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妖魔山編

1746.唐突な言葉

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 ウガマの言葉が掛かるまでは、コウエンの亡骸を見た衝撃から立ち直れていなかった退魔士達だったが、彼らもイダラマが選んだ退魔士なだけはあり、身の危険が迫れば直ぐに身体が反応したようで素晴らしい意思の疎通を見せて全員が無事に山の岩場へと身を隠す事に成功するのだった。

 全員が無事に岩陰に隠れられた事に加えて、退魔士の数人がしっかりと『結界』を継続してこの場に居る全員に対して施している事をウガマは頼もしく思い、そのまま眼下の空を移動している天狗達に視線を送る。

(一体何が起きているんだ? ここに来る前と今とでは全く山の様子が変わってしまった。それも天狗達の一体一体の表情が真剣そのものだ。これから奴ら天狗達の向かう先で間違いなく大規模な戦闘があるだろう。このまま山を下るのは非常に危険だが、しかしこのままここに居ても鬼人族の『妖魔神』にやられるのを待つだけだろうし、参ったな……八方塞がりだっ!)

 ウガマはまだ意識を失って目を閉じているイダラマを背負ったまま、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそう胸中で呟くのだった。

 そして天狗達はウガマが隠れている山の岩陰付近から、完全に移動を終えてその場から姿が見えなくなった。それを見計らってウガマ達は大きく溜息を吐きながら岩陰から顔を出し始めるのだった。

「何とか今回はやり過ごせたようだが、これでは山を下りるのは危険だ。ひとまず背後から追って来ている筈の『妖魔神』から身を隠しながら、ここら付近で時間を稼ごうと思うがどうだろうか?」

 そっとイダラマを大事そうに岩陰を背もたれにして下ろした後、ウガマは今後の行動指針を退魔士達に提案するのだった。

「確かにこのまま当初の目的通りに山を下りれば、あの大群の天狗達に見つかり兼ねませんね」

「し、しかしウガマ殿! 我々の『結界』ではあくまで山を下るまでの間の時間稼ぎに過ぎません。留まる事を目的とするのであれば、やはりイダラマ様のような妖魔召士の方々の『結界』でなければ、あのようなランクの妖魔を相手にやり過ごす事は不可能かと存じます……」

 ――そうなのである。

 あくまでこの場に居る退魔士達は、イダラマが護衛に選ぶ程に優れた者達ではあるが、それでも彼らは『妖魔召士』ではなく、単なるはぐれの退魔士に過ぎない。

 山の景色に紛れて短期間だけやり過ごすというのであれば、十分に彼らの『結界』は機能を保てはするだろうが、ランク8以上の『妖魔』が蔓延る『禁止区域』付近の『妖魔山』にいつまでも気配を隠して過ごすなど困難を通り越して不可能と断言が出来る程である。

 それもいまもこの場に追って来ているであろう『悟獄丸』は、そんな妖魔達を従える『妖魔神』なのである。

 今はまだ姿を見せてはいないようだが、それでもいつまでもこの場に残っていれば間違いなくやられるのは自明の理だろう。

「分かっている……。しかし今のイダラマ様は『魔力枯渇』寸前に陥って意識を失っている状態だ。無理やりに起こして『結界』を強いるというのはあまりに酷過ぎるというものだ。だからひとまずはイダラマ様が目を覚ますまで小さく移動を繰り返し、今回のように上手くやり過ごす他ないだろう。ここで欲を出して一気に山を下りようとすればそれこそ全滅は避けられぬ」

 ウガマの提案はあくまで生き残る可能性を少しだけ上げる程度の意味合いしかない。しかし元々がどうしようもない状況であった事に加えて、その指揮を執っていたイダラマが意識を失い、護衛だけで『禁止区域』を移動している状態なのである。

 これ以上にもっといい案を出せと、この場でウガマに言うのは余りにも酷でお門違いと言わざるを得なかった。そしてそれを分かっている以上、他の護衛隊達もウガマの案に対して何も言わずに首を縦に振って頷くのであった。

「――ああ、それならもっとがあるぞ?」

 しかしウガマの提案に護衛全員が乗ろうとしたその時、何もない空間から突如として影が出現したかと思うと、その場所から唐突に声が上がるのだった。

 ……
 ……
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