上 下
1,750 / 1,906
妖魔山編

1733.天魔の命により集う、天従十二将

しおりを挟む
「あ、イツキ様。こんなところに居たんですね、探しましたよ!」

 イツキが新たな決意を抱いた時、そんな彼の姿を見つけたユウゲ達が、家の下から屋根を見上げながら声を掛けるのだった。

「ああ、少し色々と一人で考えたい事があったからな。よっと……」

 イツキはユウゲと傍に居るヤエの方に視線を向けてそう告げると、屋根から飛び降りるのだった。

「そうだったのですね。出来れば一声掛けて頂いてからにして欲しかったところです。なぁ?」

「はい。ここは安全そうに思えますが、それでもあの『妖魔山』の中なのですから……」

 ユウゲと共にイツキに苦言を呈するヤエだが、そのヤエのイツキに対する言葉遣いが、退魔組に居た頃よりは幾分柔らかなものになっていた。

 どうやらヤエもまたイツキの本性を垣間見た事で、退魔組の頭領補佐であった頃のままのイツキに対する接し方のままではまずいと考えたのだろう。

「ああ、悪かった。さて、それじゃもう少し中で呑み直すとするか。てかあの化け物連中もまだ呑んでやがるのか?」

「ええ、そのようです。すでにソフィ殿達は我々の数倍近い量を呑んでおりましたが、全く勢いが衰える様子がありません……」

「まじでアイツらは色んな意味で化け物だな……」

 この『ノックス』の世界の酒は非常に度数が高く、酒豪と呼ばれる者達であっても、これだけの時間飲み続けていれば、そのままぶっ倒れてもおかしくはない程なのであった。

 そうだというのに勢い衰えず、ユウゲ達の数倍の量を飲み続けているというのだから、イツキが化け物と揶揄するのも理解が出来るといえた。

「まぁいいや。実際に近くであのヌーの野郎の様子でも見てやるとするか……ん?」

 そう言って笑みを浮かべたイツキだが、唐突に遠くの方の空から迫ってくる『魔力』を感知して、そちらの方に視線を向け始める。

「どうなさいましたか? イツキ様……、むっ!?」 

 そしてイツキから少し遅れてユウゲが同じ方角の空を見上げる。

「?」

 あくまでイツキやユウゲ達は『魔力』を感知したにすぎず、その目に映る視界には見えてこない為に、二人が唐突に空を見上げた事でつられてそちらを見たが、魔力感知が行えないヤエには何も分からずに首を傾げるだけだった。

「おい、ユウゲ。直ぐにバケモン共に知らせに戻るぞ」

「は、はい! この数はやばいです……!」

 空を見上げていた二人はそう言うと、直ぐに踵を返してソフィ達の居る玉稿の家へと走り出すのだった。

「ま、待ってください! 一体何が……」

 ヤエはわけも分からず走り出した二人の背中を慌てて追いかけるのであった。

 ……
 ……
 ……

 時は少しだけ遡り、ソフィ達が集落で宴会を始める少し前に、天狗の『帝楽智ていらくち』の元に華親の手の者である『目』と呼ばれる見張りの天狗から報告が届いた。

 麓の方から山を登ってきていた人間数名と、その人間を偵察する鬼人族が着かず離れずの位置を保ちながら鬼人族の集落がある縄張りを移動しているという報告であった。

 当然その麓から登ってきている者とはソフィ達の事であり、赤い狩衣を着ているエイジやゲンロクの姿も確認されており、帝楽智は直ぐにこの者達がイダラマの言っていた足止めの対象だろうとアタリをつけたのだった。

「直ぐに華親と『天従十二将てんじゅうじゅうにしょう』たちに集まるように伝えろ!」

「「ははっ!!」」

 天魔の帝楽智の命令に報告を行った上位天狗たちは、直ぐに副頭領の『華親かしん』と天従十二将達に知らせに向かうのだった。

「こんなにも早く人間達が姿を見せるとは……。これはやはりあのイダラマとかいう人間に繋がりを持つ者で間違いあるまい……」

 帝楽智は忌々しいとばかりに舌打ちをしながらも『式』の契約に逆らえず、仕方ないとばかりに命令に従い天狗の幹部達全員を集めるのだった。

 天魔の号令で集められた『天従十二将てんじゅうじゅうにしょう』。

 それぞれが妖魔ランク『8』から『8.5』に到達している大天狗達である。

 天魔が決めた側近達でそれぞれ十二体の天狗達は『無叡むえい』『行悪ぎょうあく』『徳果とくか』『具現ぐげん』『歪完ゆがん』『触心しょくしん』『学得がくとく』『甘青かんせい』『煩欲ぼんよく』『邪未じゃみ』『担臨たんりん』『寿天じゅてん』という名で呼ばれている。

 当然にこの『天従十二将』の中でも明確に序列は存在しており、その基準となるのは力の強さや年齢などが加味された上で天魔によって定められている。

 それなりに若い大天狗達である『無叡』『行悪』『徳果』『具現』『歪完』の五体は『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』と呼ばれる序列名を冠してこの五体は同列として扱われている。

 次にその五体の天狗達より『呪法じゅほう』の力が強力な者達で、この『触心』『学得』の二体は『中従二孫ちゅうじゅうにそん』と呼ばれる序列名を冠しており、こちらの両名が『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』よりくらいが上の二体とされている。

 更にその『中従二孫ちゅうじゅうにそん』の触心と学得の二名より位が高いのが、大天狗の『甘青』『煩欲』『邪未』で、こちらの序列名を『後従三子ごじゅうさんし』と呼ばれている。

 そして最後に『担臨』『寿天』の二体は『世来二親せらいにしん』と呼ばれる序列名を冠していて、現時点で『天魔てんま』と『華親かしん』を除く天狗の最大勢力の座に居る大天狗である。

 大天狗とされる者達の中でも『前従五玄孫』たちは、その全員が妖魔ランク『8』。

 次に『中従二孫』の両名が妖魔ランク『8』に達していると言われており、その上の序列に居る『後従三子』である『甘青』『煩欲』『邪未』の三体は、限りなく『8.5』に近い天狗達である。

 最後の『世来二親』の序列名を冠する『担臨』と『寿天』は、妖魔ランクでいえば『9』に限りなく近い者達だが、それでも区分扱いは『8.5』の範疇に収まっている。

 しかしこの妖魔ランクという指標は、あくまで妖魔召士達が位置付けた物であり、実際の戦闘においては『後従三子』までの『8.5』の者達までならば、多少は前後する可能性も否めない。

 ――だが、最後の『世来二親せらいにしん』の序列名を冠する『担臨』と『寿天』だけは、まず間違いなく現存する他の天狗達と序列が入れ替わることがない、まさに天狗の最上の位置に近しい強さを誇る者達であった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...