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妖魔山編

1838.演技と思えぬ殺気

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「族長、お話中に失礼致します。入ってもよろしいでしょうか?」

 扉を叩く控えめなノックの後にそう告げる声が聴こえてきた。どうやら玉稿の命令通りに集落を訪ねてきた人間達をここに連れてきたのだろう。

「ああ、構わない。入ってくれ」

 玉稿の許可を得た鬼人が扉を開けて入ってくる。

「ん……?」

「この方は確か……」

「あやつは!?」

 鬼人族の後に部屋に入ってきた数人の人間を見るなり、妖魔召士側の組織だけではなく、シゲンやミスズといった妖魔退魔師組織側の人間も口々に反応を示すのだった。

 シゲンやミスズ達は先頭で入ってきた『ウガマ』という大男を見てピンときた様子だったが、ゲンロクやエイジといった者達はウガマの姿を見ても何も反応を示さなかったが、その背に背負っている赤い狩衣を着た男を見た瞬間にシゲン達が示したものより大きく反応をして声を上げたのだった。

 当然同じ妖魔召士なのだから、赤い狩衣を着ている男に視線を奪われる事は仕方のない事だったが、ゲンロクまでもが大きな声を上げた理由には、その意識を失って気絶している妖魔召士が『イダラマ』だったからに他ならない。

 そしてゲンロクの反応を見た後、シゲンもウガマから視線を後ろへと向けて『イダラマ』をその両目で捉え始めると、直ぐに副総長であるミスズを一瞥する。

「ミスズ」

「はっ!」

 そしてシゲンがその副総長の名を呟くと同時、まるでシゲンと意思そのものを共有していたかの如く、直ぐにミスズはやるべき事を果たし始めて、ウガマ達の退路を断つかのように一瞬の内に入り口へと移動するのだった。

 勿論、直接に声を掛けられたミスズ以外にも、妖魔退魔師側の最高幹部達もすでに各々が得物に手を伸ばしており、この場でウガマ達が何かをする前に取り押さえる事を可能とする状態を整え終えるのだった。

「ま、待ってくれ! 俺達はアンタらに話があってきただけだ! 争うつもりなんて毛頭ないぞ!」

 どうやらウガマも部屋の空気が一変した事にいち早く気づいた様子であり、このままではまずいと判断したのだろう。挨拶もまだだというのに、直ぐにその場で先に弁明をし始めるのだった。

「今更何が話ですか……。よくも我々妖魔退魔師組織を相手に舐めた真似をして下さいましたね。おかげでここまで色々と苦労をさせられましたよ」

 副総長のミスズがそう口にすると、恐ろしい殺気をウガマ達に放ち始めた。

 もちろんミスズもこのまま彼らを気絶させるつもりはなく、ある意味で脅しの意味での殺気ではあったが、それでもウガマのような『予備群よびぐん』だからこそ、耐えられる程のものであり、その周囲に居る退魔士達は今にも崩れ落ちそうなほどに疲弊していて、何とか必死に意識が落ちるのを耐えているといった様子であった。

「そ、それは本当に申し訳ない! 我々が『妖魔山』へと入る為にはどうしても貴方がたの組織を利用しなければ達する事が出来なかったのだ!」

 ミスズはウガマに喋らせるためのシゲンへのお膳立てを済ませると、出していた殺気を止めて視線そのものもシゲンへと送る。

 ひとまずはこれで彼らも本音で喋らざるを得ないだろう。このウガマの慌てふためく姿が演技でミスズの殺気を受けて尚、隠し事をしっかりと出来ているというのであれば、もはやそれは一介の『予備群』ではない事になってしまう。

 ――ミスズは本気ではなくとも間違いなく、それだけの殺気をこの場で放っていたのだから。

「ひとまず何を企んでいたのか、目論みをこの場で全て吐いてもらおう。お前達の話とやらはそれを聞いてからだ」

「わ、分かった! す、全てを包み隠さずに話すから、そ、そこの副総長の殺気と、組長方達の武器にあてられている手を下ろすように告げてもらいたい! こ、この者達がこのままでは泡を吹いて倒れてしまう!」

 すでに退魔士達の意識が朦朧とし始めた時点で、ミスズの殺気は止められていたが、その事にウガマは慌てていてまだ気づいていない様子であった。

「分かった。お前達、手を下ろせ」

 総長シゲンの命令にスオウ達は、抜刀の構えを解いて素直に手を下ろすのだった。

 実際に抜くつもりはない組長達だったが、ミスズとシゲンのやり取りで直ぐにこれは本音を吐かせる為の演技なのだと気づいて最後までミスズ達に付き合った形であった。

 傍から見ていたソフィやヌー達は直ぐにこれが演技だと気づいたが、仕掛けられた張本人たちに気付けと言うにはあまりにも酷な程に真実味を帯びた芝居だと言えただろう。

 そして鬼人族の玉稿は、ここからは彼らの問題だろうとばかりに空気を読んでソフィを一瞥し、直ぐに返ってきた彼の頷きを確認した後、何も言わずに部屋を出ていくのだった。

 この場に残されたのがソフィ達だけとなり、イダラマが目を覚ます前にこれまでの真相を話し始めるウガマであった。

 ……
 ……
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