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妖魔山編
1721.天魔の天従十二将
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シギンがまだ七耶咫に憑依している状態でイダラマ達を山の頂へと案内していた頃、そのイダラマによって強引に契約を結ばれた天狗の『帝楽智』は、山の中腹付近にある自分達の縄張り内にある建物に『天従十二将』と呼ばれる天狗の最高幹部達を招集していた。
「くそっ、やられたっ! あんな面妖な術を使う人間がまだ現世に残っていたとは思わなかった……!」
イダラマの言葉を思い出して、忌々しそうに唇を噛みながら帝楽智はそう吐き捨てるのだった。
「天魔様、少し落ち着きなされ……」
この部屋に集められた天狗はその全員が天狗の魔王である『帝楽智』の側近達であり、それぞれが各々の部隊を持つ大幹部達であるが、苛立ちを募らせている『帝楽智』に声を掛けた男は、そんな大幹部の中で一番の古参にして最側近を務める『華親』であった。
元々は軍の司令官も務めていた過去を持ち、現在ではその座を『座汀虚』に譲り渡して、ほとんど隠居の身であったのだが、再び『天魔』に召集された事で『座汀虚』の事情を知り、再びこうして表舞台に姿を現す事となったのだった。
「あ、ああ……。すまぬな華親。しかし妾は悔しいのだ……!」
「分かっております……。それにしても再び『天魔』様が、人間と式契約を果たされる事になるとは思いませんでした」
帝楽智は過去に『妖魔召士』と『式』の契約を交わした事があるが、その時は帝楽智が認めた上での正式な契約であった。
今でも一度目の『契約』時の事は鮮明に覚えていて、その当時の契約を交わした人間が、生を全うする最期の時の事を覚えている。
人間の寿命は短く、天狗からすればたった数十年単位の出来事ではあったのだが、それでも帝楽智は人間という種族を好意的に思い、自分が『式』となって人間に協力した事を誇りとさえ考えていたくらいであった。
それから幾百年が経った少し前であっても、彼女は変わらずに人間を好ましく思って『サイヨウ』という妖魔召士とも親しく関係を続ける事が出来ていたのである。
サイヨウがこの世界から居なくなったという事を知った今でも、もし彼が再びこの世界に戻ってきた時、彼が望むのであれば、自分自身が再びサイヨウと契約をしてもいいとまで考えていたくらいなのであった。
しかしそれも叶わなくなった。それも無理やりに契約を行った人間の一派は、大事な片腕と呼べる『座汀虚』を死に至らしめたのである。帝楽智が納得出来ないのは当然の事であった。
だが、いくら望んでいなくとも、一度『式』にその身を投じる事になってしまえば『契約』によって帝楽智は従わされてしまう。
それもあのイダラマという人間が下した命令は、自分が好ましく思っている人間達がこの山に近づけば、それを止めさせようというものであった。
言葉では足止めと口にしていたが、この『妖魔山』に登ろうとする人間の目的など限られている。
――つまり登ってくる人間を殺せと告げられても同義なのであった。
「天魔様、我々も人間と直接契約を交わしたことがないのですが、その人間達との『式』『契約』とは、何処まで効力が及ぶものなのでしょうか?」
この場に集められた『天従十二将』の一体にして、帝楽智の居る場所の対極の位置に座っている『無叡』という大天狗が、天魔に対して質問を行うのであった。
「そうだな……。あまりに抽象的な命令に対しては、ある程度自制を効かせられるのだが、今回のあの人間が命令を下したもののように、近づけるなと断言されてしまえばそれを優先する形で行動せざるを得ないな。見て見ぬふりをするような事があれば、何らかの縛りが契約者である妾に下るであろうな。これまで妾は契約者の命令に背くような真似をしてこなかったが為に、妾もそこまで詳細はよく分かっておらぬ」
「そうですか……」
返ってきた帝楽智の言葉に『無叡』は、難儀な事だとばかりに溜息を吐くのだった。
「こうなってしまっては仕方がないでしょうな。あの人間の都合の良いように動かされるのは癪ではありますが、天魔様に降りかかる『契約』の災いの事を考えれば、ここは従っておいた方がよいでしょう。そもそも山の中腹まで人間が来ることなど非常に稀な事なのですから、そこまで悩む必要もありますまい」
無叡と帝楽智のちょうど間くらいの場所に座る『歪完』という天狗が、ここは仕方ないと考えて、一度は逆らう真似をせずに受け入れてみてはどうかとばかりに帝楽智に告げるのだった。
「まぁ、そうするしかないじゃろうな。歪完の言う通り、これに関しては抗っても栓無い事でもあるからな」
諦めるかのように帝楽智がそう口にすると、他の天狗達も覆す言葉を持ち合わせてはいないようで、天魔様がお決めになられたのであれば、人間の言葉に従うのは納得が出来ないが仕方がないと考えたようであった。
「では天魔様、ひとまずは妖魔神様の元に向かった人間達の状況の把握を優先させましょう。すでに目の者を数体奴らにつけております故」
「おお、そうか。うむ、そうだな! どうせあやつらが死んでしまえば、この契約も消えてなくなるじゃろうし、そこまで深く考える必要もないかもしれぬな」
