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妖魔山編
1792.理を生み出した者
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妖魔召士シギンが『青』のオーラの会得に必要なものが、今持っている自分の『魔力』を僅か『1』に至るまでを完璧に知る事だと判断を行った。
文字にすれば何てことのないような話に思えるが、これは相当に難易度が高い話である。
妖魔退魔師たちが、シギンが考えたように持ち得る『魔力』を知り、コントロールが行えるようになったのには、元々の『魔力』が少なかったからこそに他ならない。
『魔力値』の絶対値が少なければ、確かにその『魔力値』の全てを把握する事も容易いだろうが、これが『妖魔召士』と認められる程の退魔士ほどの『魔力値』となれば話は当然に変わってくる。
他の妖魔召士達がわざわざ『オーラの技法』を覚えない理由には、あくまで見下している妖魔退魔師達が編み出した『魔』の技法など、妖魔を相手にした時に関して子供だましに過ぎないと考えているという節もあるが、それ以上に『オーラ』の技法の会得には相当の時間を要するという事までを把握しているからに他ならなかった。
当然『妖魔召士』達は、妖魔退魔師以上の『魔』の理解者であり、彼ら妖魔退魔師が得られた技法に関して何も理解を示さなかったわけがない。
だが、結局は得られるメリットと、為す為の労力となるデメリットの費用対効果を考えた時に、割に合わなすぎると判断して覚える事を断念していったのである。
この世界には『基本研鑽演義』となる指標もなく、魔法を扱う『理』というモノも存在しない以上は、あくまで妖魔と戦うのに必要な『捉術』こそが全てとなる。
そしてその『捉術』を扱う為に『魔力値』が存在するのであって、別に妖魔退魔師のように、身一つで肉体的な向上を果たして妖魔と戦う必要性がない以上は、先にも述べた『捉術』さえ覚えられる事が出来れば十分なのである。
しかしこの当時の幼きシギンは、他の大勢の妖魔召士とは考えが異なった。
限定的な能力の向上であっても、能力が上昇するのであるという事は、どのような場面においてもメリットでしかない。
先輩を含めた多くの妖魔召士が『オーラ』を会得するメリットよりデメリットの方が大きいと考えているが、実際にその会得までの期間をあくまでも予測しているだけに過ぎない。
たとえば自身の『魔力値』の全てを把握するのに、数値を『1』単位ずつ数えていくのであれば、確かに膨大な時間を要する事になるのだろうが、これが『1』ではなく『10』単位や『100』単位、そして『1000』単位で数えられるようになればどうだろうか?
『オーラの技法』を自分の『魔力値』の総数を知る事が重要なのだという『妖魔退魔師』の体験を基にした説明をそっくりそのまま表すのであれば、その把握に要する大元となる『魔力値』に対して、自分の『魔力』を数える範囲を大幅に増やせばいいだけの話である。
――そして、それこそが『魔力コントロール』の初歩である。
『青のオーラ』を会得する事に『魔力値』の把握を要する必要があるというのであれば、最小値から最大値までを瞬間的に数値にして分かりやすく頭でメモを取ればいい。
たとえば『1』+『1』の答えが『2』となるのであれば、その『2』と結論を下すのに必要な『1』と『1』を一つの部屋に重ねて置いておき、別の『1』+『1』という『式』を再び部屋に重ねた『式』の場所に加算させていく。
そして答えとなる『2』と『2』をまた別の部屋に置いておき、後に別部屋同士に置いてある『式』と『答え』の数を数えればいいという発想でシギンは独自の計算法を脳内に描き、他者では何を言っているか分からないというその計算式を用いて『魔力コントロール』を数字で表しながら感覚で形にしていった。
そして僅か数日で自身の『魔力』の総数である『魔力値』を完璧に把握したシギンは、あっさりと『青』のオーラの体現に成功。
更にシギンが『青』のオーラを会得した翌日には、すでにその練度は上限となる『5』に達していた。
自分の『魔力値』を『1』に至るまでその全てを瞬時に把握が出来る以上、練度を高める為に必要な要素は全てクリア出来ている。
他の別世界の存在は『青』のオーラを覚える事がスタートラインであり、そこから『青』の練度を上限まで上げる事がゴールラインなのだが、シギンの場合は『青』のオーラを覚える事と、練度を上限まで上げる事こそがセットであり、覚える事こそがゴールラインと考えていたのである。
これは『基本研鑽演義』となるような、上限値である『5』に達した者を例にすることが出来ずに『青のオーラ』というものが、そういうものなのだと認識を行ったシギンだからこそ可能にしたのだろう。
しかし当然にゴールラインをスタートラインと捉える、シギンの練度『5』の『青』のオーラを会得しようとするのであれば、そんな短期間で覚えられる筈がない。
あくまで『魔』の申し子と呼べる程の天才であったシギンだからこそ、可能と出来た話である。
そしてやはり『オーラ』の技法は、シギンに告げた先輩が言うような子供騙しなどではなかった。
「増幅されるのは肉体的な向上だけの話ではない。これは『魔力値』の全てを把握している俺だからこそよく分かる。オーラを纏っている今の状態は、間違いなく俺の総魔力の絶対値も上昇している……」
本来シギンが抱く疑問は、練度が上限に達する前に、いや、それどころか『青』を会得した時点で理解に及ぶものなのではあるが、シギンの場合は『青』の会得と練度の上限が僅か数日であったことから、その因縁関係に気づきを得られるタイミングがなかったのだろう。
そういうものなのだろうとしか、体得の時には思わなかったのだと思われる。
そして『オーラ』の技法を学び終えた事で図らずも『魔力コントロール』をある程度まで体得に至ったシギンは、次に『オーラ』と『捉術』に用いる『魔力』を供給する『魔力回路』に着手し始める。
何故、自分の『魔力』を自分の任意で引き出せる場所とは別の場所に『供給場所』を用いられるのか、何故そんなものがあるのに、わざわざまた別に『術』を発動するキーとなる『詠唱』や『手印』を結ぶ必要性があるのか。
何故? これは何故? そういった数々の疑問が、シギンを更なる高みへと押し上げていく。
妖魔召士に選ばれてから僅か一年足らずの内、シギンは『オーラの技法』と『魔力回路』から、自身の『魔力』を自分の身体に周囲に纏わせる『魔力コントロール』を完全に習得し終える。
そしてその周囲に纏わせるという感覚にも違和感を覚えたシギンは、これまた『理』の存在しない『ノックス』の世界に居るというのに、別世界にすでに存在している大魔王フルーフの居る『レパート』の『理』や、ソフィ達の居る『アレルバレル』の世界の『理』を用いた『オーラの纏わせ方』を完全に掌握し終える。
先に脳内で描く纏わせ方であれば、他の纏わせ方よりもコンマ数秒は早く『スタック』の設置が可能だろうという理解から、今度はその幾通りのパターンが何故存在するのか。では、今考えられる数通りのパターンから新たにパターンを増やす事が出来れば、更に最善の威力や速度を『魔』の技法に用いられるのではないだろうか?
そういった新たな疑問を生み出しては、解を自ら生み出していく毎日である。
自分の疑問を自分で解消する為の日々に身を置き続けた事によって、気が付けば妖魔召士シギンはこの世界に自分だけの『理』を生み出してしまうのだった。
そして『理』を生み出してからは、更にこの世界にある筈のない『魔法』という事象を彼は生み出してしまう。
しかし最初に生み出した『魔法』は、攻撃に関するものではなかった。
妖魔召士として『捉術』が妖魔に有効な攻撃手段と考えるシギンは、あくまで『魔法』というものは攻撃手段として考えるのではなく、自分が相手よりも有利になるような優位性を得る為の手立てと捉えたのである。
――そう。
その発想に至る要因となったのは、シギンが一番最初に得る事となった『オーラ』の技法が多分に要因を担っていたと言っていいだろう。
オーラによって増幅された『魔力』の絶対値は攻撃を行う上で有利を取り、そして強力な『捉術』を用いるのに必要な『魔力』が、本来であればまだまだ足りる筈がない『魔力値』に、あっさりと辿り着く優位性を得られたのである。
――攻撃を行うのは『オーラ』によって増幅させた『魔力』を用いた『捉術』を使えばいい。
そして。
――攻撃以外の優位性を得る為には、自ら生み出した『理』を用いた『魔』の技法を使えばいい。
という結論にシギンは十歳になる前に至った。
攻撃以外の優位性を得る為の『魔』の技法を詳しく紐解いていくと、辿り着いたのは『時間』と『距離』であった。
遠くから相手に自分の攻撃を当てるには、相手が用意を行える防衛手段の時間より早く打てばいい。そこに必要なのは、どれだけ相手から離れた距離から一方的に当てる事が可能であるかである。
つまり必要なのは相手が自衛をはかる時間より早く、相手が何をされているか分からない程に離れた距離に居る場所から『捉術』を当てる事を可能とするのは『時間』と『距離』だったのである。
シギンが思い描く『魔法』を『発動』させるのに必要なのは、大きく分けて二つ。
『発動』に必要な文言。それはつまり『捉術』でいえば『手印』。
『魔法』の発動には、手印を用いたところで反応する筈もない為、世界にその効果の意味を示すキーとなる文言が必要となる。
――つまりそれは『発動羅列』である。
(これは別に口にする必要はなく、頭で思い描いて身体に『魔力』を纏わせる時に使ったような『理』を用いれさえすれば、思い描くだけで発動は可能とするだろう)
そして文言の問題が片付いた後は、次に『発動』に最も必要なもので、更には『魔』の概念の根本となる全ての基本となる『魔力』そのものである。
(『時間』と『距離』に影響を及ぼす為には、世界に認識させる『文言』と、その文言に対する対価となる『魔力』があれば、後は思い描く理想の効力と、その『存在』を模る想像力くらいのものであろう)
僅か十歳に満たぬ齢の『妖魔召士』は、この世界で誰にも成し得ていない事を次々と自分一人だけで解決していき、気が付けば彼の想像力の賜物である『時間』と『距離』を解決する『空間魔法』というものを生み出す事となった。
年齢が二桁となる十歳になったその日、彼は自ら編み出した『魔法』を誰にも知られぬ事なく使い続けていた事で、自身の『魔力値』が200億を超えた。
――それも基となる『魔力値』が200億であり、当然ながら『青』を纏えばその『魔力値』は五倍となる1000億という事になる。
当然にシギン以外にも十歳の若さにして『妖魔召士』になる者も居たが、それでもその子の『魔力値』は精々が1億に達するかどうかというところである。
まだまだ妖魔に対抗するだけの実戦経験などある筈もなく、戦えるようになる為の準備段階でしかないが故に『捉術』も僅かな消費で行えるものに過ぎず、魔力枯渇を引き起こさぬようにと注意深く成長を行う以上はこの年齢で一気に高くなる事は、よっぽどの事がない限りは有り得ない。
それでもこの齢の人間でこの魔力値は凄い事といえるのだが、シギンだけはその範疇に収まるような存在ではなかったという話であった。
シギンが妖魔召士組織で当代最強の『妖魔召士』と呼ばれるようになるのはまだ先の話だが、すでにこの頃から『魔』の理解者としての道程を歩み続けてきた彼だが、その目線が少しばかり他の妖魔召士達とは異なっていた事は間違いないだろう。
文字にすれば何てことのないような話に思えるが、これは相当に難易度が高い話である。
妖魔退魔師たちが、シギンが考えたように持ち得る『魔力』を知り、コントロールが行えるようになったのには、元々の『魔力』が少なかったからこそに他ならない。
『魔力値』の絶対値が少なければ、確かにその『魔力値』の全てを把握する事も容易いだろうが、これが『妖魔召士』と認められる程の退魔士ほどの『魔力値』となれば話は当然に変わってくる。
他の妖魔召士達がわざわざ『オーラの技法』を覚えない理由には、あくまで見下している妖魔退魔師達が編み出した『魔』の技法など、妖魔を相手にした時に関して子供だましに過ぎないと考えているという節もあるが、それ以上に『オーラ』の技法の会得には相当の時間を要するという事までを把握しているからに他ならなかった。
当然『妖魔召士』達は、妖魔退魔師以上の『魔』の理解者であり、彼ら妖魔退魔師が得られた技法に関して何も理解を示さなかったわけがない。
だが、結局は得られるメリットと、為す為の労力となるデメリットの費用対効果を考えた時に、割に合わなすぎると判断して覚える事を断念していったのである。
この世界には『基本研鑽演義』となる指標もなく、魔法を扱う『理』というモノも存在しない以上は、あくまで妖魔と戦うのに必要な『捉術』こそが全てとなる。
そしてその『捉術』を扱う為に『魔力値』が存在するのであって、別に妖魔退魔師のように、身一つで肉体的な向上を果たして妖魔と戦う必要性がない以上は、先にも述べた『捉術』さえ覚えられる事が出来れば十分なのである。
しかしこの当時の幼きシギンは、他の大勢の妖魔召士とは考えが異なった。
限定的な能力の向上であっても、能力が上昇するのであるという事は、どのような場面においてもメリットでしかない。
先輩を含めた多くの妖魔召士が『オーラ』を会得するメリットよりデメリットの方が大きいと考えているが、実際にその会得までの期間をあくまでも予測しているだけに過ぎない。
たとえば自身の『魔力値』の全てを把握するのに、数値を『1』単位ずつ数えていくのであれば、確かに膨大な時間を要する事になるのだろうが、これが『1』ではなく『10』単位や『100』単位、そして『1000』単位で数えられるようになればどうだろうか?
『オーラの技法』を自分の『魔力値』の総数を知る事が重要なのだという『妖魔退魔師』の体験を基にした説明をそっくりそのまま表すのであれば、その把握に要する大元となる『魔力値』に対して、自分の『魔力』を数える範囲を大幅に増やせばいいだけの話である。
――そして、それこそが『魔力コントロール』の初歩である。
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たとえば『1』+『1』の答えが『2』となるのであれば、その『2』と結論を下すのに必要な『1』と『1』を一つの部屋に重ねて置いておき、別の『1』+『1』という『式』を再び部屋に重ねた『式』の場所に加算させていく。
そして答えとなる『2』と『2』をまた別の部屋に置いておき、後に別部屋同士に置いてある『式』と『答え』の数を数えればいいという発想でシギンは独自の計算法を脳内に描き、他者では何を言っているか分からないというその計算式を用いて『魔力コントロール』を数字で表しながら感覚で形にしていった。
そして僅か数日で自身の『魔力』の総数である『魔力値』を完璧に把握したシギンは、あっさりと『青』のオーラの体現に成功。
更にシギンが『青』のオーラを会得した翌日には、すでにその練度は上限となる『5』に達していた。
自分の『魔力値』を『1』に至るまでその全てを瞬時に把握が出来る以上、練度を高める為に必要な要素は全てクリア出来ている。
他の別世界の存在は『青』のオーラを覚える事がスタートラインであり、そこから『青』の練度を上限まで上げる事がゴールラインなのだが、シギンの場合は『青』のオーラを覚える事と、練度を上限まで上げる事こそがセットであり、覚える事こそがゴールラインと考えていたのである。
これは『基本研鑽演義』となるような、上限値である『5』に達した者を例にすることが出来ずに『青のオーラ』というものが、そういうものなのだと認識を行ったシギンだからこそ可能にしたのだろう。
しかし当然にゴールラインをスタートラインと捉える、シギンの練度『5』の『青』のオーラを会得しようとするのであれば、そんな短期間で覚えられる筈がない。
あくまで『魔』の申し子と呼べる程の天才であったシギンだからこそ、可能と出来た話である。
そしてやはり『オーラ』の技法は、シギンに告げた先輩が言うような子供騙しなどではなかった。
「増幅されるのは肉体的な向上だけの話ではない。これは『魔力値』の全てを把握している俺だからこそよく分かる。オーラを纏っている今の状態は、間違いなく俺の総魔力の絶対値も上昇している……」
本来シギンが抱く疑問は、練度が上限に達する前に、いや、それどころか『青』を会得した時点で理解に及ぶものなのではあるが、シギンの場合は『青』の会得と練度の上限が僅か数日であったことから、その因縁関係に気づきを得られるタイミングがなかったのだろう。
そういうものなのだろうとしか、体得の時には思わなかったのだと思われる。
そして『オーラ』の技法を学び終えた事で図らずも『魔力コントロール』をある程度まで体得に至ったシギンは、次に『オーラ』と『捉術』に用いる『魔力』を供給する『魔力回路』に着手し始める。
何故、自分の『魔力』を自分の任意で引き出せる場所とは別の場所に『供給場所』を用いられるのか、何故そんなものがあるのに、わざわざまた別に『術』を発動するキーとなる『詠唱』や『手印』を結ぶ必要性があるのか。
何故? これは何故? そういった数々の疑問が、シギンを更なる高みへと押し上げていく。
妖魔召士に選ばれてから僅か一年足らずの内、シギンは『オーラの技法』と『魔力回路』から、自身の『魔力』を自分の身体に周囲に纏わせる『魔力コントロール』を完全に習得し終える。
そしてその周囲に纏わせるという感覚にも違和感を覚えたシギンは、これまた『理』の存在しない『ノックス』の世界に居るというのに、別世界にすでに存在している大魔王フルーフの居る『レパート』の『理』や、ソフィ達の居る『アレルバレル』の世界の『理』を用いた『オーラの纏わせ方』を完全に掌握し終える。
先に脳内で描く纏わせ方であれば、他の纏わせ方よりもコンマ数秒は早く『スタック』の設置が可能だろうという理解から、今度はその幾通りのパターンが何故存在するのか。では、今考えられる数通りのパターンから新たにパターンを増やす事が出来れば、更に最善の威力や速度を『魔』の技法に用いられるのではないだろうか?
