1,793 / 1,985
妖魔山編
1776.王琳の思惑とその視線
しおりを挟む
(あ、あれは!? ま、まさかっ、まさか……!?)
先程まで天狗達を相手にたった一体で立ち回っていたソフィに、驚きこそはすれど勇ましさに感動すら覚えていたが、その天狗族との戦闘が終わった直後、何者かが魔神の張った『結界』を強引に破ってこの場に乱入してきたことで何事かと別種の驚きを抱いたゲンロクだったが、その乱入者の『妖狐』の顔を見て完全に固まってしまうのであった。
そのゲンロクの額には脂汗が浮かび、手や足が唐突に震え始めたかと思えば、顔を真っ青にさせ始めた。
「どうかしたのか、ゲンロク?」
当然にそのゲンロクの隣に立っているエイジが、こんな様子を見せるゲンロクに気づかない筈もなく、訝しそうに眉を寄せながら静かに声を掛けるのだった。
「え、エイジよ……! あの妖狐こそが、かつて『禁止区域』で出会った妖狐だ。わ、ワシはあやつを見て調査を放り出して山を下りたのだ……」
視線を妖狐から外したかと思えば、ガクガクと震えながら静かにエイジに告げるゲンロクであった。
「あの妖狐が……!」
どうやらソフィは妖狐との話し合いを終えたようでこちらの方へと歩いてくるが、妖狐はその場で腕を組んだままで待機していた。
そんな妖狐に視線を向けたエイジだが、直ぐにその妖狐はエイジに視線を合わせるように顔をこちらに向けてくるのだった。
「!?」
妖狐からは『殺気』や『殺意』などといった敵意のようなモノを感じられない。しかし単に視線を合わせられただけで恐ろしい程の重圧を感じたエイジであった。
(これは、確かに若い頃にゲンロクが逃げ出したという話も理解が出来るな……。確実に『魔』の概念を正しく理解して修めている者の『魔力』だ。視線一つでここまで動揺させられるとは)
エイジは今を生きる最上位妖魔召士ではあるが、その『魔』の概念においては『サイヨウ』から直々に学ばされた身である為、前時代の最上位妖魔召士とそこまで遜色はない。
むしろ『天狗族』の扱う『僧全』をいち早く取り入れた『妖魔召士』である為、この『魔』の概念に関しては『ゲンロク』や『コウエン』よりも上であろう。
そんなエイジであるが、あの九尾の妖狐の無意識に纏わせている『魔力』から『魔』の概念に身を置く者の『力』が、視線一つで明らかに自分よりも上だと感じさせられるのだった。
『魔瞳』というものには歴史があり、この世界では『青い目』というものが妖魔召士の間で存在しているが、元をたどればこの『魔瞳』もまた『魔』の概念の一つである。
妖魔召士たちの独自の研鑽と歴史を語り継いだ事によって、今に至る『魔瞳』の結果が『青い目』ではあるが、その『青い目』呼ばれる前の単なる『魔力』を伴った目こそが、原初の『魔瞳』と呼べるものなのである。
別に王琳はエイジと視線を合わせた時に『魔瞳』を使ったという意識はなく、単に普段から『魔力』というモノを身近に纏わせている結果によって、目や自身の周囲に『魔力』を点在させているだけに過ぎない。
しかしそれでも単なる視線一つでさえ、こうまでしてエイジを狼狽させられるだけの力を『九尾の妖狐』は有しているというわけであった。
そしてエイジと視線を交わし合っている王琳もまた、そのエイジという一人の妖魔召士に対して、ソフィまでとは言わないが、少し前に戦ったコウエン以上の興味を抱いていた。
(俺には相手の目を見れば分かる。奴もまた『魔』の概念に対して、並々ならぬ思いを抱いているな。そして実際にその思いを『魔』の形として取り入れている者だろう。奴も魅力的ではあるが、それでも黒い羽を生やしたさっきの奴と比べては流石に劣るな。何せあの『帝楽智』殿の代名詞と呼べる魔力値で放った『魔力波』を完全に黒羽は同じ『魔力波』で圧倒していた。俺や神斗様には届いてはいないが『帝楽智』殿の総魔力値は、この山でも五指には確実に入る。そんな『帝楽智』殿をあっさりと倒した黒羽と戦う事は何よりも優先される……!)
(な、何を笑っているのだ!?)
