最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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妖魔山編

1854.ソフィの抱く疑問と、ヌーの抱いた新たな疑問

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 鬼人族の集落でウガマやイダラマを交えて話を終えたソフィ達だが、現在はそのウガマの話に出てきた神斗という妖魔神が『エヴィ』と共に居るという事を知り、これから山の頂を目指す事となった。

「本当にすまぬな、その言葉に甘えさせてもらう」

 天狗族の一件でもソフィは彼らに感謝をしていたが、結局最後までソフィの事情を優先してくれた『シゲン』と『エイジ』達に再度頭を下げて感謝の言葉を口にするのだった。

「頭を上げられよ、ソフィ殿。さっきも言ったが、エヴィ殿を探す事も立派に山の調査に繋がるのだ。それでソフィ殿、貴方の仲間が妖魔神と戦ったという話のようだが、その戦闘が行われた場所を天狗族の時のように把握する事は出来ぬのだろうか?」

 シゲンはここに来る前のソフィとヌーとの会話で、この妖魔山全域に散らばっている天狗達をも消滅させたという話をしたのを覚えていたようで、その時のように『魔力』から居場所を探る事は出来ないかと尋ねたのである。

「それが厄介な事にエヴィどころか、この場所から高い場所にある頂近い山の先まで『結界』が施されておるようで、完全に感知が遮断されてしまっているのだ。本来であれば戦闘を行った時点で、その魔力の余波や残滓から居場所を突き止める事が出来る筈なのだが、どうやらその隠蔽を行った者が張った『結界』は、とても優れているようで、我でも探る事が出来ぬのだ……」

 単なる『魔力値』が高いだけの者が張る『結界』であれば、ソフィが戦闘経由で居場所を感知出来ないという筈がなく、更にはソフィ達の世界の『ことわり』には、そういった感知に特化した『漏出サーチ』という『魔法』も存在しているのだが、どうやらエヴィ達の『魔力』を覆い隠している者は、単なる『魔力値』の高さだけではなく、そういった『魔力感知』を遮断する『魔』の技法を用いた防衛手段を有しているのだとソフィ達は判断している様子であった。

 当然そんな『魔力感知』の遮断を行うような『ことわり』は、アレルバレルの世界にも存在はしていないのだが、これは大魔王フルーフの『レパート』の世界には遮断する手立てと呼べる『ことわり』も『魔法』も存在している為に、ソフィはその可能性に思い至ったというわけである。

 大魔王ヌーもソフィと同じ事を考えていたようだが、ちらりとエイジを一瞥し始めると、そのヌーの視線を受けたエイジは首を横に振った後に口を開いた。

「この世界には本来は『ことわり』というものが存在していない為、そういった『魔法』はない……と、言いたいところなのだが、先程のウガマ殿の話が本当なのであれば、シギン様が張られた『結界』が関係しているのかもしれない」

「さっきから話題に上がるそのシギンって野郎は、どうやら相当なようだな。あくまで推測に過ぎねぇが、そのシギンって奴は、もしかすると『時魔法タイム・マジック』の応用で『結界』の内側に居る者を『次元の狭間』といった空間そのものに閉じ込めているのかもしれねぇな」

「ヌーよ、少しいいか? 今の話で思い出したのだが、我は『概念跳躍アルム・ノーティア』を使う事は叶わぬが、その『次元の狭間』という場所には少し思う事があるのだ」

「ん? 何だよ」

「フルーフの奴の『概念跳躍アルム・ノーティア』で我らがこの世界に訪れた時、その『次元』を変更する時に辿ってきたあの道では、お主らは瞬きもせずにじっと前を向いていたように思うのだが、あの時にお主達には意識はあったのだろうか?」

 それはこの世界の一番最初に訪れた、『加護の森』に辿り着く少し前に感じたソフィの疑問であった。

 この目の前に居るヌーだけではなく、、身動き一つ取らずに視線を前に向けて移動に身を委ねていた。

 彼だけがしっかりと意識を保っているように思えた為、その時の疑問をここで口にしたのであった。

「お前は、どうなんだ……? その時に意識はしっかりしてたのかよ?」

 いつものようにヌーからは『当然だ』とか『当たり前だろうが』と、言葉が返ってくるだろうと思ったソフィだが、ヌーは少しだけ考える素振りを見せた後に、興味を示すように片眉を寄せるように動かしながら逆にソフィに尋ね返すのだった。

「あの時に我は意識はあったが、手足を普段通りに動かす事は困難だとは感じた。それに『魔』の技法に関しても『魔瞳まどう』くらいであれば問題なく使えそうだったが『ことわり』に基づいた『魔法』などは使えるか怪しいと思えたな」

「そうかよ……」

 ソフィの言葉を聞いたヌーは、何かを思案するように両目を閉じたかと思うと、静かに溜息を漏らすのだった。

 それでお主はどうなのだとばかりに、ソフィがそんなヌーに視線を向けると、やがて目を開いたヌーがその視線に合わせながら口を開くのだった。

「普通は『概念跳躍アルム・ノーティア』の発動と同時に意識はなくなり、別世界に通じる『次元の狭間』という『道』を通る時にも脳が認識出来ずに到達までは何も考えられなくなる筈だ。だが、たまに今のお前が口にしたようにしっかりと移動しているのだという意識を持ったまま移動を行う事が出来る奴も居るのは確かだな。しかし『概念跳躍アルム・ノーティア』を使えてそんな意識を保っていられた奴は一人しか知らねぇな」

「たった一人だけなのか……」

「ああ。それは『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥だった『ミラ』だ。しかし奴でさえ『次元の狭間』では、手足を動かす事はおろか『魔』の技法全般を使うなんて芸当は出来なかったし、奴自身も制限をかけられる事は仕方のない事だと口にしていた筈だ。だから普通の奴ならまず『魔瞳まどう』すら使えねぇ筈だ」

「そう……か」

(こやつが嘘を言っているようには思えぬし、そもそもそんな事で嘘をついても仕方がないだろうな。あやつは『魔力値』自体は大した事はなかったが、フルーフやエルシスのように『魔』に関しては侮れぬ力を持っていた。そんな奴でも『次元の狭間』では動けぬのであれば、やはりあの『リラリオ』へ向かう時に辿った『次元の狭間』で……)

 何かを考え始めたソフィの顔をじっと見つめるヌーは、コイツが『概念跳躍アルム・ノーティア』を使えないのには、ソフィ自身が問題なのではなく、と考え始めるのだった。

 ……
 ……
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