そういった新たな疑問を生み出しては、解を自ら生み出していく毎日である。
自分の疑問を自分で解消する為の日々に身を置き続けた事によって、気が付けば妖魔召士シギンはこの世界に自分だけの『理』を生み出してしまうのだった。
そして『理』を生み出してからは、更にこの世界にある筈のない『魔法』という事象を彼は生み出してしまう。
しかし最初に生み出した『魔法』は、攻撃に関するものではなかった。
妖魔召士として『捉術』が妖魔に有効な攻撃手段と考えるシギンは、あくまで『魔法』というものは攻撃手段として考えるのではなく、自分が相手よりも有利になるような優位性を得る為の手立てと捉えたのである。
――そう。
その発想に至る要因となったのは、シギンが一番最初に得る事となった『オーラ』の技法が多分に要因を担っていたと言っていいだろう。
オーラによって増幅された『魔力』の絶対値は攻撃を行う上で有利を取り、そして強力な『捉術』を用いるのに必要な『魔力』が、本来であればまだまだ足りる筈がない『魔力値』に、あっさりと辿り着く優位性を得られたのである。
――攻撃を行うのは『オーラ』によって増幅させた『魔力』を用いた『捉術』を使えばいい。
そして。
――攻撃以外の優位性を得る為には、自ら生み出した『理』を用いた『魔』の技法を使えばいい。
という結論にシギンは十歳になる前に至った。
攻撃以外の優位性を得る為の『魔』の技法を詳しく紐解いていくと、辿り着いたのは『時間』と『距離』であった。
遠くから相手に自分の攻撃を当てるには、相手が用意を行える防衛手段の時間より早く打てばいい。そこに必要なのは、どれだけ相手から離れた距離から一方的に当てる事が可能であるかである。
つまり必要なのは相手が自衛をはかる時間より早く、相手が何をされているか分からない程に離れた距離に居る場所から『捉術』を当てる事を可能とするのは『時間』と『距離』だったのである。
シギンが思い描く『魔法』を『発動』させるのに必要なのは、大きく分けて二つ。
『発動』に必要な文言。それはつまり『捉術』でいえば『手印』。
『魔法』の発動には、手印を用いたところで反応する筈もない為、世界にその効果の意味を示すキーとなる文言が必要となる。
――つまりそれは『発動羅列』である。
(これは別に口にする必要はなく、頭で思い描いて身体に『魔力』を纏わせる時に使ったような『理』を用いれさえすれば、思い描くだけで発動は可能とするだろう)
そして文言の問題が片付いた後は、次に『発動』に最も必要なもので、更には『魔』の概念の根本となる全ての基本となる『魔力』そのものである。
(『時間』と『距離』に影響を及ぼす為には、世界に認識させる『文言』と、その文言に対する対価となる『魔力』があれば、後は思い描く理想の効力と、その『存在』を模る想像力くらいのものであろう)
僅か十歳に満たぬ齢の『妖魔召士』は、この世界で誰にも成し得ていない事を次々と自分一人だけで解決していき、気が付けば彼の想像力の賜物である『時間』と『距離』を解決する『空間魔法』というものを生み出す事となった。
年齢が二桁となる十歳になったその日、彼は自ら編み出した『魔法』を誰にも知られぬ事なく使い続けていた事で、自身の『魔力値』が200億を超えた。
――それも基となる『魔力値』が200億であり、当然ながら『青』を纏えばその『魔力値』は五倍となる1000億という事になる。
当然にシギン以外にも十歳の若さにして『妖魔召士』になる者も居たが、それでもその子の『魔力値』は精々が1億に達するかどうかというところである。
まだまだ妖魔に対抗するだけの実戦経験などある筈もなく、戦えるようになる為の準備段階でしかないが故に『捉術』も僅かな消費で行えるものに過ぎず、魔力枯渇を引き起こさぬようにと注意深く成長を行う以上はこの年齢で一気に高くなる事は、よっぽどの事がない限りは有り得ない。
それでもこの齢の人間でこの魔力値は凄い事といえるのだが、シギンだけはその範疇に収まるような存在ではなかったという話であった。
シギンが妖魔召士組織で当代最強の『妖魔召士』と呼ばれるようになるのはまだ先の話だが、すでにこの頃から『魔』の理解者としての道程を歩み続けてきた彼だが、その目線が少しばかり他の妖魔召士達とは異なっていた事は間違いないだろう。
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