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妖魔山編
1845.崇拝する大魔王
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そしてそのソフィがこの山で追い求めている『エヴィ』は、意識を失った状態で一体の妖狐と共に居た。その妖狐の名は耶王美といい、あの九尾の王琳に仕える女妖狐であった。
「やれやれ、こんなところに閉じ込められると分かっていたら、さっさとシギンとかいう人間と煌阿殿が戦いを始めた頃に王琳様の元へ帰っていたらよかった」
耶王美は後悔の言葉を呟いた後、横で気を失って横になっているエヴィを見ながら溜息を吐くのだった。
「それにしても面倒な事になったわね。どうやら『神斗』殿の身体を乗っ取った煌阿殿は、その『神斗』殿の見た目だけではなく、僅かながらにその『魔力』の種類まで似せる事が出来ていた。私や王琳様であれば直ぐに本物と異なっている事に気付けるだろうけど、大半の妖魔達では騙されてしまうでしょうね……」
(煌阿殿が具体的に何を行うつもりかは分からないけど、自分を封印した『卜部官兵衛』という人間に相当の恨みを抱いている様子だった。それを踏まえて考えると、この山に生きる妖魔達を自分の思い通りに動かして人里を襲わせる……といったところかしら?)
そこまで考えてから耶王美は再び溜息を吐いた。
もう妖魔山の今後の事や、神斗の身体を乗っ取っている煌阿の事を考えても、すでに自分が出来る事はなくなったからである。
耶王美は自分が隔離されたこの空間内を歩き回ってみたが、すでに自分だけの力では中から外へと出られる可能性はないだろうという判断に至った。
――この『空間』は個人が持つ単純な強さだけでどうにか出来るものではない。
あの『悟獄丸』をあっさりと倒してのけた妖魔召士でさえ、自分と同様に『結界』の内側に幽閉されて出る事が出来ない以上、シギンよりも遥かに『魔力』で劣り、概念でも追いついていない自分にはどうしようもない。
そしてエヴィの方に視線を移した耶王美だが、丁度そのタイミングでこれまで気を失っていた彼の目が開かれるのだった。
「ん……? ここは一体……?」
「まさかこんな状況になってから目を覚ますなんて、あなたもとことんツイていないわねぇ?」
もう少し早く目を覚まして居ればこんな所に閉じ込められる事もなかっただろうに、それも抜け出せなくなってから直ぐに目を覚ますなんて、何て運がない子なのだろうとばかりに苦笑いを浮かべながら、同情するような声色で声を掛けるのだった。
「僕は確かイダラマ達と居たと思うんだけど……、君は誰だい?」
「私かい? 私は妖狐の『耶王美』だ。その様子だと『神斗』殿と戦っていた時の事も覚えていないようだね。アンタはそのイダラマって妖魔召士を助けようとして『神斗』殿と戦い、相打ち覚悟で『呪い』を放ち、そのまま『魔力枯渇』を引き起こして今まで意識を失っていたのだよ」
その説明を聞きながらエヴィは周囲を見渡して、ここが気を失った時と同じ山であるという事、そして現在はその妖魔山の『結界』の内側に居るという現実を把握した様子だった。
「ああ……。そう言えば、そうだったな。君はどうやら僕が意識を失った後の事情も詳しいようだ。こんなところに閉じ込められている事も含めてここまであった出来事を僕に教えてくれないかい?」
「ふふっ、私はアンタ達がこの山に来た時から注目していたけど、アンタはそんな風に何かに固執するようなタイプに見えなかったし、何があってもどうでもいいと思うようなタイプだと感じていたけど、どうやら私の考え違いだったようだね。あの時『神斗』殿から人間達を庇おうとしていた時も思ったけど、今こうして直ぐに『結界』から抜け出そうとするその意欲を見て改めて思ったよ」
その言葉に最初は訝しそうにしていたエヴィだったが、その後直ぐに『耶王美』の言いたい事を理解したのか彼は笑って口を開いて言葉を返した。
「僕は君とこうして話すのは初めてだし、そもそも『魔族』でもない種族の考える事なんて分からないし、分かりたくもないけど、どうやら君は僕達と近しい感性を抱いているみたいだな」
「どういう事だ?」
何故、今の会話の中で自分がそんな風に思われたのか分からず、耶王美は疑問を解消するべく尋ねるが。
「ま、分からないならいいよ。勝手に僕が思った事だから別に君は知らなくていい。それよりここを抜け出そうと真剣になった理由だけど……」
その答えを話そうとせず、飄々とした様子で話題を変えたエヴィに耶王美は、こいつは相当に自分勝手だなと考えるのだった。
「僕のとっても大事な御方が、ここに居るかもしれないからだよ。その御方に会う為ならば何を置いてもここを抜け出さないといけないからね」
「ふむ……。会わないといけない者の為……か。アンタは人間には見えないし、さっきも『魔族』とやらがどうとかいっていたけど、君の会いたい者というのも『魔族』なのかな? そしてそいつは背に黒い羽を生やしているかい?」
――その言葉に、エヴィの耶王美を見る目が変わった。
「は、はは……、ハハハハハッ!!」
そしてそのエヴィは唐突に狂ったように笑い始めた。
「や、やっぱり、やっぱり!! この世界にソフィ様はいるんだ! あの時に感じたソフィ様の『魔力』を他でもないこの僕が見過ごす筈がないと思っていた! ああっ……! ソフィ様……――!!」
まるで神に祈りを捧げるかの如く、エヴィは天に向けて手を合わせたかと思えば大粒の涙を流し始めた。
「はっ……?」
まるで信ずる神が目の前に突然に顕現したかのように、崩れ落ちながら両膝を地面につけて震えながら祈りを捧げ始めたエヴィを目の当たりにした耶王美は、声に出そうとしていた言葉を呑み込んだまま唖然とするのだった。
「やれやれ、こんなところに閉じ込められると分かっていたら、さっさとシギンとかいう人間と煌阿殿が戦いを始めた頃に王琳様の元へ帰っていたらよかった」
耶王美は後悔の言葉を呟いた後、横で気を失って横になっているエヴィを見ながら溜息を吐くのだった。
「それにしても面倒な事になったわね。どうやら『神斗』殿の身体を乗っ取った煌阿殿は、その『神斗』殿の見た目だけではなく、僅かながらにその『魔力』の種類まで似せる事が出来ていた。私や王琳様であれば直ぐに本物と異なっている事に気付けるだろうけど、大半の妖魔達では騙されてしまうでしょうね……」
(煌阿殿が具体的に何を行うつもりかは分からないけど、自分を封印した『卜部官兵衛』という人間に相当の恨みを抱いている様子だった。それを踏まえて考えると、この山に生きる妖魔達を自分の思い通りに動かして人里を襲わせる……といったところかしら?)
