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妖魔山編
1828.それは特異かはたまた
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(駄目だ……。もう『空間歪曲』すら対抗手段を用いる必要性を感じられなくなった。あの奴の新たに繰り出した『空間魔法』を解除出来るだけの時間も魔力も足りぬな。効力そのものを理解してはいないが、あれはどうやら奴自身を洞穴に縛り付けた要因となったもので間違いないだろう。もう『空間歪曲』をどうにかしたところで、あの『空間魔法』を用いられてしまえば、全てが水泡に帰すという事が理解出来てしまった。ならば……、俺が最後に出来る事は……――!)
シギンは煌阿が発動させた『隔絶空地入法』の影響を受ける直前、自身が空間内に大切に保管していた『存在』をこことは別の場所で『次元の狭間』の外側へと放り出してみせるのだった。
(未だに奴は目を覚まして居らず、今も『特異』を展開している最中にあるが故に、目を覚ますまでは入れておこうと思っていたが、もうこのままではそれも叶わなくなるだろう。あれは間違いなく『封印』技法の類だ……)
これより『魔』の概念の一切が使えなくなるだろうと判断したシギンは、残されている時間で最後に自身がする事を自衛ではなく、エヴィを一緒に封印されてしまわぬように、妖魔山の頂の神斗の建てた小屋周辺に向けて保管している空間から放り出すのだった。
間一髪エヴィを巻き込まずにすんだシギンだが、次の瞬間にはもう煌阿の封印技法によって『魔』そのものを封じられてしまうのだった。
「そこで大人しく見ているがいい、卜部の血を引き継ぐ人間よ」
そう言って『魔』の技法の一切を使えなくなったシギンに手を翳すと、無詠唱で何かを発動させる。
――それはシギンが使っていた赤い真四角の『結界』だった。
どうやらその場から逃げられないように、動きを封じる目的で放ったのだろう。
『隔絶空地入法』は、あくまで『魔』の技法を細分化していくつもの箇所に封じるという効力しかない為、シギンが『魔』に頼らずに走ってこの場から離れようとすれば容易にそれが出来てしまうが故に、今度は身動きがとれないように『結界』を用いて抜け出せないようにして閉じ込めたようであった。
「それは私の術か……。どうやらこの『結界』にしてもそうだが、お前は一度自身で味わった『魔』の技法を自分のものに出来るようだな」
閉じ込められた挙句に『魔』を封じられたシギンだが、冷静さを失わずに先程までと同じ態度のままで、煌阿にそう尋ねるのだった。
「ああ、お前の察する通りだ。別に俺が『結界術』や『封印技法』の知識や心得があったわけじゃないが、物心ついた頃から何故か、相手の使う『魔』を直接受けた後は、そういうモノなのだと理解した上で俺も扱えるようになった。だが、仕組みそのものを理解しているわけではないゆえ、一度発動させたら後はもう解除の仕方も存ぜぬがな」
「なるほど……」
質問を行ったシギンは煌阿の返答に頷くと、静かに思案顔を浮かべ始めた。どうやら彼の中で新たな『魔』に対する疑問が生まれてしまった瞬間のようだった。
(どうやら本人すら『理』や理論的な答えを出せはしないが、そうあるものなのだと思い込む事で使用が可能となるわけだ。これは当然に先天性のものだろうが、これが奴の『特異』なのか? いや、まだ結論を出せる証拠などは何もないが、確かに見た感じでは紛う事なく俺の術と変わりがない。そして先程から試そうにも『空間魔法』はおろか『魔瞳』や『オーラ』すら発動しない。どうやら『魔力』そのものは体内に残されているようだが、技法に関してのみ確実に使用が出来ないようにされてしまっているな」
シギンは閉じ込められた『結界』の内側で色々と試そうとしたが、その全てが使用出来ない事を改めて理解して深く溜息を吐くのだった。
「まぁ、お前は後で俺が長きに渡って過ごした大変居心地のいい城に連れて行ってやるさ。ひとまずそこで大人しく俺のやる事を見ているがいい」
煌阿は厭味な笑みを浮かべてそう告げると、踵を返して神斗の方へと向かっていった。
シギンは煌阿が発動させた『隔絶空地入法』の影響を受ける直前、自身が空間内に大切に保管していた『存在』をこことは別の場所で『次元の狭間』の外側へと放り出してみせるのだった。
(未だに奴は目を覚まして居らず、今も『特異』を展開している最中にあるが故に、目を覚ますまでは入れておこうと思っていたが、もうこのままではそれも叶わなくなるだろう。あれは間違いなく『封印』技法の類だ……)
これより『魔』の概念の一切が使えなくなるだろうと判断したシギンは、残されている時間で最後に自身がする事を自衛ではなく、エヴィを一緒に封印されてしまわぬように、妖魔山の頂の神斗の建てた小屋周辺に向けて保管している空間から放り出すのだった。
間一髪エヴィを巻き込まずにすんだシギンだが、次の瞬間にはもう煌阿の封印技法によって『魔』そのものを封じられてしまうのだった。
「そこで大人しく見ているがいい、卜部の血を引き継ぐ人間よ」
そう言って『魔』の技法の一切を使えなくなったシギンに手を翳すと、無詠唱で何かを発動させる。
――それはシギンが使っていた赤い真四角の『結界』だった。
どうやらその場から逃げられないように、動きを封じる目的で放ったのだろう。
『隔絶空地入法』は、あくまで『魔』の技法を細分化していくつもの箇所に封じるという効力しかない為、シギンが『魔』に頼らずに走ってこの場から離れようとすれば容易にそれが出来てしまうが故に、今度は身動きがとれないように『結界』を用いて抜け出せないようにして閉じ込めたようであった。
「それは私の術か……。どうやらこの『結界』にしてもそうだが、お前は一度自身で味わった『魔』の技法を自分のものに出来るようだな」
閉じ込められた挙句に『魔』を封じられたシギンだが、冷静さを失わずに先程までと同じ態度のままで、煌阿にそう尋ねるのだった。
「ああ、お前の察する通りだ。別に俺が『結界術』や『封印技法』の知識や心得があったわけじゃないが、物心ついた頃から何故か、相手の使う『魔』を直接受けた後は、そういうモノなのだと理解した上で俺も扱えるようになった。だが、仕組みそのものを理解しているわけではないゆえ、一度発動させたら後はもう解除の仕方も存ぜぬがな」
「なるほど……」
質問を行ったシギンは煌阿の返答に頷くと、静かに思案顔を浮かべ始めた。どうやら彼の中で新たな『魔』に対する疑問が生まれてしまった瞬間のようだった。
(どうやら本人すら『理』や理論的な答えを出せはしないが、そうあるものなのだと思い込む事で使用が可能となるわけだ。これは当然に先天性のものだろうが、これが奴の『特異』なのか? いや、まだ結論を出せる証拠などは何もないが、確かに見た感じでは紛う事なく俺の術と変わりがない。そして先程から試そうにも『空間魔法』はおろか『魔瞳』や『オーラ』すら発動しない。どうやら『魔力』そのものは体内に残されているようだが、技法に関してのみ確実に使用が出来ないようにされてしまっているな」
シギンは閉じ込められた『結界』の内側で色々と試そうとしたが、その全てが使用出来ない事を改めて理解して深く溜息を吐くのだった。
「まぁ、お前は後で俺が長きに渡って過ごした大変居心地のいい城に連れて行ってやるさ。ひとまずそこで大人しく俺のやる事を見ているがいい」
煌阿は厭味な笑みを浮かべてそう告げると、踵を返して神斗の方へと向かっていった。
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