1,802 / 1,915
妖魔山編
1785.新たな規格外と呼べる存在
しおりを挟む
シギンの呟いた独り言に眉を寄せた神斗だが、相手が自分を遥かに上回る『魔』の理解者だという事は既に分かっている為に、思うところはあれども言及をせずに聞き流した。
そして代わりに視線をシギンから洞穴の奥に居る『鬼人』に向け直すと、神斗は今度はそちらに話し掛けるのだった。
「君は殿鬼だよね? どうして王琳や悟獄丸ではなく、この人間と同じ場所に居たのかな?」
神斗もすでに『殿鬼』がいつもの様子とは違う事には気づいているが、実際に何が違うのかまでは詳しくは分かっていない為に、いつも通りに相手との意思の疎通を図りながら何処かがおかしいのかを具体的に割り出そうと観察を始めた。
「お、お前は……!」
奥に居た殿鬼の姿を借りてこの場に立っていたその『存在』は、現れた神斗を一目見ると、心底驚いた様子を見せた。
直後、煌阿は恐ろしい程までに憎悪に歪む表情へと変貌させたかと思えば、一瞬の内に神斗の眼前に移動を行ってみせるのだった。
「久しいな? 神斗」
「!?」
(なっ……! この俺にも移動するところが全く見えなかった。い、いや……、これは単に速度の問題ではなく『転移』の技法、若しくは『空間』そのものをイジったか!?)
シギンはあっさりと目の前から姿を消したその『存在』が、どうやってそこから移動をしたのか分からないままではあるが、神斗の前に移動した後の言葉でようやく居場所を認識出来たのであった。
「そ、その『魔力』は、ま、まさか! お、お前は『煌阿』なのか!?」
神斗が突如として目の前に移動してきた『存在』の名らしきものを告げると同時、腹部に激痛が走って倒れそうになるが、何とか苦悩に顔を歪めながらも手で腹部を押さえながら堪えるのだった。
「痛いか? しかし仲間だと思っていたお前らに見捨てられた俺の心の方がもっと痛かったぞ?」
そして腹部を押さえながら苦しそうにその『存在』の顔を見上げている神斗に向けて、今度は思いきり足を突き入れようとするのだった。
しかし確実に神斗を蹴り飛ばす筈だったその『存在』の足には何の手応えが感じられず、神斗の姿が忽然と消え去った事でその『存在』は後ろを振り返る。
そしてそこには『シギン』に襟首を掴まれている神斗の姿があった。どうやら『煌阿』に蹴られる前に神斗が『空間』を操って救い出したのだろう。
「勝手に俺を無視して話を進めないでもらおうか。お前たちがこんな狭い洞穴で暴れてしまえば、山に影響を及ぼしてあっさりと崩落してしまうだろう。悪いが今のこの山には俺の大事な仲間達も居るようなのでな。少し場所を変えさせてもらうぞ」
シギンがそう告げて直ぐに手印を結び始めると、あっさりと場に用意されていた『スタック』が反応したかと思うと、その洞穴の至る場所に伝播するように光が煌々と放ち始めるのだった。
――そして次の瞬間。
『シギン』『神斗』『煌阿』の三名の姿が、洞穴の中から一瞬の内に消え去ってしまうのであった。
これは妖魔召士シギンの『空間魔法』の効力ではあったが、しかしシギンが想定していた目的の場所である筈の『山の頂』の方ではなく、三名が辿り着いた場所は同じ『妖魔山』の中ではあるが、全く異なる場所に飛ばされるのであった。
「ちっ! まさか『次元の狭間』の中でさえ、そのように自在に動けるとはな……!」
どうやら『時魔法』と呼ばれる『魔』の概念技法の一つがシギンによって用いられたようだが、その『魔法』の影響下にあった筈の『煌阿』と神斗に呼ばれていた『存在』は、強引にその『空間魔法』による強制移動の行使に抗って無理やりに『次元の狭間』を抜け出してみせたようである。
そしてそのシギンが使った『空間魔法』は、大魔王フルーフが使っている『概念跳躍』とは効力こそは違うが、同様に『次元の狭間』を使って『空間』を移動する為に、一つの括りとして用いられる『時魔法』と同義のものであるといえた。
その大魔王フルーフの『概念跳躍』によって、ソフィ達がこの世界に来た時には、ヌーは『次元の狭間』内では全く認識が出来ず、またソフィは認識も出来てその『次元の狭間』内でも僅かには動く事を可能としてはいたのだが、普段通りに動けるというわけではなく、コンマ数秒程の中に限り任意の行動が行えるといった程度の事しか出来なかったのである。
本来は下界でこういった『空間魔法』の影響下にある存在は、ヌーのように一切認識が出来ない事が当然なのであり、大魔王ソフィや、この『煌阿』のように自在に動く事が出来る方がおかしい事なのである。
実際に『次元の狭間』で自在に動く事を可能と出来る者は、 『天上界』の存在である『魔神』達や、同様に『神格』を有する『死神』達くらいのものである筈であった。
それも無理やりに『空間』の道筋を突き破って行き先を変更させる者など、現時点においてはあらゆる世界を見渡しても皆無に近いだろう。
――よっぽどの『魔』の概念を熟知している事を前提とした、魔神の領域に立つ程の存在でなければ不可能な事だからである。
そんな事をあっさりとやり遂げたのが『煌阿』ではあるが、当然ながら彼は『空間』を自在に操る術などこれまでは持ってはおらず、ソフィのように感覚的に初めてとなる『次元の狭間』の中で、妖魔召士シギンの『力』の影響下から抜け出す為に身体を動かしたに過ぎないのだろう。
しかしそれでも結果的には、下界の存在が行える行動の範疇を越えた者が、この場にまた新たに出現を果たした事といえた瞬間であった。
そして代わりに視線をシギンから洞穴の奥に居る『鬼人』に向け直すと、神斗は今度はそちらに話し掛けるのだった。
「君は殿鬼だよね? どうして王琳や悟獄丸ではなく、この人間と同じ場所に居たのかな?」
神斗もすでに『殿鬼』がいつもの様子とは違う事には気づいているが、実際に何が違うのかまでは詳しくは分かっていない為に、いつも通りに相手との意思の疎通を図りながら何処かがおかしいのかを具体的に割り出そうと観察を始めた。
「お、お前は……!」
奥に居た殿鬼の姿を借りてこの場に立っていたその『存在』は、現れた神斗を一目見ると、心底驚いた様子を見せた。
直後、煌阿は恐ろしい程までに憎悪に歪む表情へと変貌させたかと思えば、一瞬の内に神斗の眼前に移動を行ってみせるのだった。
「久しいな? 神斗」
「!?」
(なっ……! この俺にも移動するところが全く見えなかった。い、いや……、これは単に速度の問題ではなく『転移』の技法、若しくは『空間』そのものをイジったか!?)
シギンはあっさりと目の前から姿を消したその『存在』が、どうやってそこから移動をしたのか分からないままではあるが、神斗の前に移動した後の言葉でようやく居場所を認識出来たのであった。
「そ、その『魔力』は、ま、まさか! お、お前は『煌阿』なのか!?」
神斗が突如として目の前に移動してきた『存在』の名らしきものを告げると同時、腹部に激痛が走って倒れそうになるが、何とか苦悩に顔を歪めながらも手で腹部を押さえながら堪えるのだった。
「痛いか? しかし仲間だと思っていたお前らに見捨てられた俺の心の方がもっと痛かったぞ?」
そして腹部を押さえながら苦しそうにその『存在』の顔を見上げている神斗に向けて、今度は思いきり足を突き入れようとするのだった。
しかし確実に神斗を蹴り飛ばす筈だったその『存在』の足には何の手応えが感じられず、神斗の姿が忽然と消え去った事でその『存在』は後ろを振り返る。
そしてそこには『シギン』に襟首を掴まれている神斗の姿があった。どうやら『煌阿』に蹴られる前に神斗が『空間』を操って救い出したのだろう。
「勝手に俺を無視して話を進めないでもらおうか。お前たちがこんな狭い洞穴で暴れてしまえば、山に影響を及ぼしてあっさりと崩落してしまうだろう。悪いが今のこの山には俺の大事な仲間達も居るようなのでな。少し場所を変えさせてもらうぞ」
シギンがそう告げて直ぐに手印を結び始めると、あっさりと場に用意されていた『スタック』が反応したかと思うと、その洞穴の至る場所に伝播するように光が煌々と放ち始めるのだった。
――そして次の瞬間。
『シギン』『神斗』『煌阿』の三名の姿が、洞穴の中から一瞬の内に消え去ってしまうのであった。
これは妖魔召士シギンの『空間魔法』の効力ではあったが、しかしシギンが想定していた目的の場所である筈の『山の頂』の方ではなく、三名が辿り着いた場所は同じ『妖魔山』の中ではあるが、全く異なる場所に飛ばされるのであった。
「ちっ! まさか『次元の狭間』の中でさえ、そのように自在に動けるとはな……!」
どうやら『時魔法』と呼ばれる『魔』の概念技法の一つがシギンによって用いられたようだが、その『魔法』の影響下にあった筈の『煌阿』と神斗に呼ばれていた『存在』は、強引にその『空間魔法』による強制移動の行使に抗って無理やりに『次元の狭間』を抜け出してみせたようである。
そしてそのシギンが使った『空間魔法』は、大魔王フルーフが使っている『概念跳躍』とは効力こそは違うが、同様に『次元の狭間』を使って『空間』を移動する為に、一つの括りとして用いられる『時魔法』と同義のものであるといえた。
その大魔王フルーフの『概念跳躍』によって、ソフィ達がこの世界に来た時には、ヌーは『次元の狭間』内では全く認識が出来ず、またソフィは認識も出来てその『次元の狭間』内でも僅かには動く事を可能としてはいたのだが、普段通りに動けるというわけではなく、コンマ数秒程の中に限り任意の行動が行えるといった程度の事しか出来なかったのである。
本来は下界でこういった『空間魔法』の影響下にある存在は、ヌーのように一切認識が出来ない事が当然なのであり、大魔王ソフィや、この『煌阿』のように自在に動く事が出来る方がおかしい事なのである。
実際に『次元の狭間』で自在に動く事を可能と出来る者は、 『天上界』の存在である『魔神』達や、同様に『神格』を有する『死神』達くらいのものである筈であった。
それも無理やりに『空間』の道筋を突き破って行き先を変更させる者など、現時点においてはあらゆる世界を見渡しても皆無に近いだろう。
――よっぽどの『魔』の概念を熟知している事を前提とした、魔神の領域に立つ程の存在でなければ不可能な事だからである。
そんな事をあっさりとやり遂げたのが『煌阿』ではあるが、当然ながら彼は『空間』を自在に操る術などこれまでは持ってはおらず、ソフィのように感覚的に初めてとなる『次元の狭間』の中で、妖魔召士シギンの『力』の影響下から抜け出す為に身体を動かしたに過ぎないのだろう。
しかしそれでも結果的には、下界の存在が行える行動の範疇を越えた者が、この場にまた新たに出現を果たした事といえた瞬間であった。
1
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる