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妖魔山編
1805.最後にシギンがサイヨウに託したもの
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「それでシギン様、小生に頼みたい事とは一体……?」
シギンがノマザル達『四天王』との挨拶を終えた後、自分だけを外へと連れ出した理由を尋ねるのだった。
「ああ……。まずはお前にこれを預けておこうと思ってな」
そう言ってシギンが手の平を空に向けると同時、空間に亀裂が入り、闇のように暗いその穴の中から何やら見た事もない小さな球体をいくつか取り出し始めるのだった。
「これは……?」
その謎の球体をシギンから手渡されたサイヨウは、何やら刻印が刻まれた不思議な球体を空に翳しながら眺め始める。
「それは妖魔召士組織の長になった者だけに、管理が許される『転置宝玉』と呼ばれる物だ」
「は!?」
薄明るくなった空に翳しながら眺めていたサイヨウは、その言葉を聴いて落としそうになった『転置宝玉』を慌てて両手でしっかりと掴み直すのだった。
「本来は次代の長が決まるまでは俺が管理しておかなくてはならぬものなのだが、下手をすれば俺はもう戻る事が出来るかすら分からぬ。今の内にゲンロクに渡しておいてもいいかとも考えたが、あんな調子になっているあやつに預けるというのも少し考えものだ。そこであやつの心のケアを頼むついでに、お前にこれを渡しておこうと思ったのだ」
そう話すシギンに色々と尋ねたい事が出来たサイヨウだったが、今はシギンの言葉をしっかりと聞く事が大事だと考えて口を閉じて、しっかりとシギンの言葉に耳を傾ける。
「その『転置宝玉』は、代々組織の長となるものが管理を任されるのだそうだが、俺は一度それを使ってみようと考えた事があったのだが、その玉に『魔力』を宿らせる直前に、その玉の効力が何を意味するかが俺の脳内に浮かび上がったのでな、使う事を止めたのだ」
組織の長となるものに代々継がれてきたと聞いたサイヨウは、よくもそんな恐ろしいものを使う気になったものだと半ば呆れたが、そこはシギン様だから仕方ないかと無理やり納得させたサイヨウだった。
「そ、それで、どのような情景が浮かび上がったのですか?」
どうせならばその先の事も聞いておこうと考えたサイヨウだが、やはりそう考える彼も『魔』の概念に魅了されているだけはあるようで、興味深々といった様子がシギンにも伝わり、彼はサイヨウを見て笑みを浮かべるのだった。
「どうやらその『転置宝玉』は、俺の『空間魔法』と同じように現在地点から観測の行えない別次元へと強引に対象者を移動させられるという効力のようだ。発動の寸前に何処か懐かしさのようなものを感じられたのも、やはり俺が『空間』を司る『魔』の概念技法をすでに得ていたからであろうな」
その感覚を知っていたからこそ、効力が発揮される寸前に使用を取りやめて、どういったモノかを理解出来たと口にするシギンであった。
「シギン様と同じ『空間』を司る事が出来る玉ですか……!」
その言葉に驚き顔こそ浮かべるサイヨウだが、まさかと疑うような真似はしなかった。
何故ならすでにシギンがそういった『魔』の技法を会得しており、自身も何度かその『空間魔法』の効力に身を任せた事もあるからである。
あの『妖魔山』の『禁止区域』付近から、一瞬で山の麓まで戻ってこられたのもシギンの『空間魔法』である。
すでに事象というものを体験している以上は、転置宝玉がその『空間』を司る代物だと説明されて信じない筈がないサイヨウであった。
そしてこの時にサイヨウは、少しだけ邪な気持ちを抱く事となった。
――それはこの『転置宝玉』を使ってみたいという感情である。
サイヨウという人間は、この『妖魔召士』組織の全妖魔召士の中でもシギンに次ぐ『魔』の理解者である。
すでに『空間魔法』という『魔』の概念を除けば、成人を迎える前のシギンと同等かそれ以上の強さも有している状態である。
妖魔ランクという妖魔に対する評価の価値をつけるモノではあるが、それを彼に当てはめればすでに妖魔ランクは『9』に達しているだろう。
『魔』の概念の理解に関してはシギンに次ぐ程の理解者であり、その実力も現時点で妖魔ランクは『9』以上。
そんな『魔』に対して、シギンに勝るとも劣らない程の興味を注いでいる彼が、目の前の『転置宝玉』に興味を示さない筈もなく、また届き得ないと半ば諦めていたシギンの『空間魔法』に対する得たいという欲に関しても『転置宝玉』から何かを知る事が出来るかもしれないと理解に至った事により、彼はどんどんと『転置宝玉』に対しての抑えきれない欲望が募っていく。
(ふふっ、やはり予想通りの結果になったな。これでこいつは遅かれ早かれ『転置宝玉』を必ず使うだろう。どういった結果を齎すかが実に楽しみだ。俺も当分は死ぬわけにはいかなくなったな)
どうやらサイヨウに頼み事があるというのは方便であり、サイヨウ自身に『転置宝玉』を使いたいと思わせる事が本当の狙いだった様子であった。
そしてその真意の先にあるものは、サイヨウに『空間魔法』を使わせられるようしてやりたいという、シギンなりのサイヨウに対する親切心のようなものであった。
いや、親切心という事では生温いだろう。それはもう親愛の情と呼べるものだったかもしれない。
すでに何度かシギンは、サイヨウに対して『空間魔法』に対する座学的な概念の話を行い、どういったものかを伝え終えてはいる。
サイヨウは真摯に耳を傾けて、何とか使えるようになりたいと思い描き、サボることなく『空間魔法』に対しての研鑽を続けているのである。
しかしいくら『空間魔法』がどのようなモノで、どのような効力があるのだと理解をしていたとしても、その『魔法』を司る『理』というモノを理解していなければ、どれだけ思い描いても発動を行う事は叶わない。
そして『理』そのものもまた、伝え聞いただけで直ぐに扱えるような簡単なものではない。
特にこの『ノックス』の世界には『理』という概念が存在していないのだ。
だからこそ生まれ持った『魔力』の素質がなければ、捉術すら使えずに『妖魔召士』にすらなる事が出来ないのである。
そしてこのように自分だけしか扱えない『理』に悩んだのは、シギンだけではなく、彼の直系と呼べる先祖である『卜部官兵衛』もまた同じであり、彼の場合は今の時代よりも更に『魔』の技法に対する技術が乏しい時代であった為に、シギンやサイヨウ程までに『魔』の理解者と呼べる者達も育ってはおらず、シギン以上に他者に伝える事が困難である為に、理解が出来ぬのであれば、決してこの事を後世に伝えてはならぬと逆に戒めるように『卜部官兵衛』は言葉を遺したのだった。
中途半端に伝える事で悪い影響を及ぼして、後世に『妖魔召士』の質そのものを低下させる事を恐れた事もその一因を担っているだろう。
シギンや卜部官兵衛の場合ともまた異なるが、この『理』というものを安易に伝えられないという事に思い悩んだ者は別世界の『魔族』にも居た。
――それこそが、この後にサイヨウが向かう事になる『リラリオ』という世界に生きている魔王レアの存在である。
彼女もまた『レパート』という世界から『リラリオ』の世界へと、時魔法である『概念跳躍』を用いて世界間転移を行った。
そのレアはかつての『リラリオ』の世界で、レイズ魔国の女王『エリス』や『リラリオ』の世界に生きる魔族達に『レパート』の『理』を伝えようとしたが、結局はその当時の『リラリオ』の世界で魔王階級に至っていた『エリス』でさえ、新たな『理』を覚えるのに数百年から数千年は掛かるだろうと判断して断念した。
そして当時の『リラリオ』の世界にある『理』を残す為に、魔王レアと敵対する『精霊族』を『空間除外』で世界から存在だけを消させて、その世界に既に存在していた『精霊族』の生み出した『理』だけを残す道を選んだ。
(※331話 違う世界の理と、魔法概念)。
――このように『理』を一から学ぶという事は、決して容易ではない。
――そしてその『理』を無から生み出す事は、覚える事よりもさらに難しいのである。
いくらサイヨウがシギンの『魔』に関しての愛弟子であったとしても、覚える対象が無から生み出された『理』にして、それもさらに難解と言える『空間魔法』である以上は、流石に少しばかり『魔』の天才と呼べるサイヨウであっても、会得が難しいのは当然である。
しかしシギンは『転置宝玉』という『理』を必要としない疑似ではあるが『空間魔法』と同じような効力を持つアイテムを使う事で、サイヨウ程の『魔』の理解者であれば、何かを掴めるかもしれないと考えた。
シギンから見たサイヨウの今の『魔』の理解度であれば、そこに何か一つのきっかけがあれば、あっさりと難解な術式をスラスラと解いていける程だと認めているからに他ならない。
もし、それでも駄目であればもう諦めるしかないが、自分がしてやれることは全てやってやろうとシギンは考えて、自分がまだ妖魔召士の長という立場の内に、管理を任されていた『転置宝玉』をサイヨウに託そうとしたのだった。
