最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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妖魔山編

1727.感謝の言葉

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 ソフィ達が百鬼なきりたちの様子を見ていると、その視線に気づいた玉稿ぎょっこうが咳払いを入れた後に徐にソフィ達に向き直った。

「お主ら、すまぬな。もう会えぬと思っておった者が、こうしてまたワシの前に姿を見せてくれたものだから……」

「クックック、気にするでないぞ。我も今のお主の気持ちをよく理解が出来るのでな」

 久方ぶりに再会した百鬼に対して感情を隠す事が出来なかった玉稿ぎょっこうは、ようやく気持ちに整理が出来たことで周囲を見渡す余裕が出来た為、他の者達を待たせてしまっていたという事実に謝罪を行おうとしたが、その気持ちを汲み取ったソフィが周囲へのフォローとばかりに告げたのだった。

 しかし単なる玉稿のフォローというわけではなく、ソフィの玉稿の気持ちが分かるという言葉は決して嘘ではなかった。

 百鬼のようにある日突然に居なくなったというわけではないが、それでも数千年に渡って会う事が出来なかったユファと再会を果たした時、そのユファのように涙を流すまではいかなかったが、少なからずソフィも感傷的な気持ちを抱いた。

 そこに急に居なくなった者が元気に顔を見せたのだという事を加味すれば、他の事情を差し置いてでも優先したくなるというのは想像に難しくない話であった。

「そうか……、ん?」

 ソフィの同調する言葉に頷きかけた玉稿だが、改めてソフィを見た時に何かに気づくような素振りを見せた。

「お主は人間か?」

 これまでこの世界では一目見ただけでソフィを人間ではないと看破したのは居なかったが、玉稿はソフィをこの場で人間ではないかもしれないと違和感を持った様子だった。

「いや、我やここに居るこやつらも人間ではない。こやつは『死神』で我らは『魔族』だ」

 ソフィが素直に玉稿に素性を明かすと、玉稿の目が見開いた。

「族長、その御方がソフィさんだよ!」

 イバキの隣に立っていた動忍鬼が、唐突に話に入ってくるのだった。

「おお……! では貴方が人間のタクシンとかいう者から、この子を救ってくれたという御方か!」

 どうやらすでに動忍鬼からソフィの事を聞かされていたのだろう。ソフィを見る目がより優しくなったかと思うと、言葉遣いも一層丁寧になる玉稿だった。

「貴方のおかげでこの子は死なずに済んだと聞いております。貴方とは一度どうしても会いたかった……」

 玉稿は百鬼にしてみせたようにソフィを手を両手で包むと、感謝の気持ちを伝えるかのように頭を下げるのだった。

「いや、我自身は大した事は何もしておらぬ。タクシンという人間から直接動忍鬼を救ったのは、ここに居るヌーなのだ。我はむしろ動忍鬼の気持ちを蔑ろにしてしまっ……――」

「そんな事ない! ソフィさんのおかげで私は命だけじゃなくて、精神も救ってもらえた! ここにまた戻って来ようと思えたのは他でもないソフィさんのおかげなんだ!」

 ソフィがヌーの功績を口にしようとするが、動忍鬼がそのソフィの言葉を遮るようにそう言葉を発した。どうやら動忍鬼にとってもあの時の出来事は非常に大きな事だったのだろう。ソフィではなく、彼以外の者が称賛される事に不満を持っている様子であった。

 そしてソフィにとっては加護の森での発言によって、これまで動忍鬼がどういう思いで報復を行おうと人里へ向かっていたかを裏路地でエイジとの会話中に思い知り、出過ぎた真似をしたと個人的には謝りたいと考えていたのだったが、今の動忍鬼の様子に目を丸くして驚くのだった。

「ふんっ! そいつの言う通りだ。俺は別にそいつを助けようと思ってタクシンを殺ったわけじゃねぇ。単にあの野郎をぶっ飛ばしたかったから勝手に手を出しただけだ、決して勘違いするんじゃねぇぞ?」

 そして自分が褒められる事をしたつもりはないと、改めてこの場で断言して見せるヌーに、ソフィは静かに溜息を吐き、玉稿はヌーの態度に何か思うところがったのか目を細めた後、感心するように頷くのだった。

「なるほど、なるほど……。ソフィ殿だけではなく、貴方も大した御方のようですな」

「ああ? 何でそうなる」

 そう言って玉稿がヌーを褒めると、ヌーは話を聞いていたのかとばかりに玉稿を訝し気に睨みつけた。

「しかしどういう思惑があったにせよ、そのタクシンとかいう人間の強引な術の契約を解こうと動いて下さったのは確かな事だ。ソフィ殿にヌー殿、鬼人族を代表して改めて感謝する。本当にありがとう」

 そう言って族長の玉稿が頭を下げると、側近の鬼人族に『動忍鬼』もまた改めてソフィに頭を下げるのだった。

「ちっ! 俺は関係ねぇって言ってんのによ。俺はそんな風に感謝されんのがきれぇなんだ。すべて御人好しのコイツのせいなのによ!」

「――」(おいおいヌー? 柄にもなく、照れてんじゃん。悪魔みたいなお前は恨まれる事には慣れていても、こうして褒められるのは苦手みてぇだ……――わぁっ!)

「うるせぇ!!」

「――」(わぁ、何するんだ! やめろよぉ!)

 テアの言う通りに他者から褒められる事に慣れてないせいで、照れ隠しにテアのツインテールの髪の毛をわしゃわしゃと搔き乱すヌーであった。
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