無叡の言葉に同意した帝楽智は、隣に立っていた華親の報告に気分を少しだけ晴れさせて、天従十二将の面々に笑みを向けてそう口にするのだった。
……
……
……
「くそっ、やられたっ! あんな面妖な術を使う人間がまだ現世に残っていたとは思わなかった……!」
イダラマの言葉を思い出して、忌々しそうに唇を噛みながら帝楽智はそう吐き捨てるのだった。
「天魔様、少し落ち着きなされ……」
この部屋に集められた天狗はその全員が天狗の魔王である『帝楽智』の側近達であり、それぞれが各々の部隊を持つ大幹部達であるが、苛立ちを募らせている『帝楽智』に声を掛けた男は、そんな大幹部の中で一番の古参にして最側近を務める『華親』であった。
元々は軍の司令官も務めていた過去を持ち、現在ではその座を『座汀虚』に譲り渡して、ほとんど隠居の身であったのだが、再び『天魔』に召集された事で『座汀虚』の事情を知り、再びこうして表舞台に姿を現す事となったのだった。
「あ、ああ……。すまぬな華親。しかし妾は悔しいのだ……!」
「分かっております……。それにしても再び『天魔』様が、人間と式契約を果たされる事になるとは思いませんでした」
帝楽智は過去に『妖魔召士』と『式』の契約を交わした事があるが、その時は帝楽智が認めた上での正式な契約であった。
今でも一度目の『契約』時の事は鮮明に覚えていて、その当時の契約を交わした人間が、生を全うする最期の時の事を覚えている。
人間の寿命は短く、天狗からすればたった数十年単位の出来事ではあったのだが、それでも帝楽智は人間という種族を好意的に思い、自分が『式』となって人間に協力した事を誇りとさえ考えていたくらいであった。
それから幾百年が経った少し前であっても、彼女は変わらずに人間を好ましく思って『サイヨウ』という妖魔召士とも親しく関係を続ける事が出来ていたのである。
サイヨウがこの世界から居なくなったという事を知った今でも、もし彼が再びこの世界に戻ってきた時、彼が望むのであれば、自分自身が再びサイヨウと契約をしてもいいとまで考えていたくらいなのであった。
しかしそれも叶わなくなった。それも無理やりに契約を行った人間の一派は、大事な片腕と呼べる『座汀虚』を死に至らしめたのである。帝楽智が納得出来ないのは当然の事であった。
だが、いくら望んでいなくとも、一度『式』にその身を投じる事になってしまえば『契約』によって帝楽智は従わされてしまう。
それもあのイダラマという人間が下した命令は、自分が好ましく思っている人間達がこの山に近づけば、それを止めさせようというものであった。
言葉では足止めと口にしていたが、この『妖魔山』に登ろうとする人間の目的など限られている。
――つまり登ってくる人間を殺せと告げられても同義なのであった。
「天魔様、我々も人間と直接契約を交わしたことがないのですが、その人間達との『式』『契約』とは、何処まで効力が及ぶものなのでしょうか?」
この場に集められた『天従十二将』の一体にして、帝楽智の居る場所の対極の位置に座っている『無叡』という大天狗が、天魔に対して質問を行うのであった。
「そうだな……。あまりに抽象的な命令に対しては、ある程度自制を効かせられるのだが、今回のあの人間が命令を下したもののように、近づけるなと断言されてしまえばそれを優先する形で行動せざるを得ないな。見て見ぬふりをするような事があれば、何らかの縛りが契約者である妾に下るであろうな。これまで妾は契約者の命令に背くような真似をしてこなかったが為に、妾もそこまで詳細はよく分かっておらぬ」
「そうですか……」
返ってきた帝楽智の言葉に『無叡』は、難儀な事だとばかりに溜息を吐くのだった。
「こうなってしまっては仕方がないでしょうな。あの人間の都合の良いように動かされるのは癪ではありますが、天魔様に降りかかる『契約』の災いの事を考えれば、ここは従っておいた方がよいでしょう。そもそも山の中腹まで人間が来ることなど非常に稀な事なのですから、そこまで悩む必要もありますまい」
無叡と帝楽智のちょうど間くらいの場所に座る『歪完』という天狗が、ここは仕方ないと考えて、一度は逆らう真似をせずに受け入れてみてはどうかとばかりに帝楽智に告げるのだった。
「まぁ、そうするしかないじゃろうな。歪完の言う通り、これに関しては抗っても栓無い事でもあるからな」
諦めるかのように帝楽智がそう口にすると、他の天狗達も覆す言葉を持ち合わせてはいないようで、天魔様がお決めになられたのであれば、人間の言葉に従うのは納得が出来ないが仕方がないと考えたようであった。
「では天魔様、ひとまずは妖魔神様の元に向かった人間達の状況の把握を優先させましょう。すでに目の者を数体奴らにつけております故」
「おお、そうか。うむ、そうだな! どうせあやつらが死んでしまえば、この契約も消えてなくなるじゃろうし、そこまで深く考える必要もないかもしれぬな」
無叡の言葉に同意した帝楽智は、隣に立っていた華親の報告に気分を少しだけ晴れさせて、天従十二将の面々に笑みを向けてそう口にするのだった。
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