1,857 / 1,985
妖魔山編
1840.すでにこの世から居なくなっていると思われていた者
しおりを挟む
イダラマが気を失っている間に、ウガマは自身が妖魔山の中で体験してきた出来事をこの場に居る両組織の者達に伝え終えた。
途中でシゲンからの質問で中断されたウガマの話だったが、再開された後の内容があまりにも衝撃的な話であった為に、話し終えてから少しの間、誰もがウガマに質問を投げる事もなく静かに時が過ぎていった。
やがてこの空気を作り出したウガマが、この場で再度口を開いた事で時は動き出した。
「それで、アンタがゲンロク殿だな……?」
「あ、ああ……」
「これをアンタに見せて渡してやれば、イダラマ様や俺達を山の麓まで安全に送り届けてくれるとシギン殿に言われてな」
そう言ってシギンから預かっていた『呪符』をゲンロクに渡すと、ゲンロクは目を丸くして驚きの声をあげるのだった。
「こ、この呪符の特徴的な文言列は……!!」
「げ、ゲンロク……! 間違いなくこれはシギン様のものだぞ!」
ゲンロクとエイジは戦慄したような表情を浮かべながらそう言った。どうやらシギンが言っていた事は間違いなかったようで、一目見ただけで直ぐにシギンのもので間違いないとばかりに信用してくれた様子であった。
確かに呪符には何やら血のように赤い色で描かれた文字が並んではいるようだが、それをウガマやイダラマの護衛の退魔士達が見た時は他の呪符と何が違うのか分からなかった。
しかしシギンが長を務めていた妖魔召士時代に在籍していたこの退魔士二人は、見慣れた馴染みのある呪符だったようだ。
「そ、それでシギン様は今何処に居るのだ!? 何故これをお主に渡してイダラマや主達を麓へ案内するようにだけ伝えて、直接ワシに会いに来てくれぬのだ!!」
呆然と呪符を眺めていたゲンロクが、突然豹変したかのように大声をあげながらウガマに問い質し始める。
「ゲンロク、落ち着け! ここにはソフィ殿やシゲン殿達も居るのだぞ!」
「ええいっ、やかましい!! お主には分からぬか! シ、シギン様が生きて……、生きてこやつらの前に姿を現したというのじゃぞ! 何故そのように落ち着いていられるのだ!!」
――数々の伝説を残してきた最強の妖魔召士シギンは、すでに組織では死んだものとして扱われている。
それがまさか、今この時になって再び現世に現れたというのだから、当時共に寝食を共にした妖魔召士、それも自分を次代の組織の長へと認めて精一杯推し上げてくれた恩人でもあるのだ。
そしてそれだけではなく、ゲンロクは自分だけがあの妖魔山の調査の後、シギンの姿を見る事が出来なかったのだ。
サイヨウやコウエンそれにノマザルにイッテツと、あの調査では彼と最後の挨拶を交わしていたというのに、自分だけが九尾の妖狐の『魔力』に勝手に当てられて意識を失い、そしてそんな自分を慮って山の調査を切り上げてまで心配をさせた挙句、謝罪や礼の一つも言えぬまま今日まで一度も会う事が出来なかったのである。
そのシギンが生きていて、再びこの山で姿を見せたというのだから当時の事を今でも強く覚えているゲンロクがここまで取り乱すのも、ある意味で理解が出来るというものであった。
「シギン殿は途中まで……、天狗達が自分達の縄張りに大勢集結し始めていた頃までは共に居たんですよ。その時までは我々を山の麓までシギン殿が案内してくれるつもりのようだったんです――」
取り乱したゲンロクを見たウガマは、諫めるつもりになったのか、ゲンロクに語りかけるように少しだけ大きめの声で説明を始めた。
「でも、そこに居られるアンタが天狗族と戦い始めた辺りから、しきりに山の頂のある方角を見つめ始めて、そしてアンタと天狗族達との決着が付く前に、俺にはやるべき事が出来たと突然に申されて、それで俺達にこの呪符をゲンロク殿に見せろと告げて、そのまま唐突に居なくなってしまったんです……」
「山の頂の方角……か。それはつまり、この山を統括する『妖魔』の存在が居たからなのかもしれんな」
それまで黙って聞いていたシゲンが再び口を挟むのだった。
すでに『妖魔神』の『神斗』や『悟獄丸』の事はウガマからの説明を受けて知っている。
どうやら片割れの方の『悟獄丸』は話の中でシギンに倒されたらしいが、まだもう片方の妖魔神とやらが生きているのだとすれば、仲間をやられた報復に動き出したという事かもしれない。
それをいち早く感じ取ったシギンが、他の者達を守る為にそちらへ向かったというのは十分に考えられる内容だとシゲンは思ったようであった。
途中でシゲンからの質問で中断されたウガマの話だったが、再開された後の内容があまりにも衝撃的な話であった為に、話し終えてから少しの間、誰もがウガマに質問を投げる事もなく静かに時が過ぎていった。
やがてこの空気を作り出したウガマが、この場で再度口を開いた事で時は動き出した。
「それで、アンタがゲンロク殿だな……?」
「あ、ああ……」
「これをアンタに見せて渡してやれば、イダラマ様や俺達を山の麓まで安全に送り届けてくれるとシギン殿に言われてな」
そう言ってシギンから預かっていた『呪符』をゲンロクに渡すと、ゲンロクは目を丸くして驚きの声をあげるのだった。
「こ、この呪符の特徴的な文言列は……!!」
「げ、ゲンロク……! 間違いなくこれはシギン様のものだぞ!」
ゲンロクとエイジは戦慄したような表情を浮かべながらそう言った。どうやらシギンが言っていた事は間違いなかったようで、一目見ただけで直ぐにシギンのもので間違いないとばかりに信用してくれた様子であった。
確かに呪符には何やら血のように赤い色で描かれた文字が並んではいるようだが、それをウガマやイダラマの護衛の退魔士達が見た時は他の呪符と何が違うのか分からなかった。
しかしシギンが長を務めていた妖魔召士時代に在籍していたこの退魔士二人は、見慣れた馴染みのある呪符だったようだ。
「そ、それでシギン様は今何処に居るのだ!? 何故これをお主に渡してイダラマや主達を麓へ案内するようにだけ伝えて、直接ワシに会いに来てくれぬのだ!!」
呆然と呪符を眺めていたゲンロクが、突然豹変したかのように大声をあげながらウガマに問い質し始める。
「ゲンロク、落ち着け! ここにはソフィ殿やシゲン殿達も居るのだぞ!」
「ええいっ、やかましい!! お主には分からぬか! シ、シギン様が生きて……、生きてこやつらの前に姿を現したというのじゃぞ! 何故そのように落ち着いていられるのだ!!」
――数々の伝説を残してきた最強の妖魔召士シギンは、すでに組織では死んだものとして扱われている。
それがまさか、今この時になって再び現世に現れたというのだから、当時共に寝食を共にした妖魔召士、それも自分を次代の組織の長へと認めて精一杯推し上げてくれた恩人でもあるのだ。
そしてそれだけではなく、ゲンロクは自分だけがあの妖魔山の調査の後、シギンの姿を見る事が出来なかったのだ。
サイヨウやコウエンそれにノマザルにイッテツと、あの調査では彼と最後の挨拶を交わしていたというのに、自分だけが九尾の妖狐の『魔力』に勝手に当てられて意識を失い、そしてそんな自分を慮って山の調査を切り上げてまで心配をさせた挙句、謝罪や礼の一つも言えぬまま今日まで一度も会う事が出来なかったのである。
そのシギンが生きていて、再びこの山で姿を見せたというのだから当時の事を今でも強く覚えているゲンロクがここまで取り乱すのも、ある意味で理解が出来るというものであった。
「シギン殿は途中まで……、天狗達が自分達の縄張りに大勢集結し始めていた頃までは共に居たんですよ。その時までは我々を山の麓までシギン殿が案内してくれるつもりのようだったんです――」
取り乱したゲンロクを見たウガマは、諫めるつもりになったのか、ゲンロクに語りかけるように少しだけ大きめの声で説明を始めた。
「でも、そこに居られるアンタが天狗族と戦い始めた辺りから、しきりに山の頂のある方角を見つめ始めて、そしてアンタと天狗族達との決着が付く前に、俺にはやるべき事が出来たと突然に申されて、それで俺達にこの呪符をゲンロク殿に見せろと告げて、そのまま唐突に居なくなってしまったんです……」
「山の頂の方角……か。それはつまり、この山を統括する『妖魔』の存在が居たからなのかもしれんな」
それまで黙って聞いていたシゲンが再び口を挟むのだった。
すでに『妖魔神』の『神斗』や『悟獄丸』の事はウガマからの説明を受けて知っている。
どうやら片割れの方の『悟獄丸』は話の中でシギンに倒されたらしいが、まだもう片方の妖魔神とやらが生きているのだとすれば、仲間をやられた報復に動き出したという事かもしれない。
それをいち早く感じ取ったシギンが、他の者達を守る為にそちらへ向かったというのは十分に考えられる内容だとシゲンは思ったようであった。
10
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる