最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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妖魔山編

1842.大魔王ソフィの圧力と仲間との誓い

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「ところでお主、そこに居るのがイダラマという者だと言っていたな?」

「あ、ああ……、しかしこの通りイダラマ様は『魔力枯渇』を引き起こしてしまっていてな。当分の間は目を覚まさないだろう」

 そう言って用意された長椅子の上で寝かされているイダラマに視線を送るウガマであった。

「顔色を見るに極限まで『魔力』を消費したのだろうな。我であればこの状況でも無理に起こす事は可能だが、流石にそのような無理をさせるつもりはない。だから代わりにお主に聞きたいのだが……」

「むっ?」

 これまでより真剣な表情を浮かべ始めたソフィに、何事かとばかりにウガマは眉をひそめた。

「我はとある仲間を探しておるのだがな、どうやらその大事な仲間がお主らと共に行動をしておったという話を耳にしたのだ。この世界では珍しい青い髪をしていて、まだ子供と呼べるような見た目の少年なのだがな?」

「青い髪の毛、別世界からきた尊敬する主……。そして天狗族たちを相手に圧倒した『魔王』……。ああ、そういう事か、アンタがエヴィの言っていた大魔王ソフィなのだな?」

 ここでようやくウガマは目の前の天狗族を圧倒した、黒い羽を生やした信じられない化け物が、エヴィが崇拝する様子を見せた主なのだと合点がいった様子であった。

 明確に自分の配下の名が出た事でソフィは、この者達がエヴィと共に行動していたのだと確信するのだった。

「どうやらその様子だと、お主らはエヴィの行方を知っているのだな? それであやつは今何処に居る?」

 ――次の瞬間。

 元『予備群』のウガマは、目の前の大魔王ソフィの厳かな威圧に圧倒されてしまい、ふらふらと眩暈を起こした時のように身体がいう事をきかずに後ろへとそのまま倒れそうになってしまった。

「ウガマ殿、大丈夫か!?」

「い、いきなり、ど、どうなされたというのだ!」

 慌てて後ろに居た退魔士数人が、目の前の倒れそうになっているウガマという大男の身体を必死に支えてやるのだった。

 別にソフィは天狗達と戦っていた時のような『殺意』の視線をウガマに向けたわけでもなく、言葉を荒げたり怒鳴ったりしたりということもなく、淡々に無表情のままで喋ったに過ぎない。

 だからこそ直接向かい合って尋ねられたウガマ以外には、突然ウガマの身に何が起きたのか分からずに、いきなり倒れそうになったウガマを心配したのであった。

「落ち着けソフィ。てめぇがエヴィの野郎を心配する気持ちは分かるが、それ以上そんな雑魚共にとって殺意じみている圧力を向け続ければ死んじまうぞ。忘れんな、お前は大魔王ソフィなんだよ。誰もがてめぇの気勢にすんなりついていける者達だとは思うな」

「むっ……! すまぬ」

 同じ大魔王を冠するヌーの言葉に、前のめりになっていた部分を是正するようにウガマに謝罪をするソフィであった。 

「あ、いや……、あ、あれ……?」

 気が付けばウガマは、仲間達に支えてもらわなくては自分の力だけで立てないという事にようやく気付いた様子であった。

 大魔王ソフィは普段通りに会話をしていたつもりだった。しかしそれはあくまでつもりなだけであり、先程までとは明確に纏う空気が異なっていたようである。

 それでもその事に彼自身が気づけなかったのは、この世界でもこれまでシゲンやミスズ、それにキョウカやスオウ達の前でも同様に接していて何も問題がなかったからに他ならない。

 しかしそれはあくまで彼らや彼女達もまた、このウガマのような元予備群程度の器に収まらぬ気概を保有しているからであり、この今のソフィはヌーの言う通り、迫られてしまえばまともに受け答えを行える状況になくなるという状態のようであった。

(そ、そりゃ、あの天狗共をたった一人で何とかしちまうような奴なんだから、ある程度は仕方ないんだろうが、し、しかし戦ってもいねぇのにこのザマか……。間違ってもこの御方の機嫌を損ねてイダラマ様まで狙われるような真似だけは絶対に避けねぇと……!)

 ――天狗族をあっさりと消滅させた『大魔王』の重圧を目の当たりにして、あらためてアコウへの誓いを思い出すウガマであった。
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