最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,773 / 1,966
妖魔山編

1756.大魔王ソフィを崇拝する魔神の覚悟

しおりを挟む
「お主らに敵う敵わぬの話をしているのではない……が、もういい。そこまで他種族を見下して、自分本位な物事の考え方を押し通す以上、いくら我が言葉で説いたところで今更考えを改めるつもりはなさそうだ」

 ソフィが溜息交じりにそう告げると、帝楽智の横に立っていた『華親』の眉がぴくぴくと動き、苛立ち混じりに口を開いた。

「弱者の人間風情のお主がいったい何を言うつもりだったのだ? 自分がどれだけ強いと思っているつもりなのかは知らぬが、天狗の恐ろしさを理解しておらぬお主に、少しだけ痛い目に遭わせてやろうではないか!」

 華親はそう言うと、事の発端となった『邪未』の方を一瞥して小さく頷いて見せる。すると直ぐに『邪未じゃみ』は笑みを見せて頷きを返した。

 彼にしてみれば小生意気な人間とみられるソフィに、直接手を下せる他でもない好機を『華親』から許可が出された事が嬉しかったのだろう。それもこれだけ大勢の天狗達に見られている中で自分の強さをアピールする絶好の機会に恵まれたのである。喜びもひとしおという気持ちが、その表情に強くあらわれていた。

 そして場の空気が変わった事は、ソフィやヌーだけではなく、ここに居る全員が感じ取るのであった。

「もうよい。素直に非礼を詫びて『玉稿』殿たちに今後は手を出さぬと口にするのであれば、イバキ殿や、動忍鬼達に行った事を堪えようと思っていたが、どうやら頭の固い貴様らには何を言っても無駄のようだ。生かしておいても碌な事にならぬのであれば、我がこの手でその命を全て摘み取ってやる」

 第二形態になっている時とまでは言わないが、彼の言葉の端々には棘があり、苛立ちを募っている様子がよく伝わってくる。

 何より生かしておいても碌な事にはならない。自らの手で命を摘み取ると口にしている事からも普段通りではないという事は明白であった。

「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ、悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」

 ソフィの詠唱によって直ぐに『力の魔神』がこの『ノックス』の世界に顕現を果たすと、直ぐにソフィの元に転移を果たして慈しむような笑みを向けた。

 もうすでに魔神は前回の出現と共に、ソフィから預かっている『魔力』の大半の返還を済ませてある。そして自分を呼ぶという事は、この世界の崩壊に繋がる程の『魔力』を用いて、愚者共に対する粛清を行う事だろうとアタリもついていた。

 たとえ魔神は『聖域結界』を張らされる為だけに呼ばれているのだと理解していて尚、他の誰でもない『ソフィ』という絶対者に頼られている事に対して、喜びの感情を表現するかの如く、恍惚とした表情を浮かべていた。

「――」(あぁっ、ソフィ! 今度はどんな理由で私を呼んでくれたのかしら! また殺傷能力を最大限にまで高めた『魔法』をこの世界に放とうというのかしら? それとも世界そのものを消滅させるつもりかしら? うふふ、貴方が『天上界』を本気で相手にしようというのであれば、いつでも私は貴方の為にこの身を捧げる覚悟は出来ているわっ!)

 もはや『魔神』がソフィに対して抱く感情は『敬服』という言葉ですら生温い。

 彼がやるべき事に対して『盲信』や『妄信』をしているわけではなく、その先に待ち受ける出来事を全てしっかりと『魔神』自体が理解したその上で、絶対者であるソフィであれば全てが上手く行く事は間違いがないと、確定した未来を既に彼女は思い描いているかの如く、大魔王ソフィという下界に生きるいち『魔族』に対して、天上界の神々である『力の魔神』は『崇拝』しているのである。

 それは例えば大魔王ソフィに仇名す者が天上界に君臨する神々であろうとも、彼女の中での『絶対神』といえる大魔王ソフィに明確な敵意を向けるのであれば、その存在そのものを消し去る事に全力を注ぐつもりであり、あらゆる世界に存在する『神々の使徒』が、神の天啓てんけいを受けて尚、代弁者としてのその神託しんたくに於ける全行使命令を出してきたとしても、その全ての行使に抗い『神々』を相手にする事も辞さないと同義である。

 そしてすでに『力の魔神』は『リラリオ』の世界の調停者とされた神々の使徒であった『龍族』に対しても、ソフィと刃向かう事で抗ってみせている。

 もしこの世界であっても同様に、神々の使徒が立ち塞がろうとも『力の魔神』は、喜んでその神託を受けた使徒を敵に回すだろう。

 すでにこの場に居る『天狗族』が視界に入っている『力の魔神』は、ここに呼ばれた理由を大方理解し終えていた。

 つまり大魔王ソフィは、ここに居る人間ならざる『存在』の種族を打ち滅ぼす為に、その強大な力を示そうというのであろう。

 そこに自分が呼ばれた理由とは、この『ノックス』という世界の崩壊を防ぐために『魔神』たる所以の力の権利を私に指し示せと命令する為だろう。

 ――大魔王ソフィを崇拝する力の魔神は、その命令を今か今かと待ち続けるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...