上 下
1,722 / 1,906
妖魔山編

1705.断言

しおりを挟む
「はぁっ、はぁっ……!」

 妖魔召士のコウエンは息を切らして、倒れそうになりながらも必死に立っていた。

 前時代の妖魔召士組織で『四天王』とまで呼ばれた最上位妖魔召士のコウエンだが、どうやら目の前に居る九尾の妖狐である『王琳おうりん』とは相当に実力に開きがあったようである。

「流石に参った、ここまでお主とワシの間に差があるか……」

 戦闘が始まってそれなりに時間が経つが、すでに満身創痍となっているコウエンとは違い、。それも明らかにコウエンは手を抜いて戦っているという事は、直に手を合わせているコウエンにも分かっていた。

「まぁ、そうだな。確かにお前の言う通り、俺とお前の間には覆す事が出来ない差があるのは間違いない。しかし勝敗は別にしても俺は十分にこの戦いを楽しめたぞ? お前は間違いなくこれまで俺が戦ってきた『妖魔召士』と呼ばれる人間達の中で強い部類に入っている」

 そう話す王琳だが、コウエンと戦闘が開始されてから一歩もその場から動いていない――。

 どれだけコウエンが『魔』を用いた『捉術』や『術』、それに『青い目ブルー・アイ』といった『魔瞳まどう』を織り交ぜながら戦おうと、その王琳には何一つ通用せず、その場から一歩も動かせないというのが現実であった。

 実際に目指していた九尾の妖狐である『王琳』と戦闘を行い、その差を分からされた上で言葉でも現実を突きつけられたコウエンだが、嘆くような言葉とは裏腹にその顔は清々しそうであった。

「やはりお主はワシの思った通りの……、いやそれ以上の強さをしておった。最初に申した通りにワシが全盛期の頃にぶつかっておればとまだ少し後悔はあるが、それでも当時のワシであってもだいたいの内容と結果は想像が出来たわい」

 その言葉に偽りはないようで、再び王琳との戦闘が再開されてからコウエンは、同志達を逃してもらう前に手を合わせた時とは違い、後悔のないように全力で戦った事で見えなかったものを見る事が出来たようであった。

「最後に教えてくれ九尾の妖狐よ、もしワシが恥も外聞もかなぐり捨てて全盛の頃に挑んでおれば、お主をは出来ていただろうか?」

「まぁ、

「そ、そうか……!」

 その王琳の言葉にコウエンは相好を崩すのだった。

「しかし技や魔力に拘っているだけであったならば、結局は今とそこまで結果は変わらなかっただろう。あくまで可能性があると俺が口にしたのは、お前が『』のというモノをしっかりと理解する事が出来ていたら、というがつく」

「『魔』の概念……。今のワシもそれなりに『捉術』や『魔瞳』といった『魔』の技法に自信があるつもりだが、これでは足りないという事なのか?」

 王琳は腕を組んだままで、何かを考えるように空を見上げた。

 ――どうやらコウエンにこの先を告げるかどうか悩んでいる、そういった表情をしていた。

 やがて何かを決意したように小さく溜息を吐くと、視線をコウエンに戻した。 

「お前らの扱う『捉術』といったか? その『魔』の技法、そしてそれに伴う威力に申し分はない。恐らくここから山の頂付近に居る連中でさえ、まともにお前の攻撃が当たれば、決して無視出来ない程の甚大なダメージを負う事だろうよ」

「そ、そうか……!」

 コウエンはこの『禁止区域』に居る妖魔達が相手であっても、自分の攻撃が通用すると他でもない『王琳』に認められた事で再び笑みを浮かべかけた。

 ――しかし、実際にはその王琳の続きの言葉を聴いて笑う事は出来なかった。

「だが、実際には

 ――ぴしゃりと言い放たれた王琳のその言葉は、異論を挟む余地はないと断言するものであった。

「もちろんこれはお前に限った話ではないが、一つだけ言えることはお前達『妖魔召士』と名乗る人間達は、これまでも、そしてこれからも俺達を恐れさせる事はないという事だ」

 先程まで笑みさえ浮かべようとしていたコウエンだが、その王琳の言葉に自分の顔が蒼白になっていく感覚を自覚するのであった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...