シギンがノマザル達『四天王』との挨拶を終えた後、自分だけを外へと連れ出した理由を尋ねるのだった。
「ああ……。まずはお前にこれを預けておこうと思ってな」
そう言ってシギンが手の平を空に向けると同時、空間に亀裂が入り、闇のように暗いその穴の中から何やら見た事もない小さな球体をいくつか取り出し始めるのだった。
「これは……?」
その謎の球体をシギンから手渡されたサイヨウは、何やら刻印が刻まれた不思議な球体を空に翳しながら眺め始める。
「それは妖魔召士組織の長になった者だけに、管理が許される『転置宝玉』と呼ばれる物だ」
「は!?」
薄明るくなった空に翳しながら眺めていたサイヨウは、その言葉を聴いて落としそうになった『転置宝玉』を慌てて両手でしっかりと掴み直すのだった。
「本来は次代の長が決まるまでは俺が管理しておかなくてはならぬものなのだが、下手をすれば俺はもう戻る事が出来るかすら分からぬ。今の内にゲンロクに渡しておいてもいいかとも考えたが、あんな調子になっているあやつに預けるというのも少し考えものだ。そこであやつの心のケアを頼むついでに、お前にこれを渡しておこうと思ったのだ」
そう話すシギンに色々と尋ねたい事が出来たサイヨウだったが、今はシギンの言葉をしっかりと聞く事が大事だと考えて口を閉じて、しっかりとシギンの言葉に耳を傾ける。
「その『転置宝玉』は、代々組織の長となるものが管理を任されるのだそうだが、俺は一度それを使ってみようと考えた事があったのだが、その玉に『魔力』を宿らせる直前に、その玉の効力が何を意味するかが俺の脳内に浮かび上がったのでな、使う事を止めたのだ」
組織の長となるものに代々継がれてきたと聞いたサイヨウは、よくもそんな恐ろしいものを使う気になったものだと半ば呆れたが、そこはシギン様だから仕方ないかと無理やり納得させたサイヨウだった。
「そ、それで、どのような情景が浮かび上がったのですか?」
どうせならばその先の事も聞いておこうと考えたサイヨウだが、やはりそう考える彼も『魔』の概念に魅了されているだけはあるようで、興味深々といった様子がシギンにも伝わり、彼はサイヨウを見て笑みを浮かべるのだった。
「どうやらその『転置宝玉』は、俺の『空間魔法』と同じように現在地点から観測の行えない別次元へと強引に対象者を移動させられるという効力のようだ。発動の寸前に何処か懐かしさのようなものを感じられたのも、やはり俺が『空間』を司る『魔』の概念技法をすでに得ていたからであろうな」
その感覚を知っていたからこそ、効力が発揮される寸前に使用を取りやめて、どういったモノかを理解出来たと口にするシギンであった。
「シギン様と同じ『空間』を司る事が出来る玉ですか……!」
その言葉に驚き顔こそ浮かべるサイヨウだが、まさかと疑うような真似はしなかった。
何故ならすでにシギンがそういった『魔』の技法を会得しており、自身も何度かその『空間魔法』の効力に身を任せた事もあるからである。
あの『妖魔山』の『禁止区域』付近から、一瞬で山の麓まで戻ってこられたのもシギンの『空間魔法』である。
すでに事象というものを体験している以上は、転置宝玉がその『空間』を司る代物だと説明されて信じない筈がないサイヨウであった。
そしてこの時にサイヨウは、少しだけ邪な気持ちを抱く事となった。
――それはこの『転置宝玉』を使ってみたいという感情である。
サイヨウという人間は、この『妖魔召士』組織の全妖魔召士の中でもシギンに次ぐ『魔』の理解者である。
すでに『空間魔法』という『魔』の概念を除けば、成人を迎える前のシギンと同等かそれ以上の強さも有している状態である。
妖魔ランクという妖魔に対する評価の価値をつけるモノではあるが、それを彼に当てはめればすでに妖魔ランクは『9』に達しているだろう。
『魔』の概念の理解に関してはシギンに次ぐ程の理解者であり、その実力も現時点で妖魔ランクは『9』以上。
そんな『魔』に対して、シギンに勝るとも劣らない程の興味を注いでいる彼が、目の前の『転置宝玉』に興味を示さない筈もなく、また届き得ないと半ば諦めていたシギンの『空間魔法』に対する得たいという欲に関しても『転置宝玉』から何かを知る事が出来るかもしれないと理解に至った事により、彼はどんどんと『転置宝玉』に対しての抑えきれない欲望が募っていく。
(ふふっ、やはり予想通りの結果になったな。これでこいつは遅かれ早かれ『転置宝玉』を必ず使うだろう。どういった結果を齎すかが実に楽しみだ。俺も当分は死ぬわけにはいかなくなったな)
