上 下
1,866 / 1,906
妖魔山編

1849.妖魔神と煌阿の関係性

しおりを挟む
 エヴィと耶王美が『結界』から逃れる手立てを探し始めた頃、その『結界』を張った張本人である煌阿は、自分が長年居た洞穴の中に戻ってきていた。

 そしてそこに今度は、煌阿の代わりにシギンの姿があった。

 奇しくもこのシギンは煌阿を『結界』と『封印式札』を用いて閉じ込めた『卜部官兵衛』の血を引く子孫であり、先祖によって封印された妖魔に、今度は同じ場所、同じ術を用いられて今度はその『卜部官兵衛』の子孫が封印されてしまうのだった。

「――これは驚いたな。煌阿よ、お前が相当の『魔』の理解者だとは思っていたが、まさか妖魔召士としての『術』だけではなく、阻害系統の呪符の扱いまで行えたのか。それも意識阻害級どころか、それは認識阻害に至っている。お前は今すぐにでも胸を張って自分を妖魔召士と名乗れるぞ」

 自分の置かれている状況をしっかりと理解しているのかいないのか、封印された『結界』の内側から外側に居る煌阿にそう言葉を吐き捨てたシギンだった。

「あまり俺を馬鹿にするなよ? 妖魔召士などという人間共が至っている『魔』の領域など、卜部うらべの奴を除けばその大半が児戯に過ぎぬ。そしてその卜部の『魔』の理解度すら、この数百年の内に俺は越えて見せたのだ。今更そこいらに居る有象無象の妖魔召士共が使う『魔』の技法など、一目見れば全て完璧に使いこなせて見せようぞ」

「ふふっ、ではその有象無象の中に俺も入っているという事か?」

 何処か自虐的とも呼べるような言い方でそう告げるシギンに、阻害の札を元々あったように設置しようとしていた煌阿の手がピタリと止まった。

「卜部の奴を除けばと俺は言った筈だ。卜部の血筋を引きつつ、その卜部の至っている『魔』の概念領域に程近く、卜部を遥かに上回る『魔力』を有しているお前はもう俺の中で卜部官兵衛と遜色はない。残念だが、お前だけはもう二度と外に出すつもりはないぞ」

 そう言って、そこでようやく彼に合う邪悪な笑みをシギンに見せるのだった。 

「ふっ、どうやら本当に俺はここまでのようだな。では最後にお前に聞いておきたい事がある」

 その言葉に煌阿は浮かべていた笑みを消したかと思うと、訝しむように眉を寄せた。

「何だ……?」

「お前が今乗っ取っているその身体の本来の持ち主である神斗とお前の関係だ。お前程の強さを持つ者が俺の先祖に封印される前までこの山で生きてきたというのに、お前より遥かに弱い神斗や悟獄丸が妖魔神を名乗ってこの山の主であるかのように過ごしてきていた。つまりお前は神斗達と行動を共にしてもいいと思える程に仲は悪くなかったとみえるが、この洞穴で再会を果たした時にお前は神斗を本気で殺めようとしている風に見えた。現実に俺が『空間』をイジって神斗を助けなければ、今頃神斗の奴が死んでいたのも間違いない。このまま俺が死ぬ前に、せめてお前達の関係性だけでも教えてはくれぬか?」

 シギンが神斗の名を出した瞬間、この洞穴に封印を施した『卜部官兵衛』の話をしていた時以上の憎悪に歪んだ表情を見せる煌阿だった。

 数秒間に渡って、口に出すのも憚られると言わんばかりにシギンを睨みつけていた煌阿だったが、そこでようやく表情を戻すと同時に小さく息を吐いた。

「ふんっ、卜部の血筋の者にならば教えてやっても構わんか。冥途への土産代わりに話をしてやる」

 そう言って煌阿は式札を吊るし終えると、ゆっくりとシギンの方へと歩いてくる。

 やがて『結界』のすぐ前まで辿り着くと、シギンの前で煌阿は腰を下ろして胡坐をかきながら語り始めた。

「お主が何処まで知っているのかは存ぜぬが、確かに俺は神斗や悟獄丸を仲間だと思って当時はよくツルんでいた。その時から種族としての『翼族』や『鬼人族』は俺達『鵺』という種族をよくは思っていなかったようだが、種族の長としての立場だった『神斗』や『悟獄丸』はそんな態度を一切見せなかったし、俺も気の合う奴らだと信じていた」

「だったら何故神斗を殺そうと?」

「それは簡単な話だ。神斗達が俺を裏切ったからだ」

「何だと?」

 溜息を吐いた後に少し間を置いてから煌阿は口を開いた。

「神斗に呼び出されて行った場所に、お前の先祖が待ち受けていやがったんだよ」

 シギンは不可解だとばかりに眉を寄せた後に少し首を傾げた。

「どういう事だ? もう少し分かりやすく、順を追って話せ」

 その言葉に忌々しそうに顔を歪める煌阿こうあであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

最弱賢者の転生者 ~四度目の人生で最強になりました~

木嶋隆太
ファンタジー
生まれ持った職業によって優劣が決まる世界で、ロワールは僧侶という下級職として生まれた。下級職だったため、あっさりと死んでしまったロワールだったが、彼は転生した。――最強と呼ばれる『賢者』として。転生した世界はロワールの時代よりも遥かに魔法のレベルが落ちた世界であり、『賢者』は最弱の職業として知られていた。見下され、バカにされるロワールだったが、彼は世界の常識を破壊するように大活躍し、成り上がっていく。※こちらの作品は、「カクヨム」、「小説家になろう」にも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...