期をこの山で見届けられたからという面が大きかったのだろう。
これまでは『守旧派』にしてかつての四天王であった『コウエン』というリーダーが存命であったことに加えて、あれだけ多くの同志が居たことで、リクト達にも再び組織を盛り返せるかもしれないという欲が表に大きく出てきていた。しかし今はもうその多くの同志達もいなくなり、成し遂げてくれるはずのリーダーも死んでしまった。
希望の糸が切れた事でようやく『引退』して出来る事と出来ない事の分別、言い換えれば現実を受け入れる覚悟がリクトにも出来たという事だろう。
何もかもを失ってようやく気付いたリクトだが、彼自身はまだこうして無事に生き永らえる事が出来ている。そういった点ではまだ遅すぎたということはなく、これから反省を活かして生きていく事もまだまだ可能だろう。
今回の出来事であったコウエンからエイジに呪符を無事託せた事は、彼らにとって『引退』を決めるいい機会になったようであった。
「シゲン殿。リクト殿達の処断の件じゃが、彼らはサカダイ襲撃に直接関わり手を出してはいない。もちろんこのまま無関係とまでは言い張るつもりもないが、こうしてエイジに渡し物があったという事情があったにせよ、組織のトップである貴方がたの居るこの場所に自ら……」
「ゲンロク殿! それを決めるのはあくまで総長です。組織の長の座を退いているとはいえ、それ以上は控えられる方がよろしいかと」
この調査が終わった後に連行される事となるリクト達の心証を少しでもよくしようと、ゲンロクがシゲンに直談判をしようとしたが、最後まで言い切らせる前に副総長のミスズが咎めるように口を挟んだ。
「ゲンロク殿、この件はまた調査を終えた後にゆっくりと話をしよう。ひとまず貴方もこれからやるべき事に尽力を願いたい」
「そ、そう、ですな……」
ゲンロクの言いたい事や、そうしたいと思う気持ちも理解する事が出来たシゲンだが、あくまで今は山の調査の最中であり、両組織の人間達だけではなく、この場にはソフィ達もいる。そしてそんなソフィ達を優先すると口にしていた以上は、どれだけリクト達の件で妖魔退魔師組織に思うところがあれども、この山の調査が終わるまでは保留すると総長シゲンは決めている。
それにリクト達の処遇についてにしても、被害を被ったのは妖魔退魔師組織である為、それを元妖魔召士の暫定の長の座に居たゲンロクの言葉であろうと、組織そのものが違う以上は、妖魔退魔師組織の決める処断に対してモノ申す事自体が筋違いとなる。
それを踏まえた上でシゲンは、本来は何も言う必要がない場面でしっかりとゲンロクに伝えた。そしてミスズもまたゲンロクに責任を取らせないように、あえて言質となる言葉を吐き出させないように留めようと静止してくれた。
総長シゲン、副総長ミスズはわざわざ妖魔召士組織側のこれ以上の失態を避けるために、分かりやすく窘めてくれたのである。
その事をしっかりと理解したゲンロクは、決定的な発言となる前に何とか言葉を呑み込む事が出来たのだった。
そしてゲンロクが再び顔を上げた時、シゲンは軽く頷きをみせて、ミスズはよく見ていなければ分からない程の小さな微笑みを少しの間だけだが、ゲンロクに向けて浮かべてくれたのだった。
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