最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
1,729 / 1,985
妖魔山編

1712.仕方のない事

しおりを挟む
『妖魔山』に足を踏み入れたソフィ達は、百鬼の案内で迷う事もなく山を登っていく。

 ここまでは『エイジ』や『ゲンロク』による『結界』によって、山に居る妖魔達から見つかる事もなく安全に先へと進める事が出来ていた。

 まだまだ山の麓といっても差し支えない道中ではあるが、すでにユウゲ達のような『退魔組』に属する『特別退魔士とくたいま』達が見張りを行っていた地点からはだいぶ進んでおり、全体的には中腹と呼べるところまでは辿り着く事が出来ていたのだった。

 そして丁度この辺りで先に妖魔山へと登ってきていた『イダラマ』や『エヴィ』達が、鬼人たちにその存在を見つけられた地点であり、つまりはここからが『妖魔召士』の張る『結界』であっても、その存在を妖魔達に悟られるランク帯に入るという事でもあった。

「そろそろ俺達『鬼人』の縄張りに入る。まだまだ目的の集落は遠いが、ここら辺からは同胞達の見張りも見かける頃合いだと思う。俺が居る事が分かれば鬼人の同胞達は攻撃をしてこない筈だが、一応は注意をしておいてくれ」

 ここまで道案内をしてくれていた百鬼が、後ろを振り返って一行にそう告げると、各々は首を縦に振って頷くのだった。

「よくよく考えれば我達は、人間と直接契約を交わしていない妖魔達を見るのは今回が初だな」

 ソフィがそう告げると、どうやらその事実に皆が色々と思うところがあったようで、他の者達も足を止めてソフィの方を振り向くのだった。

「ふむ、そういえばソフィ達は別世界から訪れたのだったか。本来は『式』となっている妖魔よりも野良の妖魔の方が多いのだがな……」 

 ソフィの言葉にエイジが直ぐにそう返事をするのだった。

「ククッ! それは仕方ねぇよ、エイジ。何せ俺やソフィはな、この世界に来て直ぐに『妖魔』共を従える人間達に襲われたり、テアを攫いやがった馬鹿共のアジトでてめぇら妖魔召士にも襲われて、更には加護の森とかいうところでもヒュウガって野郎が使役した『式』共に襲われた。それにこいつに至ってはお前らの町や、セルバスを襲いやがった連中に次から次に狙われやがったんだ。ハッキリいって契約を行っていない妖魔がこの世界に本当に居るのかと思うくらい、俺達にとっちゃ『式』にされてやがる連中しか見た事がねぇよ!」

 そう言ってヌーは笑っているが、その言葉には色々と人間、それも妖魔召士であるエイジやゲンロクに向けた皮肉がこれでもかと込められていたのだった。

 どうやらセルバスを妖魔召士達に狙われた事で彼もまた、腹に据えかねる思いがあったという事だろう。

 最終的には無事に生き返る事が出来たセルバスだが、もしソフィが居なければ、妖魔召士達を直接処理したのは、この大魔王ヌーであったことは間違いない。

 普段の彼はセルバスと言い争いをしたり、彼を小馬鹿にする事もあるが、それでもセルバスが襲われてしまえば、その狙ってきた相手を消滅させる程度には、常にセルバスの事を気に掛けている。

 大魔王ヌーの中ではテア程にはないにせよ、セルバスの事も大事な仲間だと認識しているようであった。

「ソフィ殿にヌー殿、本当に迷惑をかけてすまなかった。それは大半がワシらの組織に関係がある事だ……」

 ゲンロクはそう言って本心から謝罪を行うのだった。

「ゲンロク殿、気にしないでくれ。そもそも『煌鴟梟こうしきょう』のアジトの事や、加護の森の事もヒュウガとやらが起こした出来事だったのだろう? お主が直接悪いというわけではないのだしな」

「かたじけない……」

 ゲンロクがそう言って更にソフィに頭を下げている背後で、イツキとユウゲは互いに視線を交わし合っていた。どうやら『煌鴟梟こうしきょう』の名が出た事で、色々と思うところがあったのだろう。

煌鴟梟こうしきょう』は元々このであり、ユウゲもまた煌鴟梟の多くの幹部と親しい間柄であった。こちらも直接はソフィの襲撃に関与を行っていたわけではないが、元を辿っていけばゲンロクと同様に関係があるといえるのだった。

 そしてふいにそんな事を考えていたイツキと、エイジの目が合った。互いにこれまで面識があったわけではないが、ここにきて何故か互いに互いの事が気に掛かった様子であった。

(ソフィ殿達から色々と話は聞かせてもらったが、どうやらこのイツキ殿とやらは、妖魔召士ではないようだが、決して侮れぬ魔力を有しているように感じる。少し警戒を強めた方が良さそうだ)

(こいつがゲンロクの爺さんの代わりに組織の長となったエイジって野郎か。成程、確かにそれなりにやりそうだ)

 そしてここにきて両者は戦ってもいないというのに、互いに互いを強者と認識して意識をし始めるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...