そこまで考えてから耶王美は再び溜息を吐いた。
もう妖魔山の今後の事や、神斗の身体を乗っ取っている煌阿の事を考えても、すでに自分が出来る事はなくなったからである。
耶王美は自分が隔離されたこの空間内を歩き回ってみたが、すでに自分だけの力では中から外へと出られる可能性はないだろうという判断に至った。
――この『空間』は個人が持つ単純な強さだけでどうにか出来るものではない。
あの『悟獄丸』をあっさりと倒してのけた妖魔召士でさえ、自分と同様に『結界』の内側に幽閉されて出る事が出来ない以上、シギンよりも遥かに『魔力』で劣り、概念でも追いついていない自分にはどうしようもない。
そしてエヴィの方に視線を移した耶王美だが、丁度そのタイミングでこれまで気を失っていた彼の目が開かれるのだった。
「ん……? ここは一体……?」
「まさかこんな状況になってから目を覚ますなんて、あなたもとことんツイていないわねぇ?」
もう少し早く目を覚まして居ればこんな所に閉じ込められる事もなかっただろうに、それも抜け出せなくなってから直ぐに目を覚ますなんて、何て運がない子なのだろうとばかりに苦笑いを浮かべながら、同情するような声色で声を掛けるのだった。
「僕は確かイダラマ達と居たと思うんだけど……、君は誰だい?」
「私かい? 私は妖狐の『耶王美』だ。その様子だと『神斗』殿と戦っていた時の事も覚えていないようだね。アンタはそのイダラマって妖魔召士を助けようとして『神斗』殿と戦い、相打ち覚悟で『呪い』を放ち、そのまま『魔力枯渇』を引き起こして今まで意識を失っていたのだよ」
その説明を聞きながらエヴィは周囲を見渡して、ここが気を失った時と同じ山であるという事、そして現在はその妖魔山の『結界』の内側に居るという現実を把握した様子だった。
「ああ……。そう言えば、そうだったな。君はどうやら僕が意識を失った後の事情も詳しいようだ。こんなところに閉じ込められている事も含めてここまであった出来事を僕に教えてくれないかい?」
「ふふっ、私はアンタ達がこの山に来た時から注目していたけど、アンタはそんな風に何かに固執するようなタイプに見えなかったし、何があってもどうでもいいと思うようなタイプだと感じていたけど、どうやら私の考え違いだったようだね。あの時『神斗』殿から人間達を庇おうとしていた時も思ったけど、今こうして直ぐに『結界』から抜け出そうとするその意欲を見て改めて思ったよ」
その言葉に最初は訝しそうにしていたエヴィだったが、その後直ぐに『耶王美』の言いたい事を理解したのか彼は笑って口を開いて言葉を返した。
「僕は君とこうして話すのは初めてだし、そもそも『魔族』でもない種族の考える事なんて分からないし、分かりたくもないけど、どうやら君は僕達と近しい感性を抱いているみたいだな」
「どういう事だ?」
何故、今の会話の中で自分がそんな風に思われたのか分からず、耶王美は疑問を解消するべく尋ねるが。
「ま、分からないならいいよ。勝手に僕が思った事だから別に君は知らなくていい。それよりここを抜け出そうと真剣になった理由だけど……」
その答えを話そうとせず、飄々とした様子で話題を変えたエヴィに耶王美は、こいつは相当に自分勝手だなと考えるのだった。
「僕のとっても大事な御方が、ここに居るかもしれないからだよ。その御方に会う為ならば何を置いてもここを抜け出さないといけないからね」
「ふむ……。会わないといけない者の為……か。アンタは人間には見えないし、さっきも『魔族』とやらがどうとかいっていたけど、君の会いたい者というのも『魔族』なのかな? そしてそいつは背に黒い羽を生やしているかい?」
――その言葉に、エヴィの耶王美を見る目が変わった。
「は、はは……、ハハハハハッ!!」
そしてそのエヴィは唐突に狂ったように笑い始めた。
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まるで神に祈りを捧げるかの如く、エヴィは天に向けて手を合わせたかと思えば大粒の涙を流し始めた。
「はっ……?」
まるで信ずる神が目の前に突然に顕現したかのように、崩れ落ちながら両膝を地面につけて震えながら祈りを捧げ始めたエヴィを目の当たりにした耶王美は、声に出そうとしていた言葉を呑み込んだまま唖然とするのだった。
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