エイジは王琳が自分を見て笑っていると思い込み、何とか表情を崩さずには居られたが、内心では狼狽させられる事となった。
どうやら王琳はソフィの事を考えて、知らず知らずのうちに口角を吊り上げてしまい、図らずも視線が交わっていたエイジを驚かす結果となったようである。
先程まで天狗達を相手にたった一体で立ち回っていたソフィに、驚きこそはすれど勇ましさに感動すら覚えていたが、その天狗族との戦闘が終わった直後、何者かが魔神の張った『結界』を強引に破ってこの場に乱入してきたことで何事かと別種の驚きを抱いたゲンロクだったが、その乱入者の『妖狐』の顔を見て完全に固まってしまうのであった。
そのゲンロクの額には脂汗が浮かび、手や足が唐突に震え始めたかと思えば、顔を真っ青にさせ始めた。
「どうかしたのか、ゲンロク?」
当然にそのゲンロクの隣に立っているエイジが、こんな様子を見せるゲンロクに気づかない筈もなく、訝しそうに眉を寄せながら静かに声を掛けるのだった。
「え、エイジよ……! あの妖狐こそが、かつて『禁止区域』で出会った妖狐だ。わ、ワシはあやつを見て調査を放り出して山を下りたのだ……」
視線を妖狐から外したかと思えば、ガクガクと震えながら静かにエイジに告げるゲンロクであった。
「あの妖狐が……!」
どうやらソフィは妖狐との話し合いを終えたようでこちらの方へと歩いてくるが、妖狐はその場で腕を組んだままで待機していた。
そんな妖狐に視線を向けたエイジだが、直ぐにその妖狐はエイジに視線を合わせるように顔をこちらに向けてくるのだった。
「!?」
妖狐からは『殺気』や『殺意』などといった敵意のようなモノを感じられない。しかし単に視線を合わせられただけで恐ろしい程の重圧を感じたエイジであった。
(これは、確かに若い頃にゲンロクが逃げ出したという話も理解が出来るな……。確実に『魔』の概念を正しく理解して修めている者の『魔力』だ。視線一つでここまで動揺させられるとは)
エイジは今を生きる最上位妖魔召士ではあるが、その『魔』の概念においては『サイヨウ』から直々に学ばされた身である為、前時代の最上位妖魔召士とそこまで遜色はない。
むしろ『天狗族』の扱う『僧全』をいち早く取り入れた『妖魔召士』である為、この『魔』の概念に関しては『ゲンロク』や『コウエン』よりも上であろう。
そんなエイジであるが、あの九尾の妖狐の無意識に纏わせている『魔力』から『魔』の概念に身を置く者の『力』が、視線一つで明らかに自分よりも上だと感じさせられるのだった。
『魔瞳』というものには歴史があり、この世界では『青い目』というものが妖魔召士の間で存在しているが、元をたどればこの『魔瞳』もまた『魔』の概念の一つである。
妖魔召士たちの独自の研鑽と歴史を語り継いだ事によって、今に至る『魔瞳』の結果が『青い目』ではあるが、その『青い目』呼ばれる前の単なる『魔力』を伴った目こそが、原初の『魔瞳』と呼べるものなのである。
別に王琳はエイジと視線を合わせた時に『魔瞳』を使ったという意識はなく、単に普段から『魔力』というモノを身近に纏わせている結果によって、目や自身の周囲に『魔力』を点在させているだけに過ぎない。
しかしそれでも単なる視線一つでさえ、こうまでしてエイジを狼狽させられるだけの力を『九尾の妖狐』は有しているというわけであった。
そしてエイジと視線を交わし合っている王琳もまた、そのエイジという一人の妖魔召士に対して、ソフィまでとは言わないが、少し前に戦ったコウエン以上の興味を抱いていた。
(俺には相手の目を見れば分かる。奴もまた『魔』の概念に対して、並々ならぬ思いを抱いているな。そして実際にその思いを『魔』の形として取り入れている者だろう。奴も魅力的ではあるが、それでも黒い羽を生やしたさっきの奴と比べては流石に劣るな。何せあの『帝楽智』殿の代名詞と呼べる魔力値で放った『魔力波』を完全に黒羽は同じ『魔力波』で圧倒していた。俺や神斗様には届いてはいないが『帝楽智』殿の総魔力値は、この山でも五指には確実に入る。そんな『帝楽智』殿をあっさりと倒した黒羽と戦う事は何よりも優先される……!)
(な、何を笑っているのだ!?)
エイジは王琳が自分を見て笑っていると思い込み、何とか表情を崩さずには居られたが、内心では狼狽させられる事となった。
どうやら王琳はソフィの事を考えて、知らず知らずのうちに口角を吊り上げてしまい、図らずも視線が交わっていたエイジを驚かす結果となったようである。
10
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。
いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。
元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。
登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。
追記 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる