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妖魔山編

1839.イダラマの禁術と目的への疑問

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「ではお前達……というか、イダラマ殿の目的は妖魔山に居るという『妖魔神』を禁術を用いて従える事だったというのか?」

 この場に現れた元『予備群よびぐん』のウガマから事情を説明されていたソフィ達だったが、話がイダラマの事に移行した瞬間に妖魔退魔師側のシゲンがそう尋ねるのだった。

「は、はい……。イダラマ様は人里に襲いに来る妖魔の脅威から民達を守るのも目的の一つだと言っておりましたから、その手段として『妖魔神』を従えようとしていたのだと思います」

(コウヒョウの町で直接イダラマ殿と会話を交わした時、ただ単に妖魔召士側の弱みを突くようにと進言しにきただけではないだろうとは思っていたが、それでもそんな大それた目的を抱いてあの場に居たようには感じられなかった。山の管理権を一時的にでもうちへと渡す事が決まれば、確かに妖魔召士側の山の麓の見張りは手薄になる。しかしあくまでそれだけの為に危険を冒してまで、我々妖魔退魔師の総本山と呼べるコウヒョウまで伝えに来たとすれば、イダラマ殿の中では相当の覚悟で従えようと臨んでいたのだろうな。イダラマ殿も中々に大した男だったようだな……)

「馬鹿げた話じゃ……。確かに禁術で自分の力量より上の高ランクと呼ばれる妖魔達を『式』にしたという前例はあるにはあるが、それにしてもイダラマは『妖魔神』を相手に通じると本気で思っておったのじゃろうか? 如何にイダラマが優れた妖魔召士であろうとも分相応という言葉がある。ワシとそれほど変わらぬ『魔力』しかないであろうに……」

 ウガマは当然に『退魔士』ではなく、この場に居るイダラマの護衛達も『退魔士』ではあるが『妖魔召士』というわけではない。

 もしこの場でイダラマが目を覚ましていれば、彼自身がゲンロクに『私の術はこれまでの禁術とはワケが違う』とこの場で反論していたかもしれないが、その本人が相当の『魔力枯渇』を引き起こして意識を失っている為、この場に居る者達はゲンロクの言葉に頷く他にないと思われたが、しかし――。

「いやゲンロクよ、その結論を出すのは少々早計かもしれぬぞ」

 何とイダラマの肩を持つような言葉が、同じ妖魔召士であるエイジの口から吐かれるのだった。

「何じゃと? どういう事だエイジよ」

「お前も山の中腹で天狗達の会話を聞いていただろう? あの天魔の女天狗とその右腕と思わしき指揮官らしき天狗の会話だ」

「天狗達の会話……? あ、ああ!」

 ゲンロクは一瞬何の事か分からなかったが、エイジが『天魔』と口にした瞬間に、あの時ソフィが大暴れをしている最中の出来事の話なのだと思い当たった様子であった。

「あの時、あの女天狗ていらくち華親かしんと呼んでいた別の天狗の指揮官にソフィ殿を前にして『あの人間の命令の範疇に留めておけぬ、呑気に足止めなど考えずに殺してしまえ』といったような内容の事を口にしていただろう?」

「確かに。その後に複数居る大きな『魔力』を持った幹部と思われる『天狗』達に、直ぐに襲うようにとばかりに指示を出しておったな」

 ゲンロクは左手で頭に触れながら、当時の事を思い出しながら口にするのだった。

「その通りだ。そしてここ最近で妖魔山に小生達以外に登った者といえば、イダラマや目の前の彼たちで間違いないだろう。つまりあの『天魔』と呼ばれていた女天狗をイダラマは実際に『式』にして見せたという事だ」

「ば、馬鹿な……! さ、三大妖魔の『天狗族』を束ねる『天魔』をイダラマが『式』に出来るわけが……っ!」

 ゲンロクは何とかしてその可能性を失くそうと必死に言葉を連ねようとするが、明確に否定が行える材料を口に出せず、そのまま言葉を途切れさせてしまうのだった。

「どうだ? とは言い切れぬだろう? コウエン殿や前時代の方々もこのイダラマに対して、何らかの希望を抱いたからこそ、この妖魔山でイダラマと行動を共にしようと決めたのではないか?」

 ただの推測に過ぎないエイジの言葉だったが、何故あのコウエンがイダラマと結託したのか、そしてそのイダラマがコウヒョウの町という妖魔退魔師組織へ単身で乗り込み、妖魔山に入るキッカケを作る程に自信を抱いていたかなど、一つ一つは信憑性に欠ける単なる可能性に過ぎない話が現実味を帯びてくるのだった。

「はっ!?」

 そしてそこでコウエンの名が出た事でゲンロクは、そういえばコウエン殿はどうなったのだろうかと再び視線をウガマに向け始めるのだった。

「こ、コウエン殿は、我々が山の頂から戻ってきた時にはすでに事切れていた……。やったのは九つの尾を持つ妖狐だと思われる……」

 その言葉にその場に居る全員が、ウガマの顔に視線を向けるのだった。

「どうやら色々と複雑なようだな……。話の腰を折ってしまってすまなかったな、続きを聞かせて欲しい」

「は、はい!」

 シゲンに話の続きを促されたウガマは、妖魔山で起きた出来事を再び話し始めるのであった。

 ……
 ……
 ……
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