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妖魔山編
1804.深刻ではあるが、最悪の状態でもなく
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シギンはサイヨウ達と話を終えた後、彼らと共にゲンロクの居る部屋へと足を運んだ。
これからは本格的に『魔』の概念の研鑽を積もうと考えているシギンは、当面の間は山で生活を行おうと考えている為、慣れ親しんだ環境から離れる事となる。
自分の次の長がまだゲンロクと決まったわけではないが、それでも今の組織の中では次代の組織を担うのが、目の前で目を閉じて寝ているゲンロクとシギンも考えている。
そんなシギンは妖狐の『魔力』にあてられて、半ば意識を失って寝ているゲンロクに近づくと、静かにその手をゲンロクの頬にあてた。
「やはりゲンロクは耐魔力を相当に失っている。これは上手く『魔力回路』に『魔力』を保有させられずに、体内に流れている『魔力』だけで補おうと、こやつ自身が無意識に働きかけているせいだな。無自覚で行われている以上は本人がそれに気づいて『魔』の矯正をしっかりと施さねば、上手く『魔力』を練る事が出来なくなり、いずれは『妖魔召士』としては生きていけなくなってしまうだろう」
「小生も同じ事を考えていましたが、しかしこれは小生達が注意を促したところで解決出来る問題ではない為、少しばかり遠回りになりますが、ゲンロク自身の妖狐の怯えをなくさせる事から始めなくてはならないでしょう」
現在ゲンロクに生じている問題は、実は相当に面倒な状態だといえる。
単に強者を見て怯えただけなのだから、放っておけば直ぐに良くなるだろうとあまり『魔』の本質というモノを理解していない者は考えるかもしれないが、実はそれは大きな間違いなのである。
確かにシギンやサイヨウの言う通り、本人の問題である以上は自分で克服をさせなくてはならない為、結果的には放っておくしかないのが実状ではあるのだが、だからといってこの場合の放っておくの意味を決して履き違えてはならない。
あくまで放っておくというのは、ゲンロク自身に『王琳』の事を頭から除外させて、普段通りに『魔力』を練られるようになるまで待つという意味合いで間違ってはいないのだが、それを全てゲンロクだけにやらせようとして、完全に放置を行う事と同義では決してない。
これからサイヨウ達は、ゲンロクに対する『魔』のフォローを交代制で何日も掛けて良き方向へと向かうように心のケアから始めて行かなければならない。
ここで彼に対するケアを怠り、ゲンロクに自分で何とかしろと口にでもした場合、下手をすれば、そのままゲンロクは『魔力』そのものを扱う事が出来なくなり、体内に流れる『魔力』だけがそのままいつまでも消費されぬまま、そして上手く『魔力コントロール』が出来なくなり、やがては体内のいつまでも消費されない『魔力』そのものに呑まれてしまい、彼は自分の『魔力』を扱いきれずに暴発して最悪死に至る。
最早、妖魔召士として生きていく事が出来ないという話ではなく、命の危険さえ伴ってしまうのである。
それ程までにゲンロクが持つ『魔力』は膨大であり、しっかりとこれまでのように循環させるような仕組みを正常に戻さなくてはならないのであった。
そしてシギンがわざわざゲンロクの元に来た理由とは、今のゲンロクがどのレベルにまで衰弱しているかを正確に測る為でもあった。
もし、現段階でゲンロクの『魔力』の流れが取り返しのつかないところまで進んでいたならば、シギンはゲンロクに『妖魔召士』を諦めさせた上で、命の危険を取り除こうとまで考えていた。
厳密に言えば、ゲンロクの体内にある『魔力』そのものを強引に奪い、暴発する『魔力』そのものを取り除いてしまおうという話である。
これは何もシギンだけが出来る『魔』の技法ではなく、相手の『魔力』に作用する『魔』の技法を学んでいる者であれば、誰でも行える事でもある。
例えばそれは『九大魔王』である『エイネ』の『魔力』を吸い取る鎖であったり、大魔王ソフィの『魔力吸収の地』といった方法でも、相手そのものの『魔力』をやろうと思えば奪ってしまえるのである。
