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妖魔山編

1822.腑に落ちない事

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 次元の狭間から姿を見せたシギンは、見慣れた妖魔山の景色を見渡しながら先程までの戦闘を思い返していた。

(一度目に『もう』の解除を行われた時のように、煌阿の奴はまだ『空間』を抜け出す何らかの手立てを用意しているものだと警戒していたのだが……)

「意外にもあっけないものだったな」

 小さく溜息を吐いたシギンは先程まで有った『次元の狭間』の場所を振り返りながら、勝負の結論を出すように独り言ちるのだった。

(いや、これは奴自身が『精神体』であったこその結果という事なのかもしれないな。あの鬼人族の身体に対して奴の『魔力』の観点から十分に適合出来ているとは到底思えなかった。身体を吟味して奴自身が選んだというより、背に腹は代えられずに仕方なく利用していたようにみえた)

 これは妖魔に限らずにあらゆる種族に対してもあてはまる話であるが、誰もが最初から膨大な『魔力』を有して生まれてくるわけではない。

 当然に天性の贈り物である『金色の体現者』と呼ばれる存在や、元々から『魔力』の適正を抱いて生まれてくる者もいるだろうが、それでも生まれた時から今のシギンのような『魔力』を持って生まれてくるわけではない。

 誰もが生まれた時に抱いている身体とその身体に宿る魂が、少しずつ五感や感情といった、その生物に必要な要素を形成をさせて生きていく為の力を自己で育んで成長していくのである。

 当然に本人の持っていた本来の身体で研鑽を積んで、少しずつ高めた『魔力値』や『戦力値』というものは、その身体に適応させて増やしていたのだから、全く違う身体に乗り移ればそこには十全の『力』が宿る筈がない。

 もちろんそれは『魔力』だけに留まらず、その本来の身体で育んできた全ての要素にいえる事である。

 魔族の『代替身体だいたいしんたい』という、当時は非常に画期的といえた『魔』の技法もまた、この理論に対して準拠していると言っても過言ではない。

 しかしこちらの場合は、それを除いても『魔』の技法として確立させる上で十分の一にするものと『魔』の技法としての制約が生じている為に、どれだけその魔族が次の身体にいくら適応していても制約が優先されるが故に、こちらも十分の一になる事に間違いない。

 つまり現代においては魔族の『代替身体』や、この煌阿の精神体の乗っ取りであっても、いくら魂が得ている強さの情報を理解していたとしても、それをなじませる身体が研鑽を積んだ時の本来の身体ではない以上は、全てが完璧につかいこなせるというわけではないのである。

 魂を新たな身体に宿らせる事が出来るとしたら、それはその新たな身体で一から形成させていくまでの過程における効率性を上げる事に限られるだろう。

 ――そしてシギンが精神体であった煌阿に対して、鬼人族の身体を乗っ取った事により、本来の力を十全に出せていなかったからこそ、ああいう結果になったのだろうと強引に結論を出したというわけである。

(しかしそれでも……、腑に落ちない事はまだある。俺がかつて精神体であった頃に初めて感じた奴の『魔力』はあの当時の妖狐より遥かに上だった筈だ。あの頃の精神体より、鬼人族の身体に適正がなかったのだとしても、それでもこの程度で本当に勝負がつくだろうか? 煌阿自身が戦ったと口にしていた『卜部官兵衛』という俺の祖先は、奴を消滅させられぬと踏んで封じ込めたのだとしたら、あまりにも……)

「――いや、そもそもが精神体だけの状態で数百年も封じられたとしたら、卜部官兵衛と直接戦った当時よりも煌阿が弱体化していて当然と言えるか?」

 確かに一瞬だけ『魔力』の数値を高めるだけであれば、戦闘に使えずとも本来の持つ『魔力値』まではコントロールさせて再現も可能なのかもしれない。

 実戦で使えない以上は、何の意味もない事だが――。

(あの時に感じた奴の『魔力』は、封じられている『結界』の内側から外へと『魔力』だけを通す事が可能かどうかを試す『透過』の魔力干渉領域の実験を行っていたと判断出来るが、確かにそれだけならば、当時の精神体ではない本来の身体の時の『魔力』を魂の持つ情報から再現は出来ていたのかもしれないな)

 シギンはあっさりと葬る事が出来た事に納得が出来ない様子だったが、結局は最後は煌阿が本来の身体ではなかったからこそ、あんなにもあっさりと葬れたのだろうと強引に結論を出したのだった。
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