どうやらサイヨウに頼み事があるというのは方便であり、サイヨウ自身に『転置宝玉』を使いたいと思わせる事が本当の狙いだった様子であった。
そしてその真意の先にあるものは、サイヨウに『空間魔法』を使わせられるようしてやりたいという、シギンなりのサイヨウに対する親切心のようなものであった。
いや、親切心という事では生温いだろう。それはもう親愛の情と呼べるものだったかもしれない。
すでに何度かシギンは、サイヨウに対して『空間魔法』に対する座学的な概念の話を行い、どういったものかを伝え終えてはいる。
サイヨウは真摯に耳を傾けて、何とか使えるようになりたいと思い描き、サボることなく『空間魔法』に対しての研鑽を続けているのである。
しかしいくら『空間魔法』がどのようなモノで、どのような効力があるのだと理解をしていたとしても、その『魔法』を司る『理』というモノを理解していなければ、どれだけ思い描いても発動を行う事は叶わない。
そして『理』そのものもまた、伝え聞いただけで直ぐに扱えるような簡単なものではない。
特にこの『ノックス』の世界には『理』という概念が存在していないのだ。
だからこそ生まれ持った『魔力』の素質がなければ、捉術すら使えずに『妖魔召士』にすらなる事が出来ないのである。
そしてこのように自分だけしか扱えない『理』に悩んだのは、シギンだけではなく、彼の直系と呼べる先祖である『卜部官兵衛』もまた同じであり、彼の場合は今の時代よりも更に『魔』の技法に対する技術が乏しい時代であった為に、シギンやサイヨウ程までに『魔』の理解者と呼べる者達も育ってはおらず、シギン以上に他者に伝える事が困難である為に、理解が出来ぬのであれば、決してこの事を後世に伝えてはならぬと逆に戒めるように『卜部官兵衛』は言葉を遺したのだった。
中途半端に伝える事で悪い影響を及ぼして、後世に『妖魔召士』の質そのものを低下させる事を恐れた事もその一因を担っているだろう。
シギンや卜部官兵衛の場合ともまた異なるが、この『理』というものを安易に伝えられないという事に思い悩んだ者は別世界の『魔族』にも居た。
――それこそが、この後にサイヨウが向かう事になる『リラリオ』という世界に生きている魔王レアの存在である。
彼女もまた『レパート』という世界から『リラリオ』の世界へと、時魔法である『概念跳躍』を用いて世界間転移を行った。
そのレアはかつての『リラリオ』の世界で、レイズ魔国の女王『エリス』や『リラリオ』の世界に生きる魔族達に『レパート』の『理』を伝えようとしたが、結局はその当時の『リラリオ』の世界で魔王階級に至っていた『エリス』でさえ、新たな『理』を覚えるのに数百年から数千年は掛かるだろうと判断して断念した。
そして当時の『リラリオ』の世界にある『理』を残す為に、魔王レアと敵対する『精霊族』を『空間除外』で世界から存在だけを消させて、その世界に既に存在していた『精霊族』の生み出した『理』だけを残す道を選んだ。
(※331話 違う世界の理と、魔法概念)。
――このように『理』を一から学ぶという事は、決して容易ではない。
――そしてその『理』を無から生み出す事は、覚える事よりもさらに難しいのである。
いくらサイヨウがシギンの『魔』に関しての愛弟子であったとしても、覚える対象が無から生み出された『理』にして、それもさらに難解と言える『空間魔法』である以上は、流石に少しばかり『魔』の天才と呼べるサイヨウであっても、会得が難しいのは当然である。
しかしシギンは『転置宝玉』という『理』を必要としない疑似ではあるが『空間魔法』と同じような効力を持つアイテムを使う事で、サイヨウ程の『魔』の理解者であれば、何かを掴めるかもしれないと考えた。
シギンから見たサイヨウの今の『魔』の理解度であれば、そこに何か一つのきっかけがあれば、あっさりと難解な術式をスラスラと解いていける程だと認めているからに他ならない。
もし、それでも駄目であればもう諦めるしかないが、自分がしてやれることは全てやってやろうとシギンは考えて、自分がまだ妖魔召士の長という立場の内に、管理を任されていた『転置宝玉』をサイヨウに託そうとしたのだった。
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※カクヨム、なろうでも公開しています
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