あくまでその場合は、原因療法ではなく対症療法の範疇内の話になってしまうのだが、シギンの場合は少量だけを調節して残す事も可能である為、暴発しかける『魔力値』そのものから一時的に『魔力』の一部だけを『除外』させるという『空間魔法』の一種の技法を用いて、少量ずつの『魔力』からゲンロクに『魔力コントロール』を再び覚えさせていくという療法を行う事も出来るのである。
もしそこまで状態が悪化していたならば、迷わずにこの場でゲンロクの『魔力』の大半を奪い、そして『魔力コントロール』を再びゲンロクに覚えさせるリハビリをサイヨウ達に任せようと考えていたが、どうやらシギンは『魔』を用いての触診で確かめてみた結果、少しばかり任務を休ませて彼に休暇を与える事で心のケアを図れば、これまで通りに自分の『魔力』を扱えるだろうと判断したのだった。
サイヨウはゲンロクの状態を非常に深刻な状態だと口にしていたが、実はシギンが考えていた最悪の状態からすれば、この程度の状態などもし自分であれば、少しばかり他の事を考える時間が与えられて気分転換に持ってこいと考えるくらいの状態であった。
つまりシギンはこのままゲンロクに対して、何も行う必要性はないと考えたのだった。
そしてシギンはサイヨウから視線を別の『四天王』達に移した。
「ノマザル、イッテツ」
「はい?」
「何でしょう?」
「ゲンロクのケアを行いながら、お前達は少しばかり組織に残ってやれ。こいつが元通りになるまでで構わぬ。そしてサイヨウ」
「はい……」
「お前には少し個人的に頼みたい事が出来た。悪いが、この後少し俺ときてくれ」
「わ、分かりました」
サイヨウの返事に頷くと、シギンはゲンロクの頭を優しく撫でた後に立ち上がるのだった。
「それじゃ、俺はもう行く。皆、本当に世話になった。お前達と居た時間は非常に楽しかった。達者でな」
「「シギン様……!」」
そしてこの時の挨拶を最後に、シギンは凡そ二十余年に渡る付き合いを続けてきた『妖魔召士』達と別れる事となるのであった。
……
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これからは本格的に『魔』の概念の研鑽を積もうと考えているシギンは、当面の間は山で生活を行おうと考えている為、慣れ親しんだ環境から離れる事となる。
自分の次の長がまだゲンロクと決まったわけではないが、それでも今の組織の中では次代の組織を担うのが、目の前で目を閉じて寝ているゲンロクとシギンも考えている。
そんなシギンは妖狐の『魔力』にあてられて、半ば意識を失って寝ているゲンロクに近づくと、静かにその手をゲンロクの頬にあてた。
「やはりゲンロクは耐魔力を相当に失っている。これは上手く『魔力回路』に『魔力』を保有させられずに、体内に流れている『魔力』だけで補おうと、こやつ自身が無意識に働きかけているせいだな。無自覚で行われている以上は本人がそれに気づいて『魔』の矯正をしっかりと施さねば、上手く『魔力』を練る事が出来なくなり、いずれは『妖魔召士』としては生きていけなくなってしまうだろう」
「小生も同じ事を考えていましたが、しかしこれは小生達が注意を促したところで解決出来る問題ではない為、少しばかり遠回りになりますが、ゲンロク自身の妖狐の怯えをなくさせる事から始めなくてはならないでしょう」
現在ゲンロクに生じている問題は、実は相当に面倒な状態だといえる。
単に強者を見て怯えただけなのだから、放っておけば直ぐに良くなるだろうとあまり『魔』の本質というモノを理解していない者は考えるかもしれないが、実はそれは大きな間違いなのである。
確かにシギンやサイヨウの言う通り、本人の問題である以上は自分で克服をさせなくてはならない為、結果的には放っておくしかないのが実状ではあるのだが、だからといってこの場合の放っておくの意味を決して履き違えてはならない。
