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妖魔山編
1744.神斗の推測と可能性
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「そ、そんな事があったのですか……」
事情を妖魔神である神斗から直に説明された七耶咫は、信じられないといった表情を浮かべていたが、やがては納得したかのようにそう口にするのだった。
その七耶咫の様子はまだありありと疑念が残っていると言える様子ではあったが、それでも思い当たる節があったのか、それとも神斗や王琳の言葉に納得せざるを得なくなったのか、ひとまずこの場では頷いてみせる彼女であった。
「俺がお前に神斗様達の元に案内させた時は、お前の様子におかしい点は見られなかったが、あの時の事はお前自身は覚えているのか?」
「は、はい、それは……。その時に人間達と会話を交わした事も鮮明に覚えています。でも『妖魔神』の方々が御座す山の頂に入った辺りから記憶が途切れています」
七耶咫は寝かされている布団の上で右手を頭にあてながら、当時の事を少しずつ考えながら言葉に出し始めるのだった。
「君が私たちのところへ来た後、何度か私とも会話を行った筈だけど、その時は普段通りの君のように思えたんだけどね。その時の事も覚えてはいないのかい?」
「はい……。私は神斗様と会話をした覚えがないんです。私が最後に覚えている事ですが、人間達が独自に『結界』を張り始めた時に妖魔達が襲ってこない理由を考え始めていたので、お前達は王琳様の客となったから襲われなくなったのだと説明したのが記憶にある最後の会話のようです」
神斗はその七耶咫の言葉を聴いて、顎を右手で擦りながら神妙に頷いてみせた。
「七耶咫を利用したその人間は私にこう言った。実際には君を操っているというわけではなく、君の精神内の内側に小さな穴を開けて中に入り同居を行ってたのだと。つまり君の意識がある時からその人間もまた意識をもったままで君をじっと観察していたのかもしれないね。あくまでこれは推測だけどさ」
「え――っ!?」
流石に七耶咫もその神斗の言葉に薄ら寒さを感じたようで、両手で自分の腕を必死に抱くように組み始めるのだった。
自分以外の存在が、彼女の身体の中に居てじっと観察していたと説明されてしまえば、その怯えも当然といえるだろう。
「外側から操るのではなく、本人に気づかれぬままに精神内に入り込んで、更には意識を持たれたままで、見る聞く感じるといった五感を勝手に共有されていたとなれば、これはもう人間の起こせる所業の範疇を越えていますな……。現実的に考えて本当にそんな事が可能なのでしょうか?」
流石に九尾の王琳もこの荒唐無稽すぎる話に、疑問符を浮かべながらそう神斗に尋ねるのだった。
「具体的な方法は分からない。ただ実際に彼と対峙した時に感じた想像を絶する程の『魔力値』は本物だったね。それと見た事のない術式、確か『空間魔法』と彼は口にしていたようだけど、その『空間魔法』に繋げる技法として『透過』が使われていたんじゃないかと私は考えている」
「と、透過で……? ぁっ――」
ふと王琳はその時、最近になって『透過』技法の詳しい説明をコウエンと名乗っていた人間に説明したなと思い出すのだった。
「これも私の推測の域に過ぎないのだけど、精神内というものを傍から中を覗く事は決して出来ないが、空間干渉領域に至る『透過』技法を自在に操る事が出来るのであれば、その目に見えない位置に対して『魔力』を伝達する事と同様に、自らを表現とする『個』となる存在の一部分を己の『魔力』に付与させる感覚で付随させる事も可能なのかもしれない」
唖然とした表情を浮かべる王琳と、すでに自分の想像を越える話についていけなくなってしまい、その視線だけを神斗に向ける七耶咫だが、神斗はそんな両名を見返しながら更に言葉を続ける。
「『呪い』を用いようとしていた青髪の少年を目の前から消し去り、更に自分も居る筈のこの『三次元空間』から目での観測を行わずに、任意に送りたい先へと移動を行う事を可能とするのが本当であるならば、私の『透過』技法の研鑽の更に先にある領域、まさに『空間』干渉領域、名称的にも『空間魔法』と『透過』の干渉領域の名も似たものだし、繋がりがあるのかもしれないね?」
「た、短命な種族である筈の人間が、我々のような長寿種族が長年かけて辿り着けていない『透過』の『空間』干渉領域に辿り着き、そのように自在に操っているというのであれば、一体どのような才能を持って生まれてきたのでしょうな……」
九尾の妖狐である王琳や、妖魔神である神斗程に長寿なのであれば、少しくらい才能で劣っていてもいずれはその先に辿り着く事が出来た存在の領域に追いつき、更にはその先へと歩いていく事は可能の筈ではあるのだが、これだけ『魔』の概念の研鑽を重ねたこの場の両者が、まだ辿り着くどころかその到達の仕方すら見当もついていない、本当の『空間』干渉領域に辿り着いているのが、短命な筈の種族である人間だと言うのだから、生まれ持った資質だけでみれば、本当に『シギン』は化け物なのだろう。
――もし、過程の話ではあるが、そんな才能と資質を持った存在が、彼らと同様に長寿な生物であったのならば、一体その存在は神斗達よりどれくらい先へと進む事が可能だったのだろうか。
(ふ、ふふっ……! これだから人間は侮れないのだ! 決めた、今決めたぞ! 俺は今回の一件が全て片付いた後は山を下りて人里へ行く。こんな山で待っていても仕方がない、本当の才能を持った人間を見つけあげて、この俺直々にそいつを育ててやる。そしていずれは他でもない俺自身が相手をしてやるのだ!)
意欲的な目を浮かべた王琳を見て、神斗は彼が何を考えたのかにある程度の見当がついたようで、こちらも嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。
……
……
……
事情を妖魔神である神斗から直に説明された七耶咫は、信じられないといった表情を浮かべていたが、やがては納得したかのようにそう口にするのだった。
その七耶咫の様子はまだありありと疑念が残っていると言える様子ではあったが、それでも思い当たる節があったのか、それとも神斗や王琳の言葉に納得せざるを得なくなったのか、ひとまずこの場では頷いてみせる彼女であった。
「俺がお前に神斗様達の元に案内させた時は、お前の様子におかしい点は見られなかったが、あの時の事はお前自身は覚えているのか?」
「は、はい、それは……。その時に人間達と会話を交わした事も鮮明に覚えています。でも『妖魔神』の方々が御座す山の頂に入った辺りから記憶が途切れています」
七耶咫は寝かされている布団の上で右手を頭にあてながら、当時の事を少しずつ考えながら言葉に出し始めるのだった。
「君が私たちのところへ来た後、何度か私とも会話を行った筈だけど、その時は普段通りの君のように思えたんだけどね。その時の事も覚えてはいないのかい?」
「はい……。私は神斗様と会話をした覚えがないんです。私が最後に覚えている事ですが、人間達が独自に『結界』を張り始めた時に妖魔達が襲ってこない理由を考え始めていたので、お前達は王琳様の客となったから襲われなくなったのだと説明したのが記憶にある最後の会話のようです」
神斗はその七耶咫の言葉を聴いて、顎を右手で擦りながら神妙に頷いてみせた。
「七耶咫を利用したその人間は私にこう言った。実際には君を操っているというわけではなく、君の精神内の内側に小さな穴を開けて中に入り同居を行ってたのだと。つまり君の意識がある時からその人間もまた意識をもったままで君をじっと観察していたのかもしれないね。あくまでこれは推測だけどさ」
「え――っ!?」
流石に七耶咫もその神斗の言葉に薄ら寒さを感じたようで、両手で自分の腕を必死に抱くように組み始めるのだった。
自分以外の存在が、彼女の身体の中に居てじっと観察していたと説明されてしまえば、その怯えも当然といえるだろう。
「外側から操るのではなく、本人に気づかれぬままに精神内に入り込んで、更には意識を持たれたままで、見る聞く感じるといった五感を勝手に共有されていたとなれば、これはもう人間の起こせる所業の範疇を越えていますな……。現実的に考えて本当にそんな事が可能なのでしょうか?」
流石に九尾の王琳もこの荒唐無稽すぎる話に、疑問符を浮かべながらそう神斗に尋ねるのだった。
「具体的な方法は分からない。ただ実際に彼と対峙した時に感じた想像を絶する程の『魔力値』は本物だったね。それと見た事のない術式、確か『空間魔法』と彼は口にしていたようだけど、その『空間魔法』に繋げる技法として『透過』が使われていたんじゃないかと私は考えている」
「と、透過で……? ぁっ――」
ふと王琳はその時、最近になって『透過』技法の詳しい説明をコウエンと名乗っていた人間に説明したなと思い出すのだった。
「これも私の推測の域に過ぎないのだけど、精神内というものを傍から中を覗く事は決して出来ないが、空間干渉領域に至る『透過』技法を自在に操る事が出来るのであれば、その目に見えない位置に対して『魔力』を伝達する事と同様に、自らを表現とする『個』となる存在の一部分を己の『魔力』に付与させる感覚で付随させる事も可能なのかもしれない」
唖然とした表情を浮かべる王琳と、すでに自分の想像を越える話についていけなくなってしまい、その視線だけを神斗に向ける七耶咫だが、神斗はそんな両名を見返しながら更に言葉を続ける。
「『呪い』を用いようとしていた青髪の少年を目の前から消し去り、更に自分も居る筈のこの『三次元空間』から目での観測を行わずに、任意に送りたい先へと移動を行う事を可能とするのが本当であるならば、私の『透過』技法の研鑽の更に先にある領域、まさに『空間』干渉領域、名称的にも『空間魔法』と『透過』の干渉領域の名も似たものだし、繋がりがあるのかもしれないね?」
「た、短命な種族である筈の人間が、我々のような長寿種族が長年かけて辿り着けていない『透過』の『空間』干渉領域に辿り着き、そのように自在に操っているというのであれば、一体どのような才能を持って生まれてきたのでしょうな……」
九尾の妖狐である王琳や、妖魔神である神斗程に長寿なのであれば、少しくらい才能で劣っていてもいずれはその先に辿り着く事が出来た存在の領域に追いつき、更にはその先へと歩いていく事は可能の筈ではあるのだが、これだけ『魔』の概念の研鑽を重ねたこの場の両者が、まだ辿り着くどころかその到達の仕方すら見当もついていない、本当の『空間』干渉領域に辿り着いているのが、短命な筈の種族である人間だと言うのだから、生まれ持った資質だけでみれば、本当に『シギン』は化け物なのだろう。
――もし、過程の話ではあるが、そんな才能と資質を持った存在が、彼らと同様に長寿な生物であったのならば、一体その存在は神斗達よりどれくらい先へと進む事が可能だったのだろうか。
(ふ、ふふっ……! これだから人間は侮れないのだ! 決めた、今決めたぞ! 俺は今回の一件が全て片付いた後は山を下りて人里へ行く。こんな山で待っていても仕方がない、本当の才能を持った人間を見つけあげて、この俺直々にそいつを育ててやる。そしていずれは他でもない俺自身が相手をしてやるのだ!)
意欲的な目を浮かべた王琳を見て、神斗は彼が何を考えたのかにある程度の見当がついたようで、こちらも嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。
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