あくまで放っておくというのは、ゲンロク自身に『王琳』の事を頭から除外させて、普段通りに『魔力』を練られるようになるまで待つという意味合いで間違ってはいないのだが、それを全てゲンロクだけにやらせようとして、完全に放置を行う事と同義では決してない。
これからサイヨウ達は、ゲンロクに対する『魔』のフォローを交代制で何日も掛けて良き方向へと向かうように心のケアから始めて行かなければならない。
ここで彼に対するケアを怠り、ゲンロクに自分で何とかしろと口にでもした場合、下手をすれば、そのままゲンロクは『魔力』そのものを扱う事が出来なくなり、体内に流れる『魔力』だけがそのままいつまでも消費されぬまま、そして上手く『魔力コントロール』が出来なくなり、やがては体内のいつまでも消費されない『魔力』そのものに呑まれてしまい、彼は自分の『魔力』を扱いきれずに暴発して最悪死に至る。
最早、妖魔召士として生きていく事が出来ないという話ではなく、命の危険さえ伴ってしまうのである。
それ程までにゲンロクが持つ『魔力』は膨大であり、しっかりとこれまでのように循環させるような仕組みを正常に戻さなくてはならないのであった。
そしてシギンがわざわざゲンロクの元に来た理由とは、今のゲンロクがどのレベルにまで衰弱しているかを正確に測る為でもあった。
もし、現段階でゲンロクの『魔力』の流れが取り返しのつかないところまで進んでいたならば、シギンはゲンロクに『妖魔召士』を諦めさせた上で、命の危険を取り除こうとまで考えていた。
厳密に言えば、ゲンロクの体内にある『魔力』そのものを強引に奪い、暴発する『魔力』そのものを取り除いてしまおうという話である。
これは何もシギンだけが出来る『魔』の技法ではなく、相手の『魔力』に作用する『魔』の技法を学んでいる者であれば、誰でも行える事でもある。
例えばそれは『九大魔王』である『エイネ』の『魔力』を吸い取る鎖であったり、大魔王ソフィの『魔力吸収の地』といった方法でも、相手そのものの『魔力』をやろうと思えば奪ってしまえるのである。
あくまでその場合は、原因療法ではなく対症療法の範疇内の話になってしまうのだが、シギンの場合は少量だけを調節して残す事も可能である為、暴発しかける『魔力値』そのものから一時的に『魔力』の一部だけを『除外』させるという『空間魔法』の一種の技法を用いて、少量ずつの『魔力』からゲンロクに『魔力コントロール』を再び覚えさせていくという療法を行う事も出来るのである。
もしそこまで状態が悪化していたならば、迷わずにこの場でゲンロクの『魔力』の大半を奪い、そして『魔力コントロール』を再びゲンロクに覚えさせるリハビリをサイヨウ達に任せようと考えていたが、どうやらシギンは『魔』を用いての触診で確かめてみた結果、少しばかり任務を休ませて彼に休暇を与える事で心のケアを図れば、これまで通りに自分の『魔力』を扱えるだろうと判断したのだった。
サイヨウはゲンロクの状態を非常に深刻な状態だと口にしていたが、実はシギンが考えていた最悪の状態からすれば、この程度の状態などもし自分であれば、少しばかり他の事を考える時間が与えられて気分転換に持ってこいと考えるくらいの状態であった。
つまりシギンはこのままゲンロクに対して、何も行う必要性はないと考えたのだった。
そしてシギンはサイヨウから視線を別の『四天王』達に移した。
「ノマザル、イッテツ」
「はい?」
「何でしょう?」
「ゲンロクのケアを行いながら、お前達は少しばかり組織に残ってやれ。こいつが元通りになるまでで構わぬ。そしてサイヨウ」
「はい……」
「お前には少し個人的に頼みたい事が出来た。悪いが、この後少し俺ときてくれ」
「わ、分かりました」
サイヨウの返事に頷くと、シギンはゲンロクの頭を優しく撫でた後に立ち上がるのだった。
「それじゃ、俺はもう行く。皆、本当に世話になった。お前達と居た時間は非常に楽しかった。達者でな」
「「シギン様……!」」
そしてこの時の挨拶を最後に、シギンは凡そ二十余年に渡る付き合いを続けてきた『妖魔召士』達と別れる事